『監察医 朝顔』桑原にかかる殺人容疑 そして「桐谷」は存在していたのか?というミステリー展開
イラスト/ゆいざえもん

※本文にネタバレを含みます

桑原射殺事件編『監察医 朝顔』6話

朝顔(上野樹里)の浮かない顔が戻ってきた。シーズン1では、震災で母が行方不明であることをずっと気にして仙ノ浦に行くことも苦しかった朝顔。最終回でようやく一歩踏み出すまで、晴れない顔をしていた。


【前話レビュー】愛情を確かめ合うように手を握る朝顔と桑原 そして予想外の発砲事件で次回へ!

彼女を救ったひとつに、桑原(風間俊介)の愛情がある。彼がひたむきに朝顔を支えたことで、彼女は変われた。そんな大事な存在・桑原に殺人の嫌疑がかかる。刑事なのに……。

『監察医 朝顔』第6話はラテ欄によると「万木家ピンチ…桑原射殺事件編スタート」。5話の終わり、桑原が雨のなか、謎の女性・田村聖奈(中村里帆)に銃を向けたことが、ちょっとしたエピソードではなく、これからしばらく中心になるようだ。

シーズン1の土砂崩れで桑原生き埋め(?)事件よりも重めで、かなりのミステリー。もしかして2クールのうち、前半1クールの目玉になるのか。シャワー浴びている桑原のサービスカットもあった。

人がひとり拳銃で頭を撃たれて亡くなり、現場にいた桑原に疑いがかかる。桑原は、聖奈の背後に、彼女の交際相手の桐谷(坂本慶介)が銃を構えていたため、足に発砲したつもりだったが、防犯カメラには桐谷は映っていなかった。あいにく、聖奈の頭の銃弾が、桑原側と桐谷側のどちらから撃たれたかわからない状態。
銃弾の種類も、桑原の携帯している銃と同じで、捜査は行き詰まる。

本来、威嚇射撃をすべきところ、いきなり発砲したこともあって、桑原の疑いは深まるばかり。こういうとき、銃を撃つ経験がふだんほとんどない日本の警察官は、誤射の可能性を疑われてしまう。

法医学教室での解剖に、桑原の身内である朝顔(上野樹里)が関わることができない。捜査にも、桑原の所属する部署が関わるのは微妙。そこには身内の忍(ともさかりえ)もいるからよけいであろう。4話で、「親戚、多すぎませんか」(沖田 / 藤原季節)という話題が出ていたのは、ここにかかっていたのか。

家族だからできること、家族だからできないことがある。何もできず沈む朝顔。それでも、つぐみ(加藤柚凪)の子育ては誰にも代わってもらえない。法医学教室の人たちはみんな協力的だとはいえ……。

何も知らないつぐみは無邪気に「パパは?」と尋ねる。
桑原から家族に連絡をとることはできないので、朝顔は桑原の様子がまったくわからない。

仙ノ浦に行った父・平(時任三郎)から電話がかかってきたが、朝顔は桑原のことを相談することを躊躇してしまう。弱音をはけないのが朝顔。そんな彼女のもとに忍が訪ねてきて、一緒に夕食を食べ、朝顔と梅酒を飲み交わし、忍は泊まることにする。

桑原の心配を口にするタイミングまでずいぶん長いストロークがある。それが、彼の姉と妻、彼女たちなりの思いやりなのだろう。

『監察医 朝顔』桑原にかかる殺人容疑 そして「桐谷」は存在していたのか?というミステリー展開
第7話は12月14日放送。画像は番組サイトより

上野樹里の浮かない顔が魅力的

仙ノ浦では、里子(石田ひかり)の父・浩之(柄本明)と夫・平の舅と婿という、血のつながらない微妙な関係同士で気遣いしている。桑原の姉と妻が縁側で飲み、里子の父と夫が父の馴染みの居酒屋(女将は大竹しのぶ)で飲みながら、遠慮がちな距離感を徐々に近づけていく。

彼らをつなぐのは、桑原であり、里子であり。愛する者が同じであるということ。ふたりをつなぐ不在の人物が作り出す叙情。こういう部分は、連ドラでなかなか描かれない。

描かなくても済むことを描けることは、2クールある余裕からかもしれない。
単なる1話完結のミステリーを2クール続けるのではなく、人間関係を書き込んでいこうとする取り組みを評価したい。

桑原の上司・山倉(戸次重幸)は神奈川県警に拘束されている桑原を訪ね、どさくさに紛れて「桐谷」という人物の名前を聞き、独自に捜査をはじめる。桑原

朝顔と桑原の仕事仲間がいい人たちばかり。都合よく動いている印象もないこともないが、大きな哀しみを朝顔が抱えているから、それ以外は手を差し伸べる人たちだけでいい。

母のことも解決していないにもかかわらず桑原が心配。鍵を握る「桐谷」の行方は思いがけないことになっていて……。

単に、桑原に嫌疑がかかっているだけでなく、彼が撃った桐谷は存在していたのか? というミステリー。風間俊介は一時期、精神バランスが不安定な役を演じて、それがとても迫真だったものだから、穏やかな寄り添い男子に見える桑原に実は意外な顔があるのでは……という過去の役柄からのミスリードなのか。

風間の代表作であり、震災の年に放送された『それでも、生きてゆく』(11年 / 脚本:坂元裕二)で共演した(共演したという淡々としたものではない壮絶なバトルのようだった)大竹しのぶが『朝顔』に登場した流れでの、桑原射殺事件編のはじまりなものだから、大竹との絡みはないにしても、なんだか凄い展開になるんじゃないかとドキドキしてしまう。『それでも、生きてゆく』には時任三郎も柄本明も出ていたので、よけいに。

でもきっとこれは、1年のあのとき、フジテレビが被災地に込めた想いを、脚本家が違えど、今一度、強く思い出すための、そんな儀式のようなものなのではないか。あのドラマを思い出すたび、胸がきゅっとなるから。


朝顔に問題が山積み過ぎて、お気の毒だが、上野樹里の浮かない顔はじつに魅力的なのである。

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番組情報

フジテレビ『監察医 朝顔』
毎週月曜よる9:00〜

公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/asagao2/

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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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