5月22日にとうとうグランドオープンを迎える「東京スカイツリー」。行きたいのはやまやまだが、チケットは7月10日までは完全予約期間で当日券の販売はない。
「そういえばスカイツリーについて何も知らなかったな」と手にした1冊の絵本。この『しごとば 東京スカイツリー』に一瞬にして惹きこまれた。

著者は絵本作家の鈴木のりたけさん。鈴木さんは様々な職業の仕事場と、使う道具から仕事の流れまでを紹介した絵本「しごとば」シリーズを刊行している。本書は「しごとば」シリーズの第4弾。

高さ634mものタワーは、どうやってつくられていったのか、どのような人が関わっていて、しごとばはどんな様子なのか。
本書では、鈴木さんが約2年半! もの歳月をかけて、スカイツリーをつくる現場を取材。

「スカイツリー建設というプロジェクトがあまりに巨大すぎて、プロジェクト全体のことを詳しく説明できる人がなかなかいないため、少し深いことを調べようとすると、各分野の専門の人のところに話を聞きにいかねばならず、自動的に取材回数が増えていきました。それは既刊の『しごとば』シリーズと違い、大変でした」と鈴木のりたけさん。

付属のエッセイマンガ「東京スカイツリー取材日記」には、「今回の絵本づくりのための取材回数は32回、修正を重ねた紙の束132枚、撮った写真1864枚、絵描き中、隣のマッサージにいった回数5回!」と書かれてあった。この絵本づくりも壮大なプロジェクトのひとつだ。

見開きで「タワーづくりにかかわった人たち」のページがあり、そこには実に様々な人たちが描かれている。
設計士、鉄工員、現場監督と職人たち、塗装工、風観測員、照明コンサルタント、内装デザイナーといった「現場」でイメージできる人たちから、また、言われてみればそうだよな〜と思う関係者の人たち。神主、墨田区担当職員、グッズメーカー社員、キャラクター作家、声優など。また、かみなり博士!?、スカイツリーマニア、レゴモデルビルダー、ソラカラちゃん、おしなりくん、カラスやカメ!? もいる。

「スカイツリーは皆が注目しているので、少しでも間違ったように描いてしまうと、途端にわかってしまうだろうという緊張感もありました。間違いをなくすために、取材先の方と何度もやりとりして、正確な原稿づくりにより一層尽力しました」

本書で感動したのは、照明コンサルタントが2種類の照明を日替わりでライトアップすることをシャワー中にひらめくお話であったり、「セミが360m地点でもくげき情報あり」といった描写。こういうのは、現場の人との日常会話の中でしか聞けないような気がする。


「取材先の方と直接会って話を聞く中で、出てきたものです。ひとまとめの総論を誰か決まった人に聞くのではなく、地道にひとりひとりの人間に会って話を聞く中でしか取れない情報なので、それが結果的に本の面白さにもつながっていることを考えれば、地道な取材は大変でしたが、よかったと思います」

溶接工の人が暑さ対策で「小型せんぷうき付きジャンパー」を着ていたことや、鉄工員の人の「朝8:00、工場に出勤。広い工場内を自転車で移動」などの描写も「へぇ〜」と思ったり。

例えば、クリーンオペレーターのタワークレーン運転席のイラストでは、計器やカメラモニターといった機器以外に「家族の写真」「カップめん」「ドリップコーヒー」「日焼けどめクリーム」などが置いてあるのがなんとも興味深い。「しごとば」シリーズで共通する、直接のお仕事とは一見関係のないイラストも描こうと思ったきっかけはなんだったのですか。

「実際のしごとばを取材すると、そのような一見仕事とは無関係なもののほうが、そこで働いている人の個性やパーソナリティーをよく表現しているのに気づきます。
子どもたちに、どんな仕事だって私たちと同じひとりの人間が、悩み、工夫して、時に失敗もして進めていくものだというのを、感じてほしかったですし、そういう仕事の側面を見てもらえれば、働くということに対するワクワク感を抱いてもらえると思っています」
「家族の写真を飾っていたんだなあ」と、より現場やその人の雰囲気を感じられて、大人の私も読んでいてワクワクした。

1点めずらしいと思ったのは、スカイツリーに携わった人々の中でも「広報」の人も大きく取り上げていることだ。
「スカイツリーの取材を進めていく中で、私と各取材先との間に立って調整をしてくれていたのが広報の方でした。やりとりをしていく中で、広報という仕事の幅の広さと、スカイツリーのイメージをつくっていくという仕事内容を知り、スカイツリーのしごとばというのは建設現場内にとどまらないということを実感しました。そんな思いから、現場監督や設計士などの職業と同列に描くことにしました」
ほか、観光客を人力車で案内する俥夫(しゃふ)、「タワーそば」を売るそば屋のおかみさんといった「地元の人びと」も同列に取り上げている。

2年半もの間、現場に触れ続けた鈴木さん。
鈴木さんご自身はスカイツリーをどのように感じたのだろう。
「現地のできあがったスカイツリーを見ていると、とてつもない最先端技術でつくった脅威のタワーのような印象を受けてしまうと思うのですが、実際につくったのはわたしたちと同じ一人一人の人間です」

「この『しごとば 東京スカイツリー』にはその人たちの顔がたくさん描き込んであります。本を開いてもらえれば、その顔といっしょに、手づくりでできあがったタワーなんだということがわかってもらえると思っています。東京スカイツリーに行く時に、そのことを頭に入れた上で眺めてもらえば、また違った楽しみ方ができるのではないかと思っています」

イラストの中には唐突に「にんじゃ」が登場!? していたり、2、3回と読むと、新たな発見ができるのも楽しい『しごとば 東京スカイツリー』。大人の人にも手に取ってもらいたい。
(dskiwt)