■イラン戦争で登場した「新兵器」
2026年2月28日に開始されたアメリカによる対イラン軍事攻撃は「Operation Epic Fury(壮絶な怒り作戦)」と命名され、4月現在も継続中である。
この作戦に際して、アメリカ軍はイラン国内の軍事目標を攻撃するにあたり、各種の長射程誘導兵器を投入したが、中には今回が実戦への初投入となったものや、これまで存在すら知られてこなかった新種の兵器まで登場した。
そこで、今回アメリカ軍がイラン攻撃に投入した各種の新型兵器について、簡単に整理してみよう。
■安価で大量生産可能な自爆ドローン「LUCAS」
まずは、アメリカ軍が2025年に配備を開始したばかりの「LUCAS(Low-cost Uncrewed Combat Attack System:低価格無人戦闘攻撃システム)」だ。LUCASは、いわゆる自爆型無人機に分類される兵器で、地上もしくは艦艇に設置された発射装置から射出され、最大で800km先の目標を攻撃することが出来る。
全長は3m、翼幅は2.4mと非常にコンパクトであるため、その威力や飛行速度は巡航ミサイルなどとは比べ物にならないが、しかしその分1発当たりの価格が約3万5000ドル(約500万円)と非常に安いという特徴がある。
そのため、堅固に守備された敵の重要施設などは引き続き巡航ミサイルで攻撃する一方で、その他の費用対効果の悪い目標に対してはこのLUCASを使用するなど、目標に応じた使い分けが可能となるわけだ。
また、価格が安価であり、構造もシンプルであるため大量生産も可能であり、戦時の消費に対して迅速に対応することが可能というのも重要な特徴だ。
■イラン製自爆ドローン「シャヘド136」をパクった
皮肉なことに、このLUCASはイラン製の同種兵器をリバースエンジニアリングしたものだ。
■ATACMSに代わる短距離弾道ミサイル「PrSM」
続いて、新型の地対地ミサイルである「PrSM(Precision Strike Missile:精密誘導ミサイル)」だ。
PrSMは、アメリカ陸軍が運用してきた「ATACMS(Army Tactical Missile System:陸軍戦術ミサイルシステム)」を置き換える短距離弾道ミサイルで、射程は約500kmである。
PrSMは、現在アメリカ陸軍が運用しているM270多連装ロケットシステム(MLRS)およびM142高機動ロケット砲システム(HIMARS)から発射することが可能で、M270には4発、M142には2発をそれぞれ搭載することが出来る。
今回のイラン攻撃では、アメリカ陸軍のHIMARSから発射されたPrSMが実戦投入されたことが確認されている。
現在、アメリカ軍で運用されているのはPrSMの初期型である「インクリメント1」と呼ばれるタイプで、敵の固定目標(施設など移動しない目標)を攻撃することはできるが、たとえば艦艇などの移動目標を攻撃する能力は有していない。
しかし、現在開発が進められている能力向上型の「インクリメント2」では、ミサイルの先端に目標を捉えるためのセンサー(シーカー)が搭載されるため、洋上を移動する敵の艦艇を攻撃することが出来るようになる。
また、射程に関しても大幅な向上が予定されている。というのも、PrSMの開発当初には、1988年に米露間で結ばれた中距離核戦力全廃条約(INF条約)により、両国は射程500km~5500kmの地上発射型弾道ミサイルの保有が禁じられていた。そのため、インクリメント1は射程が499kmに制限されていた。
しかし、2019年にこれが失効したため、現在開発が進められているインクリメント2以降は射程1000kmの実現を目指すとされている。
■謎の新兵器「黒いトマホーク」
最後に、今回投入された兵器の中で最も謎多き存在とみられるのが、黒色塗装のトマホークだ。
トマホークは、アメリカ海軍の水上艦艇および潜水艦から発射される長射程の巡航ミサイル。GPS(汎地球測位システム)や地形照合システムなどを駆使し、約1600km先の標的を精密に攻撃する能力を有している。
トマホークは、1991年の湾岸戦争で初めて実戦投入されて以来、これまでに2300発以上も使用されてきた、いわば冷戦後におけるアメリカの軍事力行使の象徴ともいうべき存在である。
運用開始以来、トマホークは各種の能力向上が行われており、現在運用されている最新型の「ブロックV」では、飛行中の目標更新機能と航法機能を維持する航法・通信システムの改良が実施されている。
そんなトマホークだが、今回のイラン攻撃に際してアメリカ軍が公開した画像の中には、これまで知られてこなかった黒色塗装のトマホークが混じっていたことがアメリカの軍事専門誌などで注目を集めた。
一部の見立てでは、このトマホークは先述したブロックVの派生型であり、洋上の移動目標を攻撃可能なようにシーカーを搭載した「ブロックVa MST(Maritime Strike Tomahawk:海上攻撃型トマホーク)」ではないか、との見立てもされているが、詳細は不明だ。
■黒い塗装は「ステルスコーティング」か
ただ、この黒色塗装は単に黒い塗料を塗っただけ、というわけではないはずだ。実際、アメリカ海軍が運用している長射程空対艦ミサイルの「LRASM」も、同様の黒色塗装が施されているが、これは敵のレーダーや赤外線センサーによる探知を困難にするためのステルスコーティングであると考えられている。
とすると、今回確認されたトマホークも、試験的にこうしたステルスコーティングを施したものなのかもしれない。
■「イラン防空網による迎撃」を意識したものか
対イラン攻撃では防空システムによる迎撃が予想され、トマホークのステルスコーティングは、それを意識した措置だったのかもしれないし、あるいは新規に取得したトマホークにはこうしたコーティングが標準化されているのかもしれない。
いずれにせよ、この黒いトマホークという全く未知の兵器が突如実戦投入された事実は、アメリカの兵器開発に関する情報管理の徹底ぶりの証左といえるかもしれない。
今回のイラン攻撃では、これまで解説した3種類の新兵器が投入された。
LUCASは、これまで課題とされてきた高価な誘導兵器の使用と再補充の課題を克服する、安価でそれなりに使える低価格巡航ミサイルとして活用できる。
また、PrSMはその飛翔速度の速さを活かした時間的に制約のある目標(たとえば定期的に移動を繰り返す目標など)への攻撃に、黒色トマホークは敵の防空システムや電子戦システムが展開する重要防護施設への攻撃に、それぞれ有用であるように思われる。
■航空攻撃だけで無力化するのは不可能
ところが、こうした新型兵器を投入してもなお、アメリカはイランの軍事力を完全に無力化できているわけではない。イランは、サウジアラビアのプリンス・スルタン空軍基地に駐機していたアメリカ空軍の「空飛ぶ指揮所」である早期警戒管制機(AWACS)のE-3Gや空中給油機を攻撃したほか、イラン領空内ではアメリカ空軍のF-15E戦闘機が撃墜されている。
また、アメリカの軍事専門ウェブメディア「The Mar Zone」の分析によると、アメリカ軍は約40日間にわたる作戦期間中に延べ1万3000回の出撃を行い、そこで39機の航空機を喪失、10機が損傷を受けたという。
ただし、喪失した機体の大半は無人航空機であるMQ-9「リーパー」(24機)で、有人航空機でも友軍による誤射や意図的に破壊されたものも含まれている。
たしかに、アメリカ軍はイランの主要な軍事施設を破壊し、ミサイル発射装置をはじめとする各種兵器なども無力化していることは間違いないだろう。しかし、イランの領土は広大であり、地下トンネルに隠されたミサイルやその保管施設を航空攻撃だけで全て無力化することは不可能だ。
■事前の見積もりが甘かった可能性
アメリカ軍により撃破されるリスクを最小限化するため、イランはたとえばミサイルを搭載した車両が地上に出てきて射撃準備をし、攻撃を行うという一連の活動が低調になったとしても、生き残っている限りは活動がゼロになるわけではない。
また、2025年6月のアメリカおよびイスラエルによる攻撃と併せて、おそらくイランの防空システムは相当ダメージを受けており、少なくともアメリカ軍が航空機を飛行させている地域においては、組織的な防空戦闘は難しいはずだ。
現在のところ、アメリカ軍はイラン攻撃に航空機と各種ミサイルを投入しているのみだ。たしかに、これらによる精密攻撃は目標を破壊することはできるが、それは攻撃実施時に存在が判明している目標だけであって、先述したような地下施設に隠れた目標を無力化することは難しい。
■ミサイル在庫払底で困るのは「日本」
アメリカ国防総省が明らかにしているところでは、今回の「壮絶な怒り作戦」の目的は①イランの攻撃用ミサイルとミサイル生産施設を破壊すること、②イラン海軍やその他の安全保障インフラを破壊すること、そして③イランの核兵器保有を阻止することの3点だ。
しかし、これらは短期間の航空攻撃だけで完遂できるものではなく、事前の見積もりが甘かったか、あるいは攻撃があまりに政治的な都合で進められすぎてしまった、ということなのかもしれない。
一方で、アメリカが今回の攻撃に多くの兵器を投入したぶん、そのしわ寄せが日本を含むインド太平洋地域に及ぶという見方もある。ミサイル在庫の払底などがアメリカ軍の事態対処力低下につながるのではないか、との懸念だ。
■トマホークの在庫枯渇が危惧されてきた
とくにトマホークに関しては、台湾有事を念頭に中国の航空基地などを攻撃する際の重要な兵器であり、近年その生産能力の低迷や弾薬庫内の在庫枯渇が危惧されてきた。
これについて、アメリカ国防総省も対策を進めており、2026年2月にはトマホークを生産するアメリカのRTX社との間で、トマホークの年間生産数を1000発まで増強することで合意している。
ただし、これには施設の拡充や構成部品のサプライチェーン強化が必要で、効果が表れるまでには少なくとも数年を要するはずだ。
とはいえ、こうした誘導兵器の生産能力向上は喫緊の課題であり、アメリカのみならず日本を含めた同盟国の協力も必要になってくるかもしれない。
■「トマホークを日本で生産」が議論される可能性
現在、日米の間では防衛装備品のサプライチェーン強化に関する定期会合である「DICAS(Defense Industrial Cooperation, Acquisition and Sustainment:日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議)」が設けられているが、たとえばミサイルの飛翔に必要な固体燃料ブースターなどの供給などに関して、日本の協力が今後議論の俎上に上るかもしれない。
いずれにせよ、現在アメリカは高性能かつ高価な誘導兵器に関して、多額の予算を投じた防衛産業へのテコ入れを行っている状況であり、少なくとも生産数に関しては産業界からも明るい見通しが示されている。
インド太平洋地域で今後数年の間に一気に有事が近づいてくるとすれば問題も起きるだろうが、幸いにも現在そのような状況には未だなっておらず、弾薬払底という問題は時間の経過とともに解消していくものと考えられる。
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稲葉 義泰(いなば・よしひろ)
軍事ライター、国際法・防衛政策研究者
専修大学大学院法学研究科博士後期課程卒。国際法・防衛政策について研究するかたわら、軍事ライターとして兵器の動向や各国の軍事事情などについて発信を続けている。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)、共著に『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。
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(軍事ライター、国際法・防衛政策研究者 稲葉 義泰)

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