【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】


 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「一家解散のあと豆腐屋の2階に下宿してから萩本さんは何を食べてたんですか?」


萩本「あ、ご飯は先輩が『天ぷらそば頼んでくれ』とか言うとき、必ず『おまえも頼め』って言うんで」


増田「東洋劇場の楽屋とかで食べてたんですか?」


萩本「そうです。だから、みんな弁当持ってくる人だけになっちゃうとやっていけませんね。でも誰かが『おまえも頼めっ』て言うんで」


増田「そういうところはあったかいところもあったんですね、やっぱり」


萩本「そうです。ですから、『おい、ちょっとそば頼んでくれ』って。でもね、いつもかけそば食ってた。先輩が『たまにはおまえ、きつねそばぐらい食ったっていいんだよ』って。そういう時はね、俺は偉そうに腹のなかで〈うるせー、俺の夢を壊すな。俺は有名になったらきつねそばを食べようとしてるんだ〉って思って『ぜったい食いません』って言って我慢してかけそば、かけうどんを食べてた。馬鹿だね」


増田「おごり甲斐がないですね」


萩本「だから先輩たちは『こいつにね、あれ食っていいぞって言ってもかけうどんしか食わねえからな』って笑ってた。『言っても無駄だぞ』なんて言ってたから。だからそのうち『おい天ぷらそば頼んでくれ。おまえはかけそば頼め』って先に言われるようになっちゃった。

で『ありがとうございます』って」


増田「栄養は大丈夫なんですか?」



賑やかさが悲しくなる

萩本「だけど私にするとね、かけそばじゃなかったですね。ネギそば。ネギたくさん入れればいいんですよね。山のようにネギ入れて。かけそばやかけうどんが唯一の健康食品なんですよ、天ぷら丼とかって、ダメ。とにかくかけそばやかけうどん。当時ね、僕、どんなお使いがあってもね。仲見世通りってのだけは意地で見たくなかったの。浅草の仲見世。だーっとある」


増田「浅草寺*に続く両側のお店ですね」


※浅草寺(せんそうじ):浅草の中心にある東京最古の寺。始まりは628年。隅田川で漁をしていた兄弟が一体の観音像を引き上げそれを祀ったのが始まりだと伝えられる。

元は天台宗に属していたが、1950年(昭和25年)に独立して聖観音宗の本山となった。東京随一の観光地の顔も持ち、雷門、仲見世通り、宝蔵門などに大勢の人が集まる。


萩本「そうそう、お店があるじゃない。よくテレビで映る大きな提灯があって、あそこを入ってく。そういう賑やかなとこ、賑やかなとこに浅草に10年いたけど、行ったことない」


増田「それは食べたくなるから?」


萩本「そういうものを見ると自分が悲しくなるんだよね。見ないと悲しくないね。おいしいものを見るから、それ食べたいなと思うんで。でも、ないんだもん。母親が大したもん食わしてないんだもん。浅草入ってからもかけそばとかけうどんしか食ってないんだもん」


増田「18歳で浅草行って、ストリップの東洋劇場入って」


萩本「はい」


増田「それで10年修業という」


萩本「浅草にですか? 約10年ぐらいいましたね。コント55号ができたのは、その何年か前。あ、だから10年はいなかった。

18歳で入って28歳でもう家建ててんだよね。55号は25歳でコンビ組んだんですよ。だから有名にになるまで7年だね、7年いた」


増田「昭和41年ですね。昭和41年に後のコント55号ができたと」


萩本「だから7年、18歳から25歳。10年いないな、浅草に。55号組んで、それから浅井企画さんに所属したのが6年間です」


つづく =火・木曜公開)


▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。


▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。

北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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