二股愛で日本中にその名を轟かせた塩谷瞬。
最近では、プロインタビュアー吉田豪に極貧の幼少期を語って再び話題になっています。

何かと話題に事欠かない彼ですが、目下、本業・俳優活動にいそしんでいるので、そのお仕事っぷりにも目を向けてみようじゃありませんか。

塩谷瞬が出演中の舞台は「トロイラスとクレシダ」。
原宿駅にモノクロの美青年だらけの麗しい公演ポスターが貼ってあって、
誰、この人たち、新しい韓流スター? と思った人もいるのではないでしょうか?
現在「GTO」でヤンキー警官を演じている山本裕典をはじめ、
「海賊戦隊ゴーカイジャー」の細貝圭、
「てっぱん」の長田成哉、
「仮面ライダーカブト」の佐藤祐基など、いわゆる若手イケメンが集まり、
さらに、舞台出身の、月川悠貴、内田滋を加えて、
若い俳優を育てることに定評のある蜷川幸雄演出のもと、男の俳優だけで本格的なシェイクスピア劇を上演するという企画です。

ここで塩谷瞬は、二股愛ではないですが略奪愛の人を演じていて、こりゃ何の因果で、と勝手に同情を禁じ得ません。
ともかく、「女の扱いに長けた男の生々しさ」を要求されて(パンフレットより)熱演中。
登場シーンからずっと、目ヂカラ、ギラギラ。

たくさんの人の中に混ざっていても、舞台の奥にいても、やたらギラついて、目立っています。このエネルギー量は俳優として大事な資質ではないでしょうか。
塩谷瞬が演じるディオメデスは、トロイ戦争によってギリシャに人質になった女性クレシダを恋人トロイラスから奪うという、物語に強烈なアクセントを加える重要な存在です。
ライバル・トロイラスとの一騎打ちのシーンも!
台詞回しは、この前の舞台が「土御門大路」という時代劇だったからか、やや時代劇口調だったような気がしますが、何を言っているかよくわかるものでした。
やるじゃん、塩谷瞬。
なんでも、海外の仲間や出会う人に「君はシェイクスピアをやるべきだ」と言われていたそうです(パンフレット情報)。
海外に仲間がいるなんてステキですネ。

塩谷瞬には、映画「パッチギ!」と並ぶ代表作にして頂きたい、この「トロイラスとクレシダ」、女性をめぐって国と国が戦争を起こしてしまうというものです。
シェイクスピア作品としては「ロミオとジュリエット」や「ハムレット」や「リア王」などと比べると、あまり知られていない、言わば通な作品。ちくま書房「トロイラスとクレシダ」(松岡和子訳)の中の「戦後の日本の主な「トロイラスとクレシダ」上演年表」を読むと、主な公演が今回入れて5回というレア作品でした。
ちなみに10月には、山の手事情社も東京芸術劇場シアターウエストで上演するようです。

この物語の発端は、トロイ戦争。

ギリシャ神話で有名なあれです。ギリシャの王様の妻ヘレネがトロイの王子パリスに奪われてトロイ戦争が起こったという話です。発端からして略奪愛です。
念のため、トロイ戦争というのは、ガンダムのホワイトベースの別名「木馬」がトロイ戦争に使われたトロイの木馬からとられたという説もあり、このトロイの木馬という名前は有名なウイルスの名前にもなっているという、割とおなじみ深いと思います。
で、それが、ひとりの女性を巡る略奪愛が原因だったとは、なんだかもう脱力してしまいますね。
そして戦争に巻き込まれて人質になって人生設計がめちゃくちゃになってしまうのも女性。
何かと弱き者が犠牲になる世の中なのでしょうか。

ただ、そんな悲劇の中でも、この物語の女性はなかなか凛として生き抜いていこうとしています。男性を、弁舌鮮やかにあしらうところは痛快です。
生きる強さは「ヘルタースケルター」のりりこと並ぶものがあります。
そうそう、ガンダムといえば、同じく富野由悠季監督の代表作「伝説巨神イデオン」もひとりの女性を巡って戦争が起きるお話でありました。
富野監督アニメにはギリシャ劇とシェイクスピア劇的なエッセンスがまぶされている気がするので、ファンの方はこの舞台も好きかもですよ〜。

前からずっと富野アニメ好きはシェイクスピア好きだと私は思っているんです(突然の主張)。

面白いのが、その女性を男の俳優が演じること。
それによって、その人の精神的強さが、くっきりはっきりしてきます。
また、女性だから、という見方にならずに、冷静に起こっていることが見えてくる利点もあるように思います。なんで人は戦争するんだろう、っていう
ことを引いた目で見ることができる。
女性を別のことに置き換えても見ると、どっちにしても、誰かの利益のために、たくさんの人が巻き込まれてしまうのが戦争なんじゃねーの。
ちょっともう、なんとかしてよー。っていう気分がもたげて参ります。
とはいえ、男性ばっかりだと、男性的には嬉しくないかなあ。

でも女装男子、やばいくらいキレイですよ!

一方、女性にとっては、キレイ男子の美しき、肩甲骨、上腕二頭筋、胸筋、腹筋などを眺め放題で、嬉しさいっぱいです。
俳優のお肌の張りも、しっかりわかります。漲る皮膚と筋肉っていいな!と舞台は思わせてくれるのです。

そんなふうにキャッキャッした気分で見ているうちに、若くて舞台経験が少ない男子たちが戦う者を演じていることで、
国と国との闘いってこういう人たちも否応なく巻き込んでいくんだなあとも思えてきたりもして。やるせなくもなったりするんです。ほら、ここ「ガンダム」と共通でしょ。
と、あんまりアニメの話をたとえに出していると「アニメじゃねーんだよ!」と巨匠演劇人・蜷川幸雄氏に怒られてしまいそうなのでやめます。

人間の悲哀という点で説得力をもたせるのが、「踊る大捜査線」シリーズのスリーアミーゴズのひとり袴田健吾副署長を演じている小野武彦。こちらは、年輪の深さで勝負です。
俳優座養成所を経て文学座という演劇人の中の演劇人という人の、スゴさを今回堪能できます。意外にもシェイクスピア劇初挑戦だそうです。
役はトロイラスとクレシダを仲介する役割の、クレシダの叔父パンダロス。名前がパンダ……ロスなんて愛嬌たっぷりで、実際、軽妙な笑い担当かと思わされるのですが、最後は……という奥行き深い演技を見せてくれます。踊るファンは「THEFINAL 新たなる希望」を観る前に応援に行ったほうがいいです。心からおすすめします。スタッフ、キャストからもスタンド花が来ています。それについた札も花屋さんの札じゃなくて特製で目立っておりました。
おっと。また「テレビドラマじゃねーんだよ!」という声がどこからか聴こえてきそうです。てへ。
 
話が逸れましたが、この舞台、最後がとにかくゾクゾクします。
舞台装置の鮮烈さと意味深さと、それを効果的に使った戦闘シーン、その先にあるものは……
深く掘り下げ甲斐のある演劇です。
(木俣冬)