職種肩書に限らず、企画力やアイデアが求められることに頭を悩ませるビジネスパーソンは多い。作家の許成準氏は「人生には、努力なしで簡単に成功できる『裏技』は存在しない。
しかし、成功を手にするための効果的な『コツ』は確かに存在する」という――。
※本稿は、許成準『一日ごとに差が開く 天才たちのライフハック』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「事態の底」を見るドナルド・トランプ
ドナルド・トランプ(1946~)
アメリカの第45代・47代大統領ドナルド・トランプは、もともと不動産投資によって巨額の富を築いた「不動産王」として知られている。政治的にはしばしば物議を醸かもす人物だが、実業家として成功を収めていた時期の思考法や習慣には、学べる点も少なくない。
彼は派手な言動ばかりが注目されがちだが、実際のビジネスでは、意外にも慎重で現実的な判断を重視していた。ビジネスミーティングでも、人の意見に耳を傾け、複数の可能性を比較しながら意思決定をしていたという。
そして、もうひとつ意外なのは、彼が常に悲観的なケースを想定する習慣を持っていたことである。トランプは、自分が物事を考えるときの習慣について、次のように語っている。
「私は楽観的な思考の力を信じていると思われているが、実は悲観的な思考の力を信じている。つまり、いつも最悪の事態を考慮している。最悪の事態を想像していれば、どんなトラブルが起きても耐えることができる」
見た目の印象とは異なり、トランプは、仕事ではリスクを最小限にするために複数の代案を必ず準備していたという。何が起こるかわからないからこそ、最悪のシナリオまで想定しておくことが重要だと考えていたのだ。

■常に複数の選択肢を用意する
同じような習慣は、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスにも見られる。ベゾスもまた、「失敗しても立て直せる計画を最初に作る」ことを徹底し、あらゆるプロジェクトで「最悪のケース」に備えた複数の選択肢を用意していた。
彼は大胆な挑戦を続ける一方で、「大きな成功は、大きな失敗にも耐えられる構造から生まれる」という考えを持っていたといわれている。こうした慎重さが、急速な成長と激しい競争の中でもアマゾンを生き残らせる力となった。
このように、表向きは強気に見える人物でも、実際には最悪を想定した堅実な習慣によって成功を支えているケースは、少なくないのだ
■「とにかく繰り返す」イチロー
イチロー(1973~)
日本に「ルーティーン(日課)」という言葉を広めたのは、アメリカ大リーグで活躍したイチローだろう。
日本のオリックス・ブルーウェーブ時代に7年連続で首位打者を獲得し、日本人野手として初めて大リーグに挑戦。シアトル・マリナーズでは、ルーキーイヤーから新人王と首位打者、盗塁王、最多安打、MVP、ゴールデングラブ賞などを総なめにし、2019年に引退するまで大リーグ通算3089安打を達成した。
彼が驚異的なのは、これほどの記録を、長年にわたって安定して出し続けたところにある。常に安定したパフォーマンスを発揮し続けるには、野球そのものの鍛錬はもちろん、自身の体をよい状態で維持し続けなければならない。
そのイチローのコンディションを支えていたのが、日々のルーティーンである。彼の打席に入るまでの動きを見ていると、毎回寸分違わぬ準備運動をしてからバッターボックスに入ることに驚かされる。バットを立てた後に袖を引っ張る仕草は、お馴染みと言ってもいいだろう。

イチローのルーティーンは、試合前・試合後の行動にも及ぶ。彼は翌日のゲームの開始時間から逆算して、寝る時間、起きる時間、食事の時間など、すべてのスケジュールを決めている。年間の試合日程はシーズン開幕時にわかっているので、イチローの1年間の動きは、シーズン開幕と同時に自動的に決まっていたのだ。
■習慣は合理的でなくていい
こう見ていくと、イチローは毎年優秀な成績を残すために、苦労してルーティーンを守る求道者のようだが、そうではない。
マーティン・ラングらの研究によれば、日々の行動パターンが予測しやすいほど、ストレスや不安の揺れが小さくなることが示されている。決まった流れで行動することで、心の安定を保ちやすくなるというわけだ。
つまりイチローは、結果を残すために、苦痛に耐えながらルーティーンを守っていたのではなく、「いちばんストレスがない1日の過ごし方」を追求し続けた結果、自然とルーティーンが固まり、それを毎年繰り返していたのである。
ストレスフリーを目指しているから、栄養があっても嫌いな食べ物は基本的に口にしない。シーズン中に大好きなカレーや素麺をひたすら食べていたのは有名な話だ。イチローと同じく、大リーグで通算3000本安打を達成して殿堂入りを果たした大打者、ウェイド・ボッグスも、奇妙なルーティーンを持っていたことで有名だ。
彼は、毎日同じ時間に起床すると、試合前に必ずチキンを頰張り、ちょうど150本のゴロをさばき、必ず午後5時17分に打撃練習に入り、午後7時17分にダッシュを行っていた。敵チームが嫌がらせで球場の時計を狂わせたが、彼は正しい時間にルーティーンをこなしたという伝説もある。

彼らの習慣から学べるのは、ストレス緩和のためのルーティーンは、別に理にかなっていなくてもいいということだ。特に、重要な仕事などの前には、好きなものを我慢するのもストレスになるから、カロリーが多めの食事をとるなど、普段は我慢すべき行為をするほうが自然だ。ストレスを緩和して心の健康を確認するのがルーティーンなのだから、体の健康はいったん忘れてもよいのである。
ぜひあなたも、ストレスフリーだと自覚できる瞬間を積み重ねて、オリジナルのルーティーンを作ってみてほしい。
■「おいおい泣く」スティーブ・ジョブズ
スティーブ・ジョブズ(1955~2011)
Appleの創業者、スティーブ・ジョブズは、おかしな習慣を持っていたことで有名だ。彼は、会社のトイレの便器に足を突っ込んで水を流し、気分転換をしていたこともあれば、若い時分には「リンゴを食べていればシャワーを浴びる必要はない」という妙な信念から、体臭で同僚を苦しめたこともある。
ジョブズの最も有名な習慣といえば、毎朝、鏡を眺めながら、「もし、今日が人生最後の日なら、私はこれからしようとしている仕事をするだろうか」と自問自答することだろう。
確かにこの習慣は生産的ではあるものの、私が思うに、ジョブズの本質を表してはいない。彼が手がけてきた数々の製品から感じられる、感動的なまでに純粋でミニマリスティックなデザインは、ただ生産性を追い求めるだけの人に実現できるとは、到底思えないからだ。
ジョブズの本質が垣間見える奇妙な習慣は、「常に泣いていた」ことだ。あまり知られていないが、彼は感情的になるとすぐ泣いていた。
彼がAppleを創業しようとしていたころ、パートナーのスティーブ・ウォズニアックが起業に消極的になると、ジョブズは激しく泣いたという。

■感受性モンスター、S.ジョブズ
Appleが大きくなった後も、社員が自分の意図とは違った製品を提案してくると、社員たちの前でも平気で泣いた。
だが、ジョブズが最も感情を露あらわにしたのは、感動的な想像をしたときである。
彼はこう言っている。
「私はたびたび、完璧な純粋さ――純粋な霊魂と愛――の中に私がいることを感じる。そのとき、私はいつも泣く」
このジョブズの一面は、彼が並外れて豊かな感受性を持っていたことを示している。
この感受性に着目すれば、なぜジョブズが関わった製品群は、初めて手に取ったときの感触や直感的な操作が優れているのかが理解できる。
私たちは、ちょっとしたことで感情的になっていた子ども時代から成長するにつれ、「大人が人前で泣くことは恥ずかしいことだ」と学習していく。
だが私は、職業により差はあれど、感動を表に出すことをためらうべきではないと考えている。すごいものを見て感動できない人が、すごいことをやってのけるとは思えないからだ。
■「記憶力が生んだ巨万の富」W.バフェット
ウォーレン・バフェット(1930~)
投資家ウォーレン・バフェットは、かつてビル・ゲイツとともに世界の富豪トップを争った人物として、一般によく知られている。そしてゲイツとその妻、メリンダによると、バフェットは彼らが知る中で最も賢い人物だという。
バフェットは、アメリカのネブラスカ州オマハで生を受けた。
幼少期からお金に興味を持ち、6歳にしてコーラ配達で小遣いを稼ぎ、11歳で株式投資を始めた。
その卓越した投資センスは、教師たちがバフェットに取引銘柄を尋ねるほどで、彼は高校生にして教師たちより高い収入を稼いでいたという。20代でオマハにオフィスを開いた彼は、現在もずっとそこから動かず株式投資を続けている。つまり、若いころから延々と同じ生活をしているのだ。
バフェットは朝起きると、車で20分ほどかかるオフィスに出勤する。その途中で、マクドナルドのドライブインで朝食を調達するのが日課だ。会社に到着すると、オフィスで5~6時間は新聞や本、市況関連の情報を読む。一般的な人とそう差のない、かなり地味な生活パターンである。
だが、バフェットにはひとつ、凡人とは異なる点がある。
彼は、自分にとって重要な情報を丸ごと暗記してしまう習慣を持っているのだ。
これは幼いころからの日課であり、特に好きなのは数字である。バフェットは小学生時代から、オマハの人口など、多くの統計資料を暗記していた。
おかしな習慣だが、とにかく彼はずっと昔から数字が大好きだったのである。
■記憶し、関連付け、連想する
大学時代には教科書の内容を丸ごと覚えてしまうほどで、投資家となってからも数多くの企業の純利益や売上高などを頭に入れていた。
彼の自伝『スノーボール』には、この習慣こそが自分の成功を決定づけた、としているくだりがある。どういうことだろうか?
大衆が持っているバフェットのイメージは、巨大企業になる前の有望株を「一本釣り」して、長期投資の末に大金持ちになったというものである。
だが実際には、バフェットは膨大な数の銘柄情報を緻密に分析して投資する手法をとっていた。
たとえば株式市場には多くの銘柄が存在するが、その中で100社の情報を分析するとしよう。普通の人なら、銘柄情報を次々に閲覧しているうちに、さっき見た企業の情報など忘れてしまうだろう。こうなると投資対象を比較・分析するのは難しい。
だがバフェットのように、それらを記憶していれば、頭の中でそれらの情報を関連づけて考えることが可能になる。たとえば決算書を見ながら、「この会社は赤字だが対前年比で赤字が減り、売上は増加した。投資を考慮しよう」「この会社は今年純利益が急激に増加している。なぜだろう?」こんな連想が、容易にできてしまうのだ。
■記憶は悪い勉強法…とは限らない
もちろんデータを記憶せずとも、逐一、過去のデータを引っ張り出してくれば、比較することはできる。しかし、いちいちそんなことをしていては、時間がいくらあっても足りない。結局、「記憶をしていない=比較対象を持たない」人の目にとって、たいていのデータはただの数字の羅列に過ぎないのだ。
昨今、「詰め込み式・暗記中心の勉強はよくない」という意見をよく聞く。そして天才は暗記ではなく、直感や論理によってすべての問題を解決してきたと思われがちだ。何かを暗記することが、論理的思考と真逆の位置にあるという思い込みが、私たちの中にはあるのだろう。
だが、『Fortune』誌の編集長だったジョフ・コルヴァンは、著書『究極の鍛錬』(サンマーク出版)で、「自分の専門分野について多くの知識を持つ人が、より大きい成果を出す」という研究結果を多数紹介している。
その理由は、バフェットを例に出したように、多くの知識やデータを記憶していれば、それを利用してより高次元な思考を行うことができるからだ。
自分が作成したプログラムをすべて暗記したゲイツや、その日に自分が打ったショットをすべて記憶していたプロゴルファーのジャック・ニクラウスなど、似た事例は数知れない。
「暗記は悪い勉強法だ」という間違った観念に執着せず、自分の仕事と関係のある情報はできる限り記憶するように努力してみれば、仕事力がアップする実感が得られるはずだ。

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許 成準(ホ・ソンジュン)

作家、投資家

作家、個人投資家。2000年、KAIST(国立韓国科学技術院)大学院修了(工学修士)。主な著書として、累計10万部を突破した『超訳 孫子の兵法』をはじめ、『超訳 論語 孔子に学ぶ処世術』、『超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる』(以上、彩図社)などがある。

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(作家、投資家 許 成準)
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