『おちょやん』第3週「うちのやりたいことて、なんやろ」

第13回〈12月16日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

『おちょやん』好きな気持ちも菓子も噂もやめられないとまらない 人間の本能のおかしみ描いた13回
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

神聖な義務ってどんな義務?

数えで18歳を前にして突如、ご寮人さんシズ(篠原涼子)と憧れの女優・高城百合子(井川遥)のふたりから、今後の進路について自分でしっかり考えるように諭された千代(杉咲花)

【前話レビュー】同性視聴者の共感をわしづかんできた篠原涼子の昔の恋のはじまりに胸ざわつく12回

百合子の代表作『人形の家』の台本で文字を覚えたことを思い出し、『人形の家』熱が再燃。「私には神聖な義務があります」「私自身に対する義務ですよ」とお茶子の富士子(土居志央梨)里子(奥野此美)相手に演じてみせる。
このときの瞳をぎょろりむき出した決め顔が百合子にそっくりで、千代の再現力の才能を感じる。

不義密通

「一生一回、自分が本当にやりたいことをやるべきよ」と百合子。「自分がどないしたいのか、もっとよう考えなはれ。そうせな後悔する」とシズ。ふたりが千代に言ったことが、『人形の家』でイプセンが書いた「神聖な義務」であることを千代はまだ気づいていない。

後悔しないようにと、千代に言ったシズのほうこそ、20年も前に忘れものをしているようで。20年前の恋が再燃? もうすぐ引退する俳優・早川延四郎(片岡松十郎)とかつて、恋仲で駆け落ちまでしそうになったとか。それが20年ぶりに再会、延四郎から千秋楽の翌日に会いたいと言われ、シズの心は揺れる。

シズと俳優・延四郎のわけありそうな雰囲気を、岡安のライバル芝居茶屋・福富の椿(丹下真寿美)、ぼたん(沢暉蓮)、あやめ(藤本くるみ)が目撃。この3人、すっかり、いけずであることが定着しているので、期待に応えて、噂を吹聴してまわる。話はあっという間に大きくなって「不義密通」とまで言われてしまう。

椿、ぼたん、あやめから流れた噂を、岡安のかめ(楠見薫)とお茶子たちが、かめ壺のお菓子を食べながら語り合うターンは楽しい。お菓子をポリ、ポリ……とかじることでできる間も、ほどよく深刻、ほどよく軽快でいい感じ。


千代、一本!

いまも昔も、役者とお茶子の色恋沙汰はご法度。こんなことが広がったら岡安の信頼問題に関わる。お茶子たちの話を、娘のみつえ(東野絢香)も、旦那・宗助(名倉潤)も、母親・ハナ(宮田圭子)も聞いているというめちゃめちゃ狭い世界。しかも、そこにシズが帰ってくる。

ここで、お茶子たちが狭い台所のなかで、満員電車のなかのようにぎゅっとして、あたふたしている様も面白い。

シズは、20年前に、たしかに、駆け落ちしようとしたこともあったと家族と店の者全員に明かす。それだけいまは、やましいことはないということなんだろう。毅然としている。そして、岡安の看板にドロを塗ってしまったことを詫びる。展開が早いのは朝ドラあるある。

『おちょやん』好きな気持ちも菓子も噂もやめられないとまらない 人間の本能のおかしみ描いた13回
写真提供/NHK

千代は、勝手に噂を広げた張本人である福富のいけず3人組をいてこます。乞食の棟梁・小次郎(蟷螂襲)からぼたんとあやめが役者とあいびきしている情報を聞いたとばらし、それを知らなかった椿との仲間割れを引き起こすという鮮やかな作戦。黒衣(桂吉弥)は「千代ちゃん一本!」と絶賛。


こういう、カラッといけず返しする千代のキャラクターは痛快だ。ツケで調子をつけるのも良い。お菓子の咀嚼音と合わせて、音がいい仕事をしている回。

人間の本能を描く

女性の自立を書いた『人形の家』に惹かれて、演劇に興味をもち、文字を学んだ千代が、18歳になってもいっこうに戯曲に書かれた言葉の意味を理解している様子がないのがすこし気になるが、彼女が理屈でなく感覚で、世の中の理不尽から身を守る術を知っていることは、千代のいけず返しから伝わってくる。知的階級的視点に依ることなく、『人形の家』の戯曲の本質である、縛るものからの解放を、千代は知らず知らずに体現しているのである。

「不義密通」と大騒ぎするものの、ぼたんもあやめも、ちゃっかり俳優とあいびきしている。禁止と言われてもじつはみんなやっている。好きな気持ちはやめられないとまらない。どうしようもない人間の本能のおかしみも、さらりと描く。

まあ、気の毒なのは、ひとっつも悪くない、いい人な宗助である。「堪忍やで」とみんなにシズが謝っているときの宗助の、ゆるくしぼった布巾のような表情は絶妙だった。

『おちょやん』好きな気持ちも菓子も噂もやめられないとまらない 人間の本能のおかしみ描いた13回
写真提供/NHK

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仁村紗和(節子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井川遥(高城百合子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■蟷螂襲(小次郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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