連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第9週「会いたい!」第52回5月31日(木)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

52話はこんな話


鈴愛(永野芽郁)は菜生(奈緒)に餞別にもらったカエルのワンピースを着て(カーディガン着用)、正人(中村倫也)と花火をすることになった。

鈴愛、いよいよファーストキス?


ベランダから見かけた、律(佐藤健)と歩いている清(古畑星夏)の姿に驚いて「誰?」と子猫のミレーヌに聞く正人は最高にかわいい。まったくたらしには見えない。
正人がただの動物好きの素朴な人だったらいいのに「半分、青い。」はそうじゃない。

鈴愛と電話で話すとき、鈴愛と公園で花火しながら話すとき、例の訛りをごまかす一文節しか話さない喋り方でなんかかっこつけている。目的があるから人は変わる。正人の目的は“女”である。

女を手に入れるために、ゆる〜い優しさを振りまく。
引っ越す話を持ち出すのも、そうやって鈴愛の心を動揺させる作戦なのではないか。だとしても別に悪人ではない。十代なんだし、本能が発動するのは仕方ないことだ。犬を飼うようについついつきあう女の人が増えていくとめどもない男・正人を中村倫也がいい塩梅に演じている。

正人「鈴愛ちゃん 金魚みたい」
鈴愛「金魚すくってください」
こうしてまんまとキスにもっていくくだりを北川悦吏子先生のノベライズ(文春文庫)の描写から引用してみよう。

“マサトは静かに、スズメに顔を寄せ、そして、唇に近い頬に小さくキスをした。
 そのまま息のかかるほどの距離で、マサトはスズメを見つめる。
スズメは息を止め、視線を返した“

果たしてこの先は・・・
「しそうでしないのは朝ドラと韓流ドラマですよ」と華丸は「あさイチ」でこう言った。
ちなみに、キスシーンといえば「あまちゃん」(13年)128話。伝説の前髪クネ男(勝地涼)回。
撮影でクネ男と初キスするのがいやなアキ(現・のん)は種市(福士蒼汰)とキスをするが、したところは画面に映らない。それが逆に初恋の甘酸っぱい感じを盛り上げた。

トイレとYes─No


律「間に合った」
清「間に合った」
何が間に合ったって尿意である。
公園でトイレに行きたくなって、慌てて男子の家に行って用を足すというシークエンスは斬新。
あの公園(ノベライズによると「イルカ公園」で、鈴愛と律の家の真ん中あたりにある設定)に、自販機や祠や掲示板など細かく飾りこんであったにもかかわらず公衆トイレがなかったのはこのせいか。

鈴愛の恋気分が盛り上がっているところに流れたオフコースの「Yes─No」
(80年)の歌詞に「君を抱いていいの?」という歌詞があって、優しい歌で人気だった小田和正がこんな過激な歌詞をと発表当時騒ぎになったそうだ。小田和正好きの北川悦吏子にとって「半分、青い。」は「Yes─No」のようなもので、“朝ドラ”に風穴を開けようとしているのかもしれない。テレビドラマや流行歌というポップなものに大事なのは、大衆の心をとらえるインパクトなのだ。
「半分、青い。」52話「あさイチ」華丸朝ドラ受け「しそうでしないのは朝ドラと韓流ドラマですよ」
「YES─NO」フコース 東芝EMI

わざわざ部屋に呼びながら、その日はそのまま帰る清。 でも明日もまた会う約束をとりつける。

「はぐれていた迷子が・・・」云々という背中がもぞもぞする台詞が登場した。
恋をするとひとは詩的な台詞を吐くのだろうか。
というか、鈴愛が漫画を描くための体験と重ねたリアル恋愛エピソードなので、少女漫画のような台詞が
出てきて、後の鈴愛の漫画に生かされるという寸法であろうか。

電話コント


恋することを決意した鈴愛。正人に電話をかけようと公衆電話に向かう。手帳に電話番号がメモってあるのが、郷愁を誘う。
そこへ電話がかかってくる。正人くん? と思ったら母・晴(松雪泰子)から電話。
「最近、(食堂)暇やし」(前から暇だろうという気もしないでない)と東京に来ると言う。
次にまた電話。今度は律。「(運命の人・清に)出会ってしまった」と鈴愛に報告。
それにしても、鈴愛は人の話を聞かない。
ギャグではぐらかしたりさっさと打ち切ったり。それでいて自分の話はたくさんする。でもそういう人、いるいる。
ここで讃えたいのは、清野菜名のリアクション。落胆を表すカラダの崩れ方とかうまい! この人、端正な美人なうえに芸達者!!

ベタファーからネタファーへ


それにしても、シモネタを想起させるような隠喩(律の亀、正人の猿のぬいぐるみ)や言葉遊び(「明日、しようか 花火」))は夜のドラマ「昼顔」ならいいけれど、朝ドラでしかも十代の恋愛でなぜ入れるのか(私の歪んだ妄想ですか)。14話で律と清が出会ったときの的に弓が命中するようなベタなメタファーを「ベタファー」と呼びたいと書いたが、明らかにネタっぽいのは「ネタファー」と呼ばせていただきたい。
(木俣冬)
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