
新たな魑魅魍魎が続々『半沢直樹』5話
日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)第5話(8月16日放送)からは池井戸潤の原作小説「銀翼のイカロス」編。半沢直樹(堺雅人)が巨大な航空会社の再建に挑む。視聴率は25.5%とまた上がった。半沢が出向させられていた東京セントラル証券から東京中央銀行にバンカーとしてついに復帰。破綻寸前の帝国航空の再建を任される。おりしも内閣改造計画のサプライズ人事により、国土交通大臣に選ばれた白井亜希子議員(江口のりこ)が、帝国航空救済策として銀行に7割の債権放棄を提案。そうなると東京中央銀行は500億円もの債権を手放すことになる。帝国航空を立て直し、700億円の債権を回収することが半沢の責務。伏魔殿とも言われる帝国航空には新たな魑魅魍魎が……。
◯第5回の曲者・登場人物はざっとこんな方々。
国土交通大臣・白井亜希子(江口のりこ)
白井率いるタスクフォースチームのリーダー・弁護士・乃原(筒井道隆)
議員秘書・笠松(児嶋一哉)
白井を贔屓している幹事長(柄本明)
的場総理(大鷹明良)
帝国航空社長・神谷(木場勝己)
帝国航空財務部長・山久(石黒賢)
帝国航空財務担当・永田(山西惇)
帝国航空 グレートキャプテン木滝(鈴木壮麻)
東京銀行審査部次長・曽根崎(佃典彦)
開発投資銀行 企業金融部 第四部次長・谷川(西田尚美)
500億とか700億とか大きすぎて庶民にはもはや漠然としてしまううえ、債権と再建の音が同じでごっちゃになる。いずれにしてもかなり大変な業務であろう(ざっくり)。
帝国航空案件は「ロスジェネの逆襲」編で大和田(香川照之)が担当する気満々だったにもかかわらず半沢に押し付けていた。が、裏でこっそり債権管理担当常務・紀本(段田安則)には協力すると言っていて(4話より)、大和田の動きも要注意である。
「ねえ半沢くん」と顔を接近させる大和田。
無表情の半沢。
眉ピクピクの大和田。
とにかく大和田は半沢をかまいたくてかまいたくてしょうがない。好きがこじれているんじゃないかという気がしてしまう。
そんな大和田の歪な気持ちを知ってか知らずか、頭取(北大路欣也)は帝国航空の件は日本経済を揺るがす可能性がある、「我々銀行員のプライドを賭けた仕事になる」と表情をいっさい崩さず半沢に言うのであった。これだけみんながわいわいやっているのに北大路欣也の揺るがさなさはすごい。
こうして半沢は、「ロスジェネ」編の若手・森山(賀来賢人)の代わりに半沢について行動している若手・田島(入江甚儀)を連れて帝国航空を視察。バンカーならではの視点で「ここは腐ってない」と感じる。
決め手は挨拶だった。「倒産寸前の会社は、社外に挨拶しない」ものだが、帝国の従業員は挨拶する。空の安全を守る意識は見事だし、従業員はプライドを持っていると半沢は3週間くらい調査したのち、再建計画を作成する。
神谷社長(木場勝己)に「操縦桿を握っているのはあなたです」などと気の利いたことを言いながらそれを社長以下幹部に見せていたら、なぜか、社内中に広まっていた。
何者かが再建案の都合のいいところだけ抜き取りりリークしたことによって、現場の味方の半沢が現場からの信用をなくしてしまう。
そもそも東京中央銀行は帝国航空のメインバンクではない。半沢はメインバンクの開発投資銀行と組み銀行が一枚岩となることで帝国航空を再建させようと半沢は考えていた。だが開発投資銀行の鉄の女こと谷川(西田尚美)は帝国には社内に不穏分子がいると慎重な態度を崩さない。

半沢は、剣道の素振りをしながら、自分を陥れようとしているのは誰だ? と考える。
帝国航空社長・神谷、帝国航空財務部長・山久、帝国航空財務担当・永田、
東京中央銀行頭取、紀本、大和田。
バンバンバンとモノクロの顔写真が出てきて完全にミステリードラマふう。と同時に、新編の登場人物が理解しやすくなった。こう並べたら明らかに大和田が怪しいが(顔写真も怪しすぎる)、もうひとり、東京銀行審査部次長・曽根崎(佃典彦)が半沢を潰そうとしていると想像するが、それも違いそう。
悩みながら、素振りを続けていると、瀬名(尾上松也)がやってきて、情報をネットに流した人物のIPアドレスから個人情報を特定。それは伊勢志摩のビルの丸岡耕二(粟根まこと)という人物だった。余談だが、住所のビルの1階が眼鏡センターで、メガネキャラの粟根まことにかけたのだろうか(嘘)。
「災い転じて福と成す」「ピンチをチャンスに変えてきた」 つねにそうやってきた半沢にすっかり魅入られてしまったらしい瀬名。わざわざ同じ意味あいの言葉を2回繰り返す必要もない気がするが。それはともかく。ネットの達人が味方につくと強い。
瀬名の心配をよそにさっそく伊勢志摩に向かう半沢。丸岡商工という事務所で、帝国航空行きの荷物を出していた。半沢、持ってる。ひとりの明らかにヒマそうな女性社員が、いま丸岡は東京だと言う。半沢はうまいこと言って丸岡の居場所をつきとめる。
半沢、弾丸ですぐ東京に逆戻り。このへんの進行、ロープレのシナリオみたいである。
向かった先は進政党の「永田栄一くんを元気にする会」が行われているホテル。
半沢は、再建案のリークは永田の仕業と踏む。永田は帝国の財務担当であるが、かつて政治献金問題を疑われ、東京中央銀行から出向しているという完全にあやしい人物。調べると、帝国航空から丸岡商工に不当な金銭が流れていて……。
半沢は証拠を掴もうとグレートキャプテン(鈴木壮麻)に協力を頼み、丸岡がハイヤーを使っているところに乗り込む。
小劇場ファンにはたまらない、渋いラインナップ
さて、「ロスジェネ」編が歌舞伎編なら、「イカロス」編は小劇場編か。ロスジェネにも古田新太、池田成志、山崎銀之丞など小劇場出身俳優はいるのだが。5話には柄本明、段田安則、山西惇、八十田勇一、粟根まこと、佃典彦、江口のりこ等、渋いメンツが集まり、小劇場ファンにはたまらない。ロスジェネ編には京都の劇作家・土田英生が出ていて(電脳雑技団の社長)、イカロス編には愛知県で活躍する演劇人、佃典彦というキャスティングも通である。
粟根まことと堺雅人のタクシーの中のやりとりは楽しかった。堺と粟根は劇団☆新感線「蛮幽鬼」で共演している。もうひとり乗り込んできたグレートキャプテンは、劇団四季出身のミュージカル俳優・鈴木壮麻。
なんといっても5話の白眉は山西とのやりとり。
屋上での対峙。半沢が永田に「それ以上近づかないでくれ」なんて言うから、ソーシャルディスタンスをとるという意味かと思ったら、「腐った肉のにおいがする」とひどい言い方。さらに社員説明会ではハイヤーで録った確固たる証拠の映像を公開、大勢の人がいる前で「帝国航空にとってもっとも不要なコストは永田、お前だー!」と突きつける。このセリフは予告でも使われていて、さんざん聞いていたのだが、強烈なディスりである。
こういう暴力的な言葉遣いはちょっと現代の風潮に合わないのでは? という声も出てきているからか、わざと社員の前で言うことで、一人ひとりが会社のことを考える機会になるという意図を語り、「ちょっとやりすぎたかな」と反省もしてみせる。半沢直樹、策士過ぎる!
ただ、この政治家と企業の財務担当と小さな地方の会社が組んで私腹を肥やしている人物(お金の使い方がハイヤーにコーヒーなどじつにみみっちい)がいる状況(現実にもありますよね、こういうこと)や、政治の都合で赤字路線を押し付けられた航空会社の状態(やけに航空会社の肩を持っている印象…)を、庶民に代わって怒っていると思えば、半沢もっと怒れ、そして、庶民も立ち上がれ、という感じである。
だがしかし債権放棄は止まらない。弁護士の乃原(筒井道隆)が、半沢の前にまたすごく意地悪そうに立ちはだかる。
今回、そんなに激しく顔芝居や大声を出すタイプではない俳優、筒井や段田安則、西田尚美、江口のりこ、柄本明などが低体温で攻めてきてゾクゾクする。
ロスジェネ編の歌舞伎俳優たちのみならず、演劇人がものすごくたくさん出ている「半沢直樹」。
(木俣冬)
※最新話のレビューを更新しましたら、ツイッターでお知らせします。お見逃しのないようぜひフォローしてくださいね
番組情報
日曜劇場『半沢直樹』毎週日曜よる9:00〜9:54
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/