【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】#8


 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「高校でバイトを始めたんですね」


萩本「はい。だから母ちゃんが言ったのはバイトをやってたにもかかわらず、後ろに40人いるってすごいねっていう、そういう意味なんだと思うんだけど、そんな細かいこと言わないで。欽一、まあ、後ろに40人いるねって」


増田「40人いるねと40人しかいないねっていうのは全然違いますもんね」


萩本「母親はにっこり笑ってるっての。おんなじ顔を作って、それを通すってのはね、えらいなこの母親って」


増田「萩本さんは成功してから、いろんな若い子を使う時に、そのお母さんのやり方、やっぱり生きてるんじゃないですか」


萩本「なんとなくね」


増田「人がどういう気分になるか、何と言えば傷つけずにより伸ばしてあげられるかっていう」


萩本「そうね。この世界で『教える』はない。やっぱり『修行』と『教える』は違うんです。勉強っていうのは教えるんですよ。それを覚えるってのが勉強で。修行って何かっていうと気付きですから。教えることはできない。気付き。言葉でなんかこうしろとかあーしろとかって言わないんですよね。

遠回しに言った言葉で気付けっていうのが教え」


増田「家が貧乏になったのは中3ぐらいなんですか」


萩本「いや、引っ越した小学校4年の時から、グイグイ、グイグイ生活が悪くなってきた」


増田「大変でしたね」


萩本「稲荷町の家は親父の仕事場だったんだよね。で、兄ちゃんが親父に任された店が一軒あったの。そこをやってたわけ」


増田「何の店ですか?」


萩本「カメラ屋。朝まで現像焼き付けっていうのをやって、俺たち一生懸命やって自転車乗っけて上野駅前に地下鉄のビルの1階に店があったの。そこへ。仕事場が家なもんだから、それで裏を借りて、で、兄ちゃんが家賃払って」


増田「やっぱりコメディアンになろうとした原動力っていうのは、その貧乏から脱出したいっていう」


萩本「ていうより、母ちゃんが──」


増田「幸せにしたい」


萩本「はい。あるとき借金取りが来たんですよ。そしたら母親が、『いないって言って』っていうから俺出てって『あの、ちょっといないです』って言ったの。そしたら『いるだろ』って言われて固まっちゃったんだよ。俺ね、嘘つくなって教えられてるし『今いないです』って言ったんだけど、いるんだもんね。いるんだろって言われて。それに返事困っちゃったんだよ」


増田「小学生の時ですか?」



コツンコツンと音がするんだよ

萩本「中学2年の頃。

困っちゃってさ。固まってたの。そしたら母親がまずいと思って出てきたわけ。『いますよ、いますよ、いますよ、います。すいません』って正座して。俺こっちの部屋でのぞいてたら『いつまで待たせるんだ』とかっつって怒られてるわけよ。『はい、すいません。すいません』って」


増田「正座して」


萩本「うん。で、頭を床につけるもんだから何度も何度もコツンコツンって音がするんだよ。それ見てたら、俺の目から涙がぽろぽろぽろぽろ、あの音だね。コツンコツンってさ(話しながら泣き始める)」


増田「…………」


萩本「それはその借金取りが憎いんじゃなくて、金ないとひどいもんだなぁと。すいませんしかない。

あー、もうどっか働きに行こうって。でね、社長さんになりてえなと思ってさ」


増田「じゃあ、一時期は高校は行かずに働こうぐらい思って」


萩本「はい、そうです。それで、すぐに中学3年終わったらどうしようかなと思って、働こうと思って」


つづく =火・木曜公開)


▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。


▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。

3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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