【死ぬまでにやりたいこれだけのこと】


 榎木孝明さん(俳優/70歳)


 世界的なヒットを記録したドラマ「SHOGUN 将軍」のシーズン2に出演する榎木孝明さん。やりたいことは世界的な時代劇のプロデュース。

そのためにも殺陣、工芸など日本文化を活性化させたいという。


  ◇  ◇  ◇


 今ちょうど「SHOGUN 将軍」シーズン2の撮影中です。海外の現場に行きますと、スタジオの広さやスタッフの人数も含め、スケールの大きさを感じますね。


「さすがハリウッドだな」と感じます。


 その半面、日本の時代劇がハリウッドに先を越されてしまったという思いがあります。


 真田広之さんが日本の時代劇を世界に広めたシーズン1の成功は素晴らしいです。と同時に、時代劇は日本発で作られてほしいという気持ちもあります。その思いは海外の撮影現場で刺激を受けて強く感じます。


■鎧や刀、殺陣、乗馬…とことん本物にこだわるのが理想


 そこで僕のやりたいことは世界的な時代劇映画を作ること。できればプロデュースに関わりたいということです。


 と言いましても、これはまだまったくの希望でしかないのですが、実現できた場合は主役にはこだわらないで若い俳優に道を譲り、僕は作り手に徹するのもいいですね。


 そして映画のためでもあるのですが、日本の文化についても考えていきたいと思うんです。

なぜなら、時代劇映画というジャンルが日本のさまざまな工芸文化と深く結びついているからです。


 今は現代劇風にアレンジされた時代劇が多く、それも面白いのですが、正統な時代劇が減っている気がします。「時代劇は本来こうだ」と押し通した仕事ができたらと思っています。


 それに、海外でヒットする日本の時代劇はそういったリアルなものではないかという気もするからです。


 殺陣をとっても、本来の武士は刀を抜いたら生きるか死ぬかの世界です。


 僕は薩摩出身で、薩摩示現流の指南を受けてきました。最初の時には「刀は一度抜いたら、生きるか死ぬかの決着がついて、初めて鞘に納められる」と教わりました。その意識をもって演技すると、竹光でも本物の刀に見せられるものです。そういう教えをしたいと思います。


 工芸でいえば、黒沢明監督の時代劇では衣装の着物は西陣織、セットの襖絵は日本画家に描かせたりした。鎧ひとつとっても伝統工芸の塊みたいなもの。刀もそうですよね。

時代劇にはそういった工芸が必要ですし、なくなれば時代劇もダメになっていく。


 文化団体のパーティーや集いに参加する機会がありますが、伝統工芸が少なくなり工芸家の後継者もいなくなっていると聞きます。


 着物や陶芸など個々のジャンルでは伝統を引き継ぐ努力をしておられますが、映画、とくに時代劇に大きな予算が付けば、映画を母体に伝統工芸の活性化にもつながるのではないかと。そしてそのように作られた日本の歴史作品が世界に広まるのではないかと思います。


 そんな考えもあって、僕としては多くの予算が付くように、多くの人が好きな時代をテーマに世界規模の時代劇を目指していきたい。


 もちろんまだ理想論で、これから実現のためにいろいろと取り組んでいきたいです。



■オーディションはアメリカ方式がいい

 さらに、海外のシステムを取り入れていきたいと思います。例えばオーディション方式。アメリカだと、どんなに有名な俳優でも関係なく、その役に合うかどうかをオーディションする。


 僕も「この役者ならこの役が生きる」というオーディション方式が理想。日本もそのシステムが定着できたら変わっていくかもしれないと思います。


 それからもうひとつ、時代劇には大切なことがあるんです。

所作、殺陣、そして馬を乗りこなせること。今はそういう稽古の場がなくなっているので、訓練の場をつくれたらいいなと思っています。そういう場があれば、現場で指南されずに撮影にのぞめますからね。


 実はこのことに関しては、それぞれ一流の先生方にお願いしていますので、いつの日か形にしたいです。そして結果的に僕の理想の時代劇に生かされるようになればいいかなと。そのために学べる場をつくれたらいいなと考えています。


■役者より長い水彩画。47都道府県で個展開催、いつか海外でも


 時代劇の他に続けたいことは絵かな。水彩画を描いていますが、役者より絵の方が長いくらいなんです。若い頃、外国に行くと、必ずその国の風景を描いていました。


 とくにインド、ヒマラヤに多く行きましたね。外国で絵を描いていると、日本人である前に地球人であるという感覚を持てるんです。

僕にとってはとても大事な時間。


 個展は国内ですと47都道府県すべてでやらせていただきましたが、外国では一度もないので、こちらもいつかは開催してみたいですね。


 写真にあるのは僕の絵などを展示しているギャラリーです。いろんな国を回って描いた僕の絵を、ぜひ一度見てください。


(聞き手=松野大介)


▽榎木孝明(えのき・たかあき)1956年1月、鹿児島県出身。78年から俳優活動。浅見光彦シリーズや時代劇で活躍。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」に出演。代々木上原のギャラリー・クオーレで絵の展示販売中。詳しくはHPまで。


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