連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第6週「叫びたい!」第31回5月7日(月)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:

31話はこんな話


京大の受験を受けられなかった律(佐藤健)だが、無事東京の西北大学に入学が決まった。なぜ、律がみすみすセンター試験を断念したのか、その理由がわかる。


フランソワの活躍


私立のトップ・西北大学とは、都の西北♪ の校歌をもつ北川悦吏子先生の母校であることは明白。
その西北に律が進学することになった「クリアファイル取り違い事件」は亀のフランソワの仕業だった。
言われてみれば、フランソワは戸も自分で開けられると事前にアナウンスがされていた。これぞ、みんな(
SNSユーザー)大好き、「伏線」である。
律が京大受験に失敗して東京の大学に行くことはドラマの本線だから、どうやってそうさせようと思ったときに、亀をペットに飼う設定をつくっていたとしたらすごいと思う。実際のとこ、亀が先か後か、どうなんだろう。

それにしても、先走って京都(といっても市内ではない)の大学に決めてしまったブッチャー(矢本悠馬)が
切ない。

弥一の活躍


受験も終わり、楡野家が総動員で萩尾家に謝罪に来た。もう何度目だ、楡野家の謝罪。
弥一(谷原章介)が律の心の真ん中を洞察して語る。
律のプライドはチョモランマ(エベレスト)よりも高い。それは、子どもの頃から、家族や町内全体が期待していたからで・・・。それに、じつは京大に受かるか難しいところだったと楡野家に明かしてしまう弥一。

ここはまじめなシーンなのと、律の心理の説明なので、へたすると単調になってしまうところ、宇太郎(滝藤賢一)が、エベレストとチョモランマの話を持ち出したり、西北を私大のトップ!と持ち上げたりして空気を変える。

滝藤賢一、ナイス。谷原章介もただのエレガント専門俳優かと思ったら、宇太郎に持ち上げられて、まんざらでもないように顔をほころばせることで、このように淡々としているが、心の中では律のことをとても心配しているのだろうと思わせる。宇太郎がふざけてくれて気が楽になっている感じがした。一方、和子(原田知世)は息子が褒められて本気で喜んでいる人の好さが出ている。
滝藤、原田、谷原の表情をしっかり見せる田中演出。先週の土井演出も律の受験票がなくてはっとなる表情の流れをちゃんと抑えていた。演出陣は俳優の芝居(心がほんとうに動く瞬間)を大事にしているのを感じる。

私は悲しい


和子が律は「心の真ん中のところを人に言わないんです」と言って、「心の真ん中のところなんておいそれと人には言わないのではないかと鈴愛以外全員が思っていました」とナレーション(風吹ジュン)がツッコんだ。
なぜ、鈴愛以外、なのか。
鈴愛は、いつだって、心の真ん中をド直球で語っているから。
サブタイトルも「生まれたい!」「聞きたい!」「恋したい!」「夢見たい!」「東京、行きたい!」「叫びたい!」と気持ちいいくらい思いのまんまだ。

彼女の台詞は英語のよう。
たとえば、「私は悲しい」。

日本語だとたいてい、なんとかかんとかだから私は悲しい となるが、英語は最初に「I'm sad」と来て、そのわけなど周辺状況は、あとからついてくる。そのほうがテレビ的には伝わりやすい。

そして、律も「捨てないで」。
この捨てないでは、笛が律を縛っていたのではないかと思った鈴愛が川に捨てようとして、律が止める台詞だが、「Don't throw away」よりも「Never Let Me Go」(私を離さないで by イシグロカズオ)なんだろうと想像する。

夢だった永久機関が作れないと気づき、学力も落ちる一方だった律は、漫画家の夢を持ち東京に出ていく鈴愛が自分を置いて飛んでいってしまう気がするのだろう。同じ日に生まれた双子のような存在だから、よけいにその差が気になる(萩尾望都の「半神」(84年)、吉野朔美の「ジュリエットの卵」(88〜89年)に代表されるように双子の差異はドラマになる)。
「ずっと一番だった人間は弱い」(律)が、片耳を失聴し人間として弱くなった鈴愛と対比になる。
最後、「これは捨てないでください」が「おれを捨てないでください」にも聞こえるような気がした。

このとき、ついに鈴愛の手(手首だけど)触れるところにもドキ。
こういう思い切りロマンチックな見せ場をつくることのできる作家は、北川悦吏子をおいていない。
「半分、青い。」31話。佐藤健が「捨てないで」 
『ジュリエットの卵』吉野朔実
双子の男女のラブストーリー。少女漫画は文学であり神話であると思わせてくれる傑作。美しき双子の兄の水は佐藤健に似合いそう。
漫画家編になったら、くらもちふさこ(秋風羽織)のほかに当時の伝説の漫画が出てくるだろうか。

ごごナマ 昼青受け


「ごごナマ」は滝藤賢一と松雪泰子が登場。
あの屈指の名場面と同じ場所・川べりでの鈴愛と律の場面を優しくみつめる姿は、ほんとうに父母のようだった。
ふたりで東京に行けてよかったという船越英一郎に対して美保純は「東京いくと湖とかないし・・・」と斜めから見る。
有働×イノッチの朝ドラ受けは、ふたりして素直に肯定的で、たまに、柳澤がひねった角度の見方をしていた。
おそらく、美保は柳澤の役割を引き受けているのだろう。
現在の、華丸大吉×近江 はまっすぐとかひねったとかよりも変則的で、にゅる〜っとした酔拳みたい。
(木俣冬)
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