眉村ちあき、満を持してTIFに登場
今年のTIFでは、すでにTIFに出演するにふさわしい活躍を見せていたアイドルが何組か満を持して登場した。ここでは「待ってました!」枠とでも名づけたい。
TIFでも複数のステージに出演し、強烈な印象を残した。初日の8月2日には、TIFのメインステージであるHOT STAGE(Zepp DiverCityに設置)に登場、眉村と親しいライターの吉田豪とスタッフたちが騎馬を組み彼女を乗せてステージ上を駆けまわったりとやりたい放題。続いて3日目にフジテレビ湾岸スタジオ内のINFO CENTREで催された「ニッポン放送『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』トークステージ」にもゲスト出演し、トークでは前々日のステージについていつもあまり接することのない若い観客を前に緊張したことを明かしつつ、最後はメジャーデビュー曲「大丈夫」を披露して締めた。
眉村とともに、私が以前からTIFへの出演を期待していたのが、新しい学校のリーダーズである。セーラー服がトレードマークの4人組ユニットで、「つまらない現代社会を強く・楽しく生きるべく、個性を発揮し、許される自由を見つけることで/社会に怒られないレベルでアンチテーゼを投げかけ、【はみ出していく】小さな小さなレジスタンス」(公式サイトより)とのコンセプトのもと、ステージでは曲とともに寸劇など独特のパフォーマンスを披露している。
私がこのグループを初めて観たのは、一昨年、名古屋で開催されたアイドルフェスでだった。ちょうど彼女たちが、剛力彩芽主演のドラマ「女囚セブン」の主題歌「毒花」をリリースしたころで、昭和歌謡風の楽曲もさることながら、その独特のパフォーマンスに見事にハマってしまった。
TIFでは、フジテレビ社屋横に設けられたDREAM STAGEで彼女たちのライブを観た。1曲目「恋ゲバ」を披露したあと、「休め」「気をつけ」と号令をかけ観客にあいさつ。
あのバーチャルアイドルグループもTIFのステージに立つ
先にあげた2組を含め、今年TIFに初登場したアイドルは全212組中78組を数えた。ハロー!プロジェクトの新グループBEYOOOOONDS(ビヨーンズ)もその1組で、今月7日のメジャーデビューを前に、大のハロプロファンとして知られる女優の松岡茉優が、ツイッターの公式アカウントで猛プッシュするなど、注目されている。TIFには初日に出演、単独でのステージのほか、ハロプロの先輩であるBerryz工房(2015年に活動休止)の名曲をメンバーの夏焼雅(現PINK CRES.)と一緒に歌うスッペシャルステージにも登場した。
今年のTIFでは、ハロプロからBEYOOOOONDSのほか、こぶしファクトリーとつばきファクトリー、さらにアンジュルムも出演した。アンジュルムは、旧名のスマイレージとして出演して以来、5年ぶり2度目のTIFとなった。この間、新メンバーが加わり、今年6月には結成以来キャプテンを務めてきた和田彩花が卒業、新たなキャプテンに竹内朱莉が就いた。出演したHOT STAGEでは、竹内新キャプテンのもと、代表曲「大器晩成」のほか、「夏将軍」など夏にふさわしいセットリストでステージを熱くした。
初出演組ではこのほか、バーチャルアイドルグループとして初めて「えのぐ」が出演した。HOT STAGEに設置されたモニターのなかで、2次元のアイドルがリアルタイムで歌って踊っていると思うと何とも不思議だ。ただ、惜しかったのはモニターがそんなに大きくなくて、ステージと観客のあいだにちょっと距離が感じられたこと。
やはり今回、TIFに初出演したが、私は残念ながら都合がつかず見ることはかなわなかったのが鶯籠(とりかご)である。その名のとおり東京・鶯谷を拠点にしながら、大阪や名古屋など地方でもライブ、イベントを積極的に開催している。後日、公式サイトでスケジュールをチェックしたところ、8月16日(TIF15日目!)に名古屋のライブハウスでライブが行なわれると知り、行ってきた。そこではメンバーたちのあどけないルックスからは想像のつかない激しいパフォーマンスが繰り広げられ、観客もそれに合わせてジャンプしたりリフトアップしたりと大いに盛り上がる(ちなみにTIFではいずれの行為も禁じられている)。メンバーのひとりPINOCOが歌いながらステージから観客に向かってダイブしたかと思うと、仰向けの状態で客らに持ち上げられ、そのままステージに戻ったのには驚いた(『風の谷のナウシカ』で王蟲の触手に持ち上げられるナウシカを思い出した!)。結構危ないパフォーマンスだが、これができるのもメンバーとファンの信頼感あってのことなのかもしれない。
アイドリング!!!が卒業以来4年ぶりに再結成
TIFは、今年で10周年を迎えた。一昨年よりチェアマンを務める指原莉乃は、今春、HKT48を卒業してから初めて迎えるTIFとなった。タレント活動の一方で、アイドルのプロデュースに手がける指原だが、今年はそのうち「=LOVE(イコールラブ)」とともに、その姉妹グループ「ノットイコールME」(「ノットイコール」は正しくは=の上に/と表記)もTIFに初出演した。
昨年メジャーデビューを果たした大阪・春夏秋冬(「・」は正しくは星印)は、湾岸スタジオ屋上のSKY STAGEで10周年を祝い、TIFにやって来た女性ファンたちという設定で寸劇を披露していた。自分たちが世間に“見つかる”きっかけをつくってくれたTIFへの感謝を込めて、あえてこのステージにかぎって歌は1曲のみ、寸劇を中心に披露することにしたという。
10周年記念企画としては、初期TIFのイメージキャラクター的存在だったアイドリング!!!の再結成もあげねばならない。初日午前中のSMILE GARDENには、4年前の卒業時のメンバー12名が出演し、持ち歌を披露した。今回集まったメンバーは、「めざましテレビ」のリポーターを務める横山ルリカや深夜バラエティ「ゴッドタン」に出演する朝日奈央など、グループ解散後もバラエティやドラマへの出演、あるいはモデルなど各方面で活躍している。それが今回、再び一堂に会したことに、初期のアイドリング!!!を追っかけていた者としては感慨深かった。TIFのオープニングに、TIFのテーマソングともいうべき「職業アイドル。」が聴けたのもうれしかった。なお、今回のTIFでは、アイドリング!!!の派生ユニットであるNEO fromアイドリング!!!も復活している。
NGT48の活動再開にファンから「頑張れ」の声が上がる
さて、今年のTIFでは、いくつかの事件が絡んでいたことも触れておかねばならない。出演が予定されていたi・Ris(「・」は正しくは星印)とわーすたに対し、危害を加えるとの内容の予告がSNS上に投稿されたことが、開催を前に判明。これを受けて、i・Risの出演はとりやめられ、わーすたも特典会が中止された。残念ではあるが、メンバーと来場者の安全を最優先に考えれば、運営側もこのような対応をとらざるをえなかったのだろう。
ただし、わーすたは特典会は中止になったものの、ステージには出演している。湾岸スタジオ内に設けられたDOLL FACTORYでは、警官立ち会いのもとパフォーマンスが行なわれた。
事件がらみでいえばもう一つ、元メンバーの山口真帆への暴行事件により3ヵ月間、活動休止状態となっていたNGT48が、TIF2日目の8月3日朝、SMILE GARDENに出演した。
この事件については、発覚後の運営の対応の不手際もさることながら、ほかのメンバーの関与が疑われながら、その後発表された第三者委員会による調査報告書ではそうした事実はなかったとされたことといい、さらに被害者である山口真帆がグループを卒業する結果になったことといい、いまだ釈然としないところも残る。一方で、さまざまな憶測が流れ、はっきりとしない情報にもとづきメンバーがバッシングを受けたことにも、違和感を覚えた。
事件は社会的にも大きな関心を集めただけに、今回のステージは、新聞やテレビの取材も入るなか行なわれた。まず、荻野由佳が「きょう私たちがこのステージに立たせていただいたのは、NGT48、34人全員でパフォーマンスをさせていただきたいとの私たちの思いから、スタッフの方にお話をして今回このようなステージを設けていただきました。心から感謝をしています。本当にありがとうございます」とあいさつすると、観客から拍手が起こった。このあと、「Maxとき315号」をはじめ5曲を披露。途中、すでに8月末をもっての卒業を発表していた村雲颯香に対し、観客から「もふちゃん」コールも上がった。村雲は、山口の卒業公演に、メッセージを伝える形で参加していた。
NGTはTIF出演から半月後の8月18日、新潟のNGT劇場で公演を再開。あわせて8月31日に村雲の卒業公演が行なわれることも発表された。グループとしては、今後は活動を通して誠意を示しながら、失った信頼を回復していくということだろう。
アイドル関係の事件といえば、TIFの直後には、日向坂46からの卒業を発表していた柿崎芽実が、その理由をストーカー被害だと告白して衝撃を与えた。またTIFの会期中には、あいちトリエンナーレで開催されていた「表現の不自由展」が、脅迫メールやファックスが多数送りつけられたため、中止に追い込まれるという事件もあった。先述のTIFに対する危害予告といい、自分の気に入らないものを暴力をちらつかせることで屈させるケースがあいついでいることに、強い憤りを覚える。
楽しいはずのTIFのレポートを、一部の心ない人物のせいで、こういう形でまとめざるをえないのは、じつに残念である。来年もTIFが開催されるのならば(オリンピック・パラリンピックとの兼ね合いで開催時期がずれる可能性もありそうだが)、アイドルをめぐる状況も、社会全体も明るさを取り戻したうえ、ファンが心の底からステージを楽しめるよう、祈らずにはいられない。(近藤正高)