第11週「家族のうた」53回〈6月10日 (水) 放送 作・嶋田うれ葉 演出・松園武大〉

「エール」53話 金にもの言わす裕一に弟は反発。お父さんの命があとわずか? どうなる古山家
イラスト/おうか

53回はこんな話

裕一は福島の実家で凱旋祝をしてもらい、過去のわだかまりが解けたかに見えたが、弟の浩二(佐久本宝)の態度は冷たく、三郎は病を抱えていた。

お父さんが病気

裕一の凱旋祝の席で「俺の才能を受け継いたんだ」とはしゃぐ三郎。「歌手か役者にって言われたこともあったんだ」と三郎が自慢すると、音が笑う。なぜ、そこで笑う。
笑って盛り上げるという高度な技術を用いているのかもしれないが、失礼と感じる視聴者もいると思うぞ。

一方、姑・まさには殊勝な嫁っぷりを発揮する音。宴会終了後、音がまさの洗い物を手伝いながら「華を生んでから義母さんがどれだけ裕一さんを思っとったかわかった気がします」と言ったことで、母をリスペクトしていることがわかる。

翌朝、ようやく母の味噌汁(具だくさんで白味噌?)の味も学べ、姑と嫁の仲は良好。もしかしたら、義父には多少毒をもって接してもかわいがられることがわかっていて、義母にはひたすらおとなしく接したほうがいいという音の知恵か。

姑の子供を思う気持ちはわかった音だが、舅の、見栄を張りたい、おどけたい気持ち(木枯の「男のやせ我慢〜♪」ってやつ)はわかっていなそうな音だったが、カラダの調子が悪そうなことには気づいていた。
三郎が「ウッ」とかなり大層に痛がっていたから気づかないほうが問題である。

まさから「胃潰瘍」だと聞き、心配になった音は、裕一にしばらく福島にいないかと提案する。

二階堂ふみはちゃんとたすきがけもできるし、皿も洗いながら他者の話を聞き、重要なところでは手を止めるという感情と動作の関係性がうまくコントロールできている。優秀な俳優だなあと思う。

「たった一曲売れたぐらいで大作家気取りかよ」


宴会でわいわいやっていると浩二が帰ってくる。何も聞かされてなかった浩二があからさまにいやな顔をする。朝から晩まで役場で働いて、疲れて帰ってきたら、裕一が持ち上げられていたら気分はよくないだろう。


「たった一曲売れたぐらいで大作家気取りかよ」と相変わらずの毒舌。
そんなことを言ってしまうのは、三郎がじつは胃がんで本人に隠してみんなで耐え忍んでいるからだった。

なんにも知らないで、悠々自適の裕一。
滞在費だからとお金をまさに渡したりして、それもまた浩二としては気に触る。なんとも苦い。

裕一が背が高く肩幅も大きくて、浩二は小柄。
弟とはいえ、体格的にも差がついてしまっている。見た目からして、裕一が選ばれた者――将来を嘱望された天才作曲家感があるのである。

「エール」53話 金にもの言わす裕一に弟は反発。お父さんの命があとわずか? どうなる古山家
写真提供/NHK

なぜこんなに持つ者と持たざる者を歴然とさせるのか。確かに人間の光と影は朝ドラ名物でもある。主人公が前向きに夢を叶えていく傍らで、誰かが割を食うのが常。「あまちゃん」だとアキに対しるユイ。
「あさが来た」だとあさに対するはつ。「なつぞら」だとなつに対する千遥などなど……。でも浩二ほどひたすら影な役割に徹しているキャラも珍しい。状況も言動もすべてが陰々滅々。悪者でもなく、ただ不幸な境遇を一身に背負っている。現実ではこういうついていない人もいるが、ドラマなのだからもうちょっと影の人物にもいいことを描いてあげてほしい。


毒舌だが、裕一のレコードを持って、たそがれている姿には、兄に対する愛憎を感じる。
裕一もまた、浩二が唯一大事にして持っていてくれた川俣土産(スノードーム)を手にする。
才能があってそれを伸ばすことができた者と、家を守るためにただただその日その日を懸命に生きてきた者。
運命ってそういうものというふうに片付けたくないものである。

浩二に父の話を聞いて、ひとり立ち尽くしているとき、赤い椿が一輪咲いている。このラストカットは鮮烈だった。


哀しい脇役

浩二の哀しみに輪をかけたのが「あさイチ」の近江アナのコメントである。52回の宴会にてっきり浩二もいたと思って見ていたとコメントしたのだ。ハモニカ倶楽部の楠田史郎 (大津尋葵)と浩二を間違えていたらしい。ちゃんとわかって見ていたのは華丸だけ。

先日の高瀬アナの、おでん屋をラーメン屋と間違えた件といい、朝ドラ推しが使命のはずが、最近、様子がおかしい。おそらく、コロナ禍対応のあれこれで、朝ドラをゆっくり見ている余裕がなかったのだろう。
もしくは、近江アナは、視聴者にわかりにくい部分を、自分を貶めることで伝えたのかもしれない。

ちなみに、史郎は、53回で、ハモニカ倶楽部を辞めたと語っている。この人も、好きなことをできる余裕がなくなっているようだ。三郎だってそもそも三男で自由に生きられるはずだったのが、兄がふたりとも死んで喜多一を継ぐ羽目になった。もしかして本当は歌手か役者をやりたかったけれど諦めたのかもしれない。この宴会で、裕一以外には、好きなことをやれている人はいなかったんじゃないだろうか。

先読みしすぎもよくないけれど、モデルの古関裕而が戦争によって軍歌が売れて地位を確立していくことを知っていると、裕一も誰かの不幸を基盤にして幸福になっていくというなかなかにヘヴィな運命をもっていることがさりげなく描かれているようで、ちょっとこわくなる。あとあと、このシーンを見ると、ぞわっとなるんじゃないだろうか。

「エール」53話 金にもの言わす裕一に弟は反発。お父さんの命があとわずか? どうなる古山家
写真提供/NHK

藤堂先生とお父さん

裕一を福島に呼び寄せたのは藤堂先生。彼が呼ばなかったら三郎の体調が相当悪いことにも気づかないままだったかもしれず。藤堂先生はいい仕事をしたといえるだろう。

教師を辞めるかもと以前言っていたことが、恋多き女・昌子に捕まって結婚しちゃったこと以上に気になっていたが、軍人である父・藤堂晴吉(遠藤たつお)が登場した。もう退役していたが満州の視察に参加することになったと言う。

「お前も親になれば戦うことの意味がわかる日がくる」とお父さんが言うと、昌子のお腹で赤ちゃんが動く。「この子は強い子になりますよ。おじいさんの血を受け継いでいますからね」と明るい声で、義父と夫の手をお腹に触らせる昌子。彼女の聡明さがこの父子の救いになっている感じがするが、お父さんの「戦うことの意味」っていうのはフラグっぽい。

藤堂先生の家にも「船頭可愛や」の赤レーベルが飾ってあった。ヒットが大スター・環の手柄に取って代わられ、藤丸はおでんやで管を巻いていたが、ちゃんと藤丸の歌も愛されている。それだけは救い。
(木俣冬)

東京編の主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

●福島の人々
藤堂清晴…森山直太朗 裕一の担任。音楽教育に熱心で、裕一の音楽の才能を「たぐいまれなる」と評価する。一時、教師を辞めて実家に戻ろうと悩んでいたが、まだ教師を続けている。

古山三郎…唐沢寿明 裕一の父。福島の呉服屋・喜多一の三男坊。兄ふたりが亡くなったので店を継いだ。商売がうまくなく借金で喜多一が窮地になり、そのかたに裕一をまきの実家の養子に出す。

古山まさ…菊池桃子 裕一の母。実家がお金持ち。三郎や兄の茂兵衛の言うままで主体性がない。

古山浩二…佐久本宝 古山家の次男。裕一の2歳下。喜多一を継いだことで割りを食い、兄ばかりがやりたいことをしていると不満を募らせる。喜多一をたたんだのち、役場で働く。

落合吾郎…相島一之 権藤家が経営している川俣銀行の支店長だったが転職。自暴自棄な裕一に優しく接する。独身。
菊池昌子→藤堂昌子…堀内敬子 川俣銀行事務員だった。バツ3だったが藤堂と結婚。妊娠中。
鈴木康平…松尾諭 川俣銀行行員だったが転職。ダンスホールで出会った女性と結婚したが離婚。
松坂寛太…望月歩 川俣銀行若手行員だったが転職。かつて、裕一の情報を茂兵衛に報告していた。

大河原隆彦…菅原大吉 喜多一の番頭。実直な人物。

楠田史郎…大津尋葵 小学校で裕一を虐めていたが、福島ハーモニカ倶楽部で裕一と仲良くなる。

佐藤久志… 山崎育三郎 裕一の小学校に転校してきた。県会議員の息子。東京で裕一と再会する。

村野鉄男… 中村蒼 魚屋・魚治の息子。父の都合で夜逃げ。川俣で新聞記者になっているとき裕一と再会。「福島行進曲」の作詞をして東京に出てくる。

権藤茂兵衛…風間杜夫 まさの兄。資産家。妻が病弱で跡継ぎが生まれないことが悩みの種。

「エール」53話 金にもの言わす裕一に弟は反発。お父さんの命があとわずか? どうなる古山家
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番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和