今、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の最終回を観終わったばかり。正直、まだ地に足がついてない。
「吹っ切れるにはまだ時間がかかりそう」とは黒澤武蔵(吉田鋼太郎)のセリフだが、こちらも落ち着きを取り戻すのに少し時間がかかりそうだ。
「おっさんずラブ」完璧なエンディングは成長と本心があればこそ。切なくない牧を見たのは初めてだ
3話より
イラスト/Morimori no moRi

押し掛け女房・武蔵の“あげまん”


牧凌太(林遣都)と別れ、ルームシェアを解消し、生活が堕落する一方の春田創一(田中圭)。見かねた武蔵は、面倒を見に春田宅へ通うようになった。そして、なし崩し的に同棲生活へ突入! 武蔵の押し掛け女房作戦は成功した。

その後の春田は、仕事も私生活もみるみる成長。春田と暮らす新旧の同棲相手は、タイプが全く異なる。
●牧
ドSのくせに甘やかす男。叱責しながら、なんだかんだ家事を一手に引き受ける。
●武蔵
乙女のくせに育てる男。春田は自ら食事前にテーブルを拭いているし、ティッシュを入れたまま洗濯物を出すこともなくなった。「やればできるじゃん!」と、ほめて伸ばすのが武蔵は上手。上司のスキルが窺える。

ノってる男は、万事がうまくいく。
春田の営業成績は急上昇し、今や牧やマロ(金子大地)の数字を上回るようになった。

このドラマ、言ってしまえば春田&牧の成就を望む声が多数だった。俗に言う「牧春派」。春田の成長は喜ばしいが、牧がふと見せる仕草を見逃すわけにはない。春田は牧に関して「ごく普通の先輩、後輩の仲に戻った」と説明している。……んなわけねえだろっつうの<(C)春田荘一>。春田とのやり取りの中、切なげな表情を覗かせる牧。やっぱ、未練あるんじゃん! 春田の上海行きを聞いた時なんて、弱ったチワワにしか見えなかったし。でも、取り繕う。それが、余計に不憫なのだが。
「おっさんずラブ」完璧なエンディングは成長と本心があればこそ。切なくない牧を見たのは初めてだ
4話より
イラスト/Morimori no moRi

牧の本心を引き出しにかかるちずと武川


牧の周囲は、彼を見守る理解者が多い。春田への想いを抑える心中を、元彼の武川政宗(眞島秀和)が見透かしていた。
「お前がそうやっていつまでも春田と向き合わないから、俺はお前を諦めきれない! 相手の幸せのためなら自分は引いてもいいとか、どっかのラブソングかよ。
そんな綺麗事じゃねえだろ、恋愛って」(武川)
未練をさらけ出してまで、牧の本心を引き出しにかかる武川。「自分の幸せより相手の幸せ」のままなら、待っているのは後悔だけだ。

かつては恋敵だった荒井ちず(内田理央)も、牧の様子に黙っていられない。
「つらいんでしょ、2人(春田と武蔵)を見てるのが? 私はつらかったよ」(ちず)
ちずも、武川も、牧を気にし続けている。自ら本音をさらけ出すことを厭わずにだ。そして、牧も口を開いた。
「つれえ……(笑)」
「結局、自分が傷つく前に逃げただけですね。そんないい奴じゃないですから、俺」
「春田~っ! もう! っていうか、なんで部長なんだよ!! っていうか、結婚ってなんだよ!! 押しに弱すぎだろ、バカーッ!! ああ~……!」
やっと、気持ちを出した牧。牧の貴重な本音だ。彼は変わりつつある。
「おっさんずラブ」完璧なエンディングは成長と本心があればこそ。切なくない牧を見たのは初めてだ
4話より
イラスト/Morimori no moRi

「成長」と「本心」でたどり着いたハッピーエンド


途中までは快作だったのに、最終話でなぜか肩透かし。そんなドラマは、意外に多い。
『おっさんずラブ』は、我々の心配を見事吹き飛ばしてくれた。貴島彩理プロデューサーが、こんな発言を残している。
「いろいろ幸せの形があると思うんですけど、ちゃんとみんな笑えるラストにしてあげたいと思っています」(日刊スポーツ/5月19日)

昨日の放送を観た人なら、納得できる言葉。ちゃんと、皆が笑顔になれるエンディングだった。第6話(先週)では牧春派をどん底に落とし、最終話の中盤までヤキモキさせ、最後の最後で昇天させる。溜めを効かせた流れにしてやられ、自分はまだ地に足がついていない。

最終話について言いたいことは山ほどある。でも、あと少し時間がほしい。その辺、明日更新の記事にしっかり綴らせていただきたいのだ。予告しておくと、ネタバレはあり。悪いことは言わないので、未見の方は最終話をぜひ御覧いただければと思う。

今まで、「『おっさんずラブ』は恋愛ドラマであり成長物語である」と繰り返し述べてきた。
この構造、最終話に最も顕著だった。武蔵が成長してるし、牧は成長したし、なぜかマロが成長している。そして、最後の最後で春田が見せた成長に泣けた。それぞれの成長があるから、「みんなが笑えるラスト」へたどり着くことができた。

そして、“本音”だ。「自分の幸せより相手の幸せ」を通そうとする牧。その態度を、春田は本音で突き破った。流されっぱなしの春田が見せた成長が、牧の本心を引き出したのだ。
「俺、もう我慢しないって決めたんで」(牧)
切なさを滲ませない牧を、初めて見ることができた。

明日の記事(6/4アップ)では、「牧春」の掘り下げだけでなく、器量と男気を見せた武蔵についてもフォローしなければならない。最終話のMVPは、実は彼なのだ。
誰も寂しくならない、こんな完璧なエンディングになるなんて思ってもいなかった。

(寺西ジャジューカ)
「おっさんずラブ」完璧なエンディングは成長と本心があればこそ。切なくない牧を見たのは初めてだ
5話より
イラスト/Morimori no moRi

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「おっさんずラブ」完璧なエンディングは成長と本心があればこそ。切なくない牧を見たのは初めてだ
6話より。明日は最終話レビューをみっちりお届けします。お楽しみに
イラスト/Morimori no moRi
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