『エール』第14週「弟子がやって来た!」 69回〈9月17日(木) 放送 作・嶋田うれ葉 演出:松園武大〉

梅、いきなり告白
14週は「才能」と「恋」の物語。才能も恋も、どちらも「居場所」をつくる。
幼い頃に貧しさから親に雑穀問屋に売られて居場所がなかった五郎(岡部大)が、裕一(窪田正孝)の音楽に出会って救われて、弟子入りしたものの、彼には作曲の才能がなかった。
「才能なかったら飯なんか食っていけねえぞ」と業界にずっといる廿日市(古田新太)は厳しい。目の前ですらすらと魔法のように曲が出てくる裕一を見ていたら、自分に才能がないことを痛感してしまう五郎。そこに気づくだけの思慮深さがあった。
そうはいっても、五郎には別の才能がある。ヒトを癒やす才能。華(田中乃愛)を楽しませ、梅(森七菜)を思いやる。彼がいると家が明るくなる。
最初は反発していた梅もいつしか五郎のことを好きになっていた。ちょっと展開が早いと思うけれど、これが朝ドラスタイル。ほぼ1週間でひとつの話。
才能がないと落ち込む五郎に梅は、「私たちの急務は ただただ眼前の太陽を追いかけることではなく 自分らの内に高く太陽を掲げることだ」と島崎藤村の言葉を借りて励ます。
梅の「太陽」は「文学」で、いま、そこにもうひとつの「太陽」が生まれている。それが、五郎だ。文学を志す梅の道を、五郎が照らしてくれる。最高じゃないか。
「私、五郎さんのことが好き」
梅は電光石火で告白。このシーンがロケで良かった。森七菜の透明感が生かされた。
ところが、五郎は自分を見切って早々に弟子を辞め、古山家を出ていってしまう。でもまだ木曜日なのでこれで終わりではないはず。「才能」がないから「居場所」がないと思い込んでいる五郎に、今度は梅が手を差し伸べるときだ。
ちなみに、五郎を見送って涙をぬぐう仕草をする梅の背後の電柱には「光陽銀行」と書いてある。

山崎育三郎の才能と居場所
小説さえ書ければ一生ひとりでいいと思っていた梅だったが、五郎を見ていると心がきゅっとなる。思い余って久志(山崎育三郎)に相談すると、それは「恋」と教えられる。久志は、プレゼントしたブローチを返却され、恋の相談をされて、立場なし。「ふたりで会うのは金輪際ちょっと」という梅のセリフが面白かった。梅にスルーされても久志はそんなに傷ついているふうには見えない。もともとそんなに本気じゃないんだろうという感じ。現に、すぐまた藤丸(井上希美)と元通りになっていた。
きょうはやけに楚々とした藤丸に「やっと気づいたんだ。何がいちばん大事か」なんて言っている久志は、まだ大事な「居場所」が見つかっていない。鉄男(中村蒼)が買い出しに行っている間、おでん屋を任されているような、仮の場しか久志にはまだないように感じる。だから彼は終始、ふらふら軽いのだ。
おもしろいのは、おでん屋で梅の恋愛相談にのっているときの久志は、気取った感じのない気さくなあんちゃんふう。
演じている山崎育三郎にインタビューしたとき、「こう見えて男っぽいんです」と語っていた。男4人兄弟で、野球好きな彼はたしかに、女性をエスコートする少女漫画的なキャラというよりは、スポーツする少年漫画キャラのほうが性に合っているのかもしれない。ただ彼には不思議と王子様キャラを演じる「才能」があって、そういうキャラが好まれるミュージカル界が「居場所」になったし、そういう存在が新鮮に映ったテレビドラマにも「居場所」ができたのだと思う。
裕一の才能と居場所は
五郎に引導を渡す前に、五郎のほうから弟子を辞めたいと言われてしまう裕一。五郎から才能があるあると崇められている裕一だが、当人だって今はまだ迷い道の途中。ようやくヒット曲も出せたとはいえ、廿日市からは相変わらずお尻を叩かれている。モデルの古関裕而の歴史を知ると、膨大な曲をつくり、大ヒットさせて、ピークは1964年の「オリンピック・マーチ」の作曲。これについては『エール』1話にすでに出てきているので、裕一もこれからヒットメーカーとなっていくのはわかっている。彼の「才能」がどこに「居場所」をつくるのか、それがこれからドラマで描かれていくのだろう。
14週は、梅の恋という、一見スピンオフ的な箸休め回のようだが、注意深く見ていると、主人公・裕一のこれからに続く橋渡しになっている。神に愛されるような天才は、自分では説明できない何かを持っている。
「先生には音さんがいるから強いんですね」
(木俣冬)
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主な登場人物
古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。
古山華…田中乃愛 古山家長女。
関内梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になる。
田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子
廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。
梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。
佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。
藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。
御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和