第26週「みんなでわろてんか」第151回 3月31日(土)放送より。
脚本:吉田智子 演出:本木一博

最終回はこんな話
北村笑店総出の青空喜劇「北村笑店物語」が開演。芝居の途中、藤吉を演じていた田口一郎(辻本祐樹)が、亡き藤吉(松坂桃李)に、てん(葵わかな)には見えてきて・・・。
みんなの熱演によって、客席は満員、さらに天満風鳥亭の対面の祠のあった階段のところまでお客様でびっしり埋め尽くされた。
彼らを前にして、てんは終演後、挨拶する。
「笑うからこそ幸せになれる。そう信じています。
もし お隣にしょんぼりしてる人がいたら、どうぞ手ぇとって言うてあげておくれやす『わろてんか』」
夕暮れ、誰もいなくなった舞台の前面に、てんは、幽霊・藤吉と並んで座って語り合う。
てん「これからもわろてんか」
藤吉「(ふふっと微笑む)よろしゅう 頼んます」
てん「ふふふ」
一羽の小鳥が空を舞う。
万城目吉蔵作 青空喜劇「北村笑店物語」配役
てん 本人
藤吉 田口一郎 途中、本人
風太 本人
寺ギン シロー
リリコ 本人
伊能 隼也
亀井 本人
トキ 本人
キース・アサリ 本人
歌子 本人
林家ペー・パー子的な人 イチ お楽
語り 楓
演奏 シロー
柝 万丈目
トキ(徳永えり)がわざと下手くそに演じている器用さと風太(濱田岳)の芸達者ぷりが群を抜いていたが、寺ギンのシロー(松尾諭)もなかなか凄みがあったのと、隼也(成田凌)の伊能もハマり役だった。「伊能」を「きのう」と聞き間違えるコントには笑った。
亀井(内場勝則)は、役と俳優が完全に混ざっていて、その存在だけでただただ面白いという名人の域。
150話のレビューで気がかりだったイチとお楽(鈴木康平、河邑ミク)も、ハデなピンクの衣裳で、ようやく見せ場が・・・。
ビバ! ダイジェスト
「北村笑店物語」は、てんと藤吉が出会い、駆け落ちし、風鳥亭を買い取って寄席を始め、様々な苦難を乗り越えて、会社を大きくしていくまでの物語。
ドラマの最終回にはたいてい過去の回想シーンが出てくるものだが、「わろてんか」は151話のダイジェストを劇中劇で見せるという画期的な最終回となった。
このレビューの35話で、「わろてんか」35話。本編が総集編みたい。
と書いたが、その後も順調に、出来事の詳細がみごとに省略され、明治大正昭和と長きに渡る芸能の歴史のいいところだけかいつまんで描かれて最終回まで駆け抜けたうえ、そのダイジェストのダイジェストをこのように、吉本新喜劇のようなコテコテの劇中劇に昇華させた、じつに見事な決着のつけ方に惜しみない拍手を送りたい。
しかも、土曜日には、落語や漫才など、出演者渾身の芸を見せてきた流れのひとつにもなって、構成的にも美しかった。
主人公の亡くなった夫の幽霊をレギュラー化したことに関しては、
「わろてんか」139話。これは朝ドラ史にみごと爪跡を残したな、なぜならば
とレビューに書いた。それと、この最終回のアイデアの2点において、「わろてんか」は数多ある朝ドラのなかに埋もれることなく、キラリ光る星になったといえるだろう。
公共放送として思想が偏らないよう、大阪で生まれた吉本興業という笑いの会社を参考に、「笑い」という全人類共通のモチーフたったひとつで、あとは俳優の人間力でなんとかする、いわば芸能の原点に則って最後まで押し切った。それによって、輝く才能と輝ききれないものが明確に浮き彫りになるという、芸に対するある種の厳しさも感じられる、なかなかユニークなドラマとなったと思う。
野暮は承知でついでに書けば、芸能と劇場というものが神様への祈りとつながっているという本質が、
焼け跡に劇場を建て、そこで演じる(しかも笑いを)ことで描かれていた(あくまでさりげなく)
ところもなかなかのものであった。
おつかれさんでした。
おおきにありがとう。
(木俣冬)
『わろてんか』キャスト、スタッフ、主題歌
【出演】
葵 わかな 松坂桃李
濱田 岳 広瀬アリス 徳永えり 大野拓朗 前野朋哉
藤井 隆 枝元 萌 兵動大樹 内場勝則
大後寿々花 畦田ひとみ 鈴木球予 辻 凪子
北村有起哉 波岡一喜 中村ゆり 銀粉蝶 笹野高史
高橋一生 鈴木保奈美 鈴木京香 ほか
作:吉田智子
音楽:横山 克
主題歌:松 たか子「明日はどこから」
語り:小野文惠アナウンサー
制作統括:後藤高久
プロデューサー:長谷知記
『わろてんか』動画は下記サイトで配信中
・NHKオンデマンド
・U-NEXT