『大豆田とわ子と三人の元夫』最終回 今日も元夫たちはとわ子の声にならない声に駆け付け、笑ってくれる
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

最後に重大なエピソード登場『大豆田とわ子と三人の元夫』最終回

『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系 火曜よる9時〜)最終回。先週は、鹿太郎(角田晃広)が出張、今週は慎森(岡田将生)が出張で不在。先週スマホの画面の中にしかいなかった鹿太郎が、謝罪のレクチャーで素早く頭を下げるとき、フードがきれいに頭にかぶさる妙技を見せた。


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最終回だなあと思うのは、第1話に出てきた船長の格好をした健正(斎藤工)が結婚詐欺で逮捕されたこと。あったあったと懐かしく、これまでのとわ子(松たか子)の歩みを思い返す。胡散臭い船長詐欺師がそんな役割を果たすとは、第1話の時は考えてもみなかった。

会社では結婚詐欺にあった女性たちの写真(モザイク)を社員たちが見て笑いものにしている。被害者の中にとわ子が混じっていることに唯一気づいた六坊(近藤芳正)がさりげなくかばう。かばわれるのもなんだかいたたまれないだろう。

そんな時、中学時代の同級生で初恋の相手・甘勝(竹財輝之助)と再会。ヘリコプターの操縦士になっていた彼はナイトクルージングに誘い、帽子をとわ子にかぶせるという詐欺船長とのデジャヴュ感で揺さぶりつつ、最終回の本題は思いがけないところにあった。

自分が選んだことが正解

とわ子がWi-Fiのプロバイダーのマニュアルを探していたとき、「一匹オオカミ」という書き初めを見つけ、「迷ってきたようで、一本道だったんだね」と唄(豊嶋花)にからわかれたりしながら、とわ子は母・つき子の荷物に遭遇する。

クッキー缶の中に、書いて出さずにいた母の恋文があった。唄に促され、相手の“マーさん”こと國村真の元を訪れるとーーアパートには女性(風吹ジュン)がいた。

築年数の古そうな建物だが内装はセンスよく、居心地よく整っている。細工をきれいに施したフルーツを出してくれる真。
料理とか上手そう。メガネがかなりずり下がっているが、彼女は笑いものにはならない(第78話では笑い話にされた人物、川口覚がいた)。

小さなバレエシューズがふたつ飾ってあり、母つき子と真はバレエ教室で出会ったことを聞かされるとわ子。「恋人だったの?」と唄が率直に聞く。「素直にそう言えるって素敵だね」と真は微笑む。

今は同性同士の恋愛も当たり前に受け入れられる時代だが、そうではない時代に若い頃を生きた真とつき子が別れを余儀なくされ、つき子は男性(岩松了)と結婚し、とわ子が生まれた。その事実をどう受け止めたらいいかとわ子は惑う。

「あなた、不安だったんだよね」
真はとわ子の不安を拭い去る。「(つき子は)家族を愛してる人だった」と聞いて、とわ子の黒い瞳から涙が溢れる。まるで魔法で固まった心が溶けるように。

最終回に来てこんなに重大なエピソードを入れて来るのか、いや、最終回だからこそと思うか、人それぞれであろう。ただ、これは決して唐突な話ではない。
第1話でとわ子は母の納骨がなかなかできずにいた。その後、納骨したからといって、母ととわ子の問題が解決したわけではなかったのである。とわ子は母に対してずっと何かを感じていて。亡くなってしまったことで余計に解決できないままになってしまったのではないだろうか。

とわ子は、母への気持ちを忘れたように明るく振る舞いながらもずっと気にし続けてきた。それは、かごめ(市川実日子)が亡くなった後の1年間と同じ。とわ子はそうやって我慢してしまう人なのであろう。その我慢が彼女を籠の中の鳥のように縛り付けられた虚ろな瞳にするのではないか。

リア充に見える(というか実際そう)にもかかわらず、とわ子がなんだかいつもそれを寂しさという言葉で表現していいかわからないけれど、所在なさげで、情緒不安定で、美しい黒々した瞳はちっとも楽しさや喜びで輝いていないように見える原因は、幼い時に両親からちょうどいい塩梅の愛情を受けなかったからだったと思わせるストーリー運び。

母にも父にも距離を感じ、ひとりで生きると思うようになってしまったとわ子。だから3度も結婚し離婚し、安定的な関係を築くことができない。明らかにやばい結婚詐欺師にも引っかかってしまう。
それまで自由な解釈を許容する内容だったのが、突如としてこんなふうに心理学的解釈を登場人物に付与するのは凡庸ではないかという気もしないことはないけれど。アセクシャル、ヤングケアラー……と、わりとこれまでも現代社会の問題をこのドラマは取り入れてはいるのである。

「おばあちゃんが生きた人生は私の未来かもしれないんだよ」と唄が言った言葉は、そっくりとわ子にも当てはまる。母の人生がとわ子の人生かもしれなかった。例えば、かごめが恋をしないと言っていたのは、アセクシャルではなく、とわ子のことが好きで、それを抑えていたのかもしれない。もしかしてとわ子にもかごめを友情とは別の愛する気持ちがあったかもしれない。

誰だっていろんなことを思っていて、その中から何かを選んで生きていき、真は「(つき子の)選んだほうで正解だったんだよ」と言う。誰を愛してもいいし、ひとりでもいいし、自分が選んだことが正解。真はそう背中を押してくれる。

「助けて」とわ子の叫び

両親が絶対的な愛情で結ばれていなかった場合、そのふたりから生まれてきたことははたして幸せであるだろうか。不安に思うことは止められない。とはいえ世の中、何が絶対的であるかも定かではない。いや、ほぼほぼ絶対なんてものはなく、何もかもが不安定で、人生とは手に抱えたものを壊れないように努力することが大半なのではないか。
だから自分の出生に不安を感じる必要などなく、この世に生まれてきた以上、自分が納得のいく生き方を選び取っていくしかない。そうすれば、助けてくれる人は必ず現れる。

『大豆田とわ子と三人の元夫』最終回 今日も元夫たちはとわ子の声にならない声に駆け付け、笑ってくれる
11月5日Blu-ray&DVD発売。画像は番組サイトより

人生に例えるように、自転車の乗り方を教えていなかったと済まなそうにする父に、「田中さんも佐藤さんも中村さんもみんな私が転んだときに起こしてくれた人だよ」ととわ子は言う。この時、「田中」「佐藤」「中村」はその下に八作、鹿太郎、慎森という個性のある名前がついているのではなく、もっと多くの助けてくれる人たちに増殖して見えてくる。その後、訪ねて来た三人の元夫が英字新聞をプリントしたシャツを着て(若干デザイン違い)、ボーリングのピン化及び、メガネを描いたコルク化することで同化して見えてくるからなおさら。

彼らは本当に存在するのか。孤独なとわ子の作りだしたカプセル怪獣(ウルトラセブンが持っていたお役立ち怪獣)なのではないかと思えてきてしまう。と、そこで斎藤工の出てきたことに意味が出てくる。斎藤は岩井俊二監督の『8日で死んだ怪獣の12日の物語』でカプセル怪獣を買う人物を演じているからである。

……とまあ、妄想はそれくらいにして、作家の巧さを感じるのは、自転車の乗り方を父が教えなかった話。ちょうど教える時期に、母との関係が不安定になっていたと繋げてくるところ。それには岩松了の力もある。
短いシーンで、母とうまくいかなかった父の想いを写実と抽象画の間のような塩梅で表現した。

そして、初恋の人とデートした帰り、自動ドアに挟まれたとわ子が思い切って見知らぬ通行人に「助けて」と張りのある高い声を響かせる。彼女はいつも本当はそう叫びたかったのではないだろうか。三人の元夫たちはとわ子の声にならない声を聞き、助けに来て、笑ってくれる。
(木俣冬)






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番組情報

カンテレ・フジテレビ系
『大豆田とわ子と三人の元夫』
毎週火曜よる9時〜
※放送終了

出演:松たか子 岡田将生 角田晃広 松田龍平
市川実日子 高橋メアリージュン 弓削智久 平埜生成 穂志もえか 楽駆  豊嶋花
石橋静河 石橋菜津美 瀧内公美 近藤芳正 岩松了 伊藤沙莉

脚本:坂元裕二
音楽:坂東祐大
演出:中江和仁 池田千尋 瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美

制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ

番組サイト:https://www.ktv.jp/mameo/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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