世界に後れを取り続ける日本企業の“閉塞感”の原因はいったい何か。人材マネジメントに詳しいグローネクサス代表の小出翔さんは「日本企業には“組織に馴染む人”ばかり優遇する傾向が今なお強い。
社内政治の巧拙より、“隠れた才能”や“スキル”を言語化し、可視化することを優先できない組織はこれからの競争には勝てない」という――。(第2回/全5回)
※本稿は、小出翔『誰もが成長し活躍する会社のしくみ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■プロサッカーチームの組織マネジメント
いま人事(HR)の世界で注目が高まっている「スキルベース組織」とは何か。これをプロサッカーチームのマネジメントにたとえて考えてみましょう。
あなたがプロサッカーチームの監督だと想像してみてください。チームの目標は明確です。「試合に勝ち、リーグで優勝すること」。これは、企業でいえば「業績を上げ、ビジョンを達成すること」に相当します。
目標を達成するために、監督であるあなたは何を基準に選手を起用するでしょうか。
「彼は入団10年目のベテランだから」という理由だけで、重要なポジションを任せるでしょうか(年功序列のメンバーシップ型的発想)。あるいは、「彼はフォワード(FW)として採用したから、何があってもFWでしか起用しない」と頑なに決めてかかるでしょうか(ジョブ型的発想)。
■サッカーの監督が個人の「スキル」に着目する理由
優れたサッカーチーム監督は、まず選手一人ひとりが持つ「スキル」に着目します。
「ドリブル突破力が高い」「正確な長距離パスが出せる」「チームを鼓舞するリーダーシップに長けている」といった具合に、選手個々の能力を詳細に把握するはずです。
そして対戦相手の特徴(外部環境)や、自チームが目指す戦術(戦略)に合わせて、その試合に必要なスキルを持った選手を組み合わせ、最適なフォーメーション(組織構造)を設計します。
試合が始まれば、状況は刻一刻と変化します。変化に応じて、監督は選手の配置や役割を柔軟に変更します。現代のサッカーでは、「FWだから守備はしなくていい」という考えは通用しません。状況に応じて複数の役割をこなせる、多様なスキルを持つ選手が重宝されます。
強いチームは選手の評価も明確です。チームの勝利に貢献した「スキル」と「パフォーマンス」が正当に評価され、報酬に反映される。だからこそ選手は、自らのスキルを磨くことに集中し、成長を続けることができます。
■社員の持つスキルが「見えない」日本企業
翻って、あなたの会社はどうでしょうか。
社員一人ひとりが、どのようなスキルを持っているのか、正確に把握できていますか? 経営戦略や市場の変化に応じて、サッカーチームのようにダイナミックに人材を再配置できていますか?
「あの人は営業部だから」「この仕事は企画部の役割だから」といった、部署や役職の壁(サイロ)に阻まれて、個人のスキルを活かしきれていないということはないでしょうか。
多くの企業では、社員の持つスキルが「見えない」状態になってしまっています。
これでは、変化に対応できる強い組織を作ることはできません。
「スキルベース組織」は、まさにプロサッカーチームのような目的志向で柔軟性の高い人材マネジメントを、企業経営で実現するためのアプローチです。
■組織を正のスパイラルへ導く
たとえば、「経理部長」という職務(ジョブ)は、会社や市場環境によってその役割が頻繁に変化します。しかし、その職務を構成する「財務諸表を分析するスキル」や「チームをマネジメントするスキル」「内部統制を構築するスキル」といった要素は、ほかの職務でも通用する、普遍的で持ち運び可能な(ポータブルな)能力です。
職務の内容が変化しても、それを構成する根源的なスキルは変わりません。
この「スキル」という新たな軸を取り入れることで、私たちはメンバーシップ型とジョブ型という両制度の不具合を解消し、それぞれの「良いところ」を活かすことができます。
社員一人ひとりが持つスキルを可視化し、今必要なスキルと将来必要になるスキルとのギャップを明確にする。そして、そのギャップを埋めるための育成機会を提供し、習得したスキルに基づいて適材適所に配置し、公正に評価する。
社員は自律的にキャリアを築き、成長を実感できるようになる。若手もベテランも関係なく、持つスキルに応じて活躍の場が与えられ、評価される。エンゲージメントは高まり、優秀な人材の定着にも繫がる。
企業にとっても、社内にどのようなスキルがどれだけあるのか(人材ポートフォリオ)を正確に把握できるため、変化に応じた柔軟な組織再編や、戦略的な人材配置が可能になる――。

「スキルベース組織」は、行き詰まった人事制度を打破し、社員も会社も成長する“正のスパイラル”へと導くための具体的なしくみなのです。
■閉塞感を生み出す日本の企業システム
昨今、日本の企業においては、求められる振る舞いや人物像が「画一化」されているように感じられてなりません。
組織の中で波風を立てずにうまく立ち回る。空気を読み、円滑なコミュニケーションをとる。そうした、ある種の「教科書的」な人が評価され、出世していく。
それ自体は悪いことではありません。しかし日本企業には、こうした「組織に馴染む人」ばかりが称賛され、良質な成長機会や育成投資を独占する傾向が根強く残っています。
その結果、働く人々は評価されるために画一的な振る舞いをし、そこからはみ出してしまう個性や、不器用ながらも尖った才能を持つ人々の可能性は評価の土俵に乗る前に切り捨てられてしまっている。そんな閉塞感を拭い去ることができない現状があると感じています。
現在の企業システム自体が、そうした均質な人材を再生産する「誘因(インセンティブ)」になってしまっているのです。
■組織ブレイクスルーを起こす「しくみ」
私は、この現状を打破するブレイクスルーこそが、「スキルベース組織」という新しいしくみだと考えています。
社内政治や立ち回りの巧拙ではなく、個人の中に眠っている「隠れた才能」や「スキル」を言語化し、可視化する。
そして、可視化されたスキルに基づいて人と人とが繫がり、協働することで、新たな活躍の機会を生み出していく。
これは個人の多様性を尊重する、非常に「人間的」なアプローチであると同時に、埋没していた人的資本を企業が最大限に活用する、きわめて「合理的」な戦略でもあります。
人と会社が対等に向き合い、共にWin-Winの関係を築く。文字通り、「誰もが」その持てる力を発揮し、成長できる。
変化の激しい時代において、企業が持続的に成長するための源泉は間違いなく「人」であり、その人が持つ「スキル」です。
そのための企業組織のあり方を探求する羅針盤や基準点となるものを示せればと考え、今回、拙著『誰もが成長し活躍する会社のしくみ』を著しました。スキルベース組織とは何か、また組織に導入するためのプロセスまで、「基本」を理解できるはずです。
さあ、チームメンバーの誰もが成長し活躍する組織をつくるための第一歩を、共に踏み出しましょう。

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小出 翔(こいで・しょう)

グローネクサス代表取締役

デロイト トーマツコンサルティングでの14年間のコンサルティング業務において、様々な業界の大手企業から官公庁、自治体まで、のべ120社(団体)500万人の人材マネジメントを支援してきた“人事戦略のプロ”。独立・起業後も、大手電力・製薬・素材業や金融業等にて人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。経済産業省・IPAへの、デジタルスキル標準策定の支援経験もあり、デジタル時代の人材・リスキリング分野に特に強みを持つ。

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(グローネクサス代表取締役 小出 翔)
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