再審制度を定める法律の改正をめぐり、大きな転換点を迎えようとしています。そのきっかけの一つとなった事件が、42年前に滋賀県で起きた強盗殺人事件“日野町事件”です。

この事件についてことし2月、再審が確定しました。2018年に大津地裁が再審開始の決定を初めて出してから7年7か月の月日を要したのです。

「父親の無念を晴らしたい」と、長い年月闘い続けた家族と、法改正の行方について取材しました。

「二度と父のような人間が…」再審法改正めぐり奔走する阪原弘次さん(65)

再審法改正へ 争点は「検察の不服申し立て」 ”父のような悲し...の画像はこちら >>

5月7日。父親の裁判のやり直しが決まった阪原弘次さん(65)が滋賀県から上京しました。

佳境を迎えている再審制度を定める法律の改正。阪原さんは、裁判所の再審開始決定に検察官が不服を申し立てる「抗告」を全面的に禁止するよう訴えています

(阪原弘次さん)
こんな悲しい人は絶対に作ってはいけない。二度と父のような人間が生まれてきてはいけない。そのための再審法の改正ではないでしょうか」

強盗殺人容疑で逮捕された阪原弘さん 裁判では「虚偽の自白をさせられた」と無罪主張

再審法改正へ 争点は「検察の不服申し立て」 ”父のような悲しい人は絶対に作ってはいけない”改正きっかけの1つ“日野町事件” 裁判やり直し決定に7年7カ月 えん罪救済に立ちはだかる壁はどうなる?
MBS

1984年、滋賀県日野町で酒店を経営していた女性が行方不明になり、店にあった手提げ金庫が無くなりました。女性の遺体が宅地造成地で、手提げ金庫は山林で見つかり、警察は強盗殺人事件として捜査を始めました。

発生から3年以上経ち、警察は常連客で阪原さんの父・弘さんを強盗殺人容疑で逮捕しました。

弘さんは裁判で「虚偽の自白をさせられた」と一貫して無罪を主張しました。

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(判決確定前の阪原弘さん 2000年・支援者撮影の動画)
「その自白も私はするつもりはなかったんですが、ひどい暴行を受け、3人がかりの暴行で、『はい、私がやりました』言うたときには、3人の警察は、刑事は、にっこり笑い。

皆さん、私はこれからどうしたらいいんでしょうね」

「絶対にやってないです。うちのお父さんは」2000年に無期懲役の判決が確定

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2000年、最高裁で弘さんの無期懲役の判決が確定します。

(妻・阪原つや子さん 1999年取材)
「うちのお父さんはね、ほんまは純情なよい人。そこがいいんですけども、私らには。子どものまま大きくなってきた人なんですよ。警察なんかにかかったら、子どもの手ねじるようなもんです。絶対にやってないです。うちのお父さんは」

弘さんは「再審」=裁判のやり直しを求めましたが、大津地裁に退けられ、大阪高裁で争っている最中の2011年に病死。再審請求の審理は打ち切られました。

2018年に急展開迎える 大津地裁が再審開始を決定

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その後、家族が「父の無念を晴らしたい」と、再び挑んだ再審請求で事態が大きく動きます。2018年、大津地裁が再審開始を決定したのです。

「再審開始です、大津地裁裁判のやり直しを認める決定を下しました」

(阪原弘次さん)
「本当に夢のようです」

警察が撮った写真の「ネガフィルム」が再審開始決めるカギに

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再審開始を決めた大きな要素が、弘さんが自白通りに現場を案内できるか確かめる捜査で警察が撮った写真の「ネガフィルム」。弁護団が調べた結果、弘さんが金庫発見現場を案内できたとする調書の写真19枚のうち8枚が、帰りに行きの“ふり”をして撮影されたものでした。

大津地裁は、「何の誘導もなく金庫の発見現場まで案内できたか疑問が生じた」と判断しました。

“まだ”捜査側はわれわれ家族をいじめるのか…検察が抗告し舞台は高裁へ

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ところがその1週間後、地裁の再審開始の決定に対し、検察が抗告し、舞台は大阪高裁に移ることに。

(阪原弘次さん)
「なんでなんやろという思い、それと、まだ捜査側はわれわれ家族をいじめるのかっていう思いがありましたよね」

2023年には大阪高裁も再審開始を認めましたが、またもや検察が抗告し、最高裁に判断がゆだねられることになりました

初めて再審開始の決定が出てから7年7カ月…裁判のやり直しが確定

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そして今年2月、最高裁は検察の抗告を退け裁判のやり直しが決まりました

大津地裁で初めて再審開始の決定が出てから7年7カ月も経っていました。

(弘さんの妻 阪原つや子さん)
「分かってくれる人もいたんやなあと思って。無罪になったら『お父さん分かってもらえたよ』って言えるように頑張ります。お願いします」

この間に弘さんの妻・つや子さんは脳梗塞を患い、弘さんの墓参りに出向くのも難しくなりました。息子の阪原さんは「検察の“抗告”がなければ父も家族ももっと早く救われていた」と話します。

(阪原弘次さん)
「再審を請求するっていうのは、自分が真犯人じゃないから請求するんですよね。早期に再審裁判をする。罪を犯していない人の苦痛を早期に取り除くためですよね。そのために、検察官の『抗告』は絶対に認めてはいけない」

「検察の抗告」の全面禁止主張する一部の自民党議員が法務省の案に猛反発 

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「冤罪を訴えながら、救済に時間がかかる人がいる」こうした現状を変えようと、法律を見直す気運が高まり、政府はいまの国会での改正案成立を目指しています

改正の議論のなかで一部の自民党議員は、「検察の抗告」の全面禁止を主張。しかし法務省は、これまで通り「抗告」ができるとする案を示したことから、議員が猛反発しました。

(自民党 稲田朋美元政調会長)
「ほとんどの議員が抗告禁止と言っているにもかかわらず、それを全く無視している」

冤罪を訴える人やその支援者など約200人が集まる

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「自民党頑張れ!自民党頑張れ!」

5月7日、国会前には、阪原さんたちえん罪を訴える人やその支援者など約200人が集まりました。再審をめぐる法改正について、法務省の案に反発し、“不服があるならやり直しの裁判で訴えるべき”だと声をあげました。

(阪原弘次さん)
「請求審(再審を開くかどうか審理する段階)で無罪を言い渡すべき明らかな証拠があると裁判官が判断したならば、なぜ検察官は素直に受け入れてくれないんですか」

被害者が確実に救済される法改正を」阪原さんの切実な思い

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同じ日、改正案について議論する自民党の部会が開かれ、法務省は検察の抗告の「原則禁止」などを盛り込んだ修正案を示しました。

ただ、法律本体の「本則」ではなく「付則」に加える案だったことから、本則に盛り込むべきだと反対の声が上がり、結論は先送りされました。

阪原さんは、「議論を尽くしてえん罪被害者が確実に救済される法改正を目指してほしい」と話します。

(阪原弘次さん)
「満足のいかない状態で法案を法制化すると、今えん罪を戦っている方々に決して利益のある結果にはならないと思うんです」
「『日野町事件』再審確定しましたけども、それに続く各事件が希望を見いだせるような法制化というのが大事。(法改正に尽力する国会議員には)ぜひ頑張っていただきたい」

(2026年5月13日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

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