■アメリカとイタリアの「蜜月関係」崩壊
2026年4月、トランプ大統領が、伊紙「コリエレ・デッラ・セーラ」の電話インタビューに応じて、「彼女は勇気があると思っていたが、間違いだった」「もう以前の彼女ではない」として、メローニ首相を公然と批判した。
これに対して、メローニ首相も「受け入れられない」と応じ、これまで慎重に避けてきたトランプ批判に踏み込んだ。これまでの両者の蜜月関係を思い起こすと、とても考えられないことだった。
2025年1月のトランプ大統領就任式に出席した欧州の首脳は、一人だけだった。イタリアのジョルジャ・メローニ首相である。トランプ氏はメローニ首相を「本物の切れ者」と呼び、両者は「ウェストを再び偉大に(Make the West Great Again)」という共通の標語を掲げた。
その後も、メローニ首相は対米関税問題で真っ先にホワイトハウスを訪れ、トランプ氏のヨーロッパにおける「特別な窓口」として振る舞っている。メローニ首相はアメリカとEUを結ぶ最大の窓口となった。
お互いにメリットのある関係だと見られていたが、ここに来てあっさりと壊れてしまった。
この決裂は政策で対立したために起こったものでなく、構造的に起こった必然の決裂だった。「価値観で結ばれた蜜月」が、国益の衝突という現実の前でいかに脆弱であるかが明らかになったのである。
■イラン攻撃への協力をはっきりと拒否
対立の直接の引き金になったのは、イラン戦争をめぐる軍事協力問題だった。米軍はイランへの作戦行動に際し、シチリア島にある米海軍航空基地シゴネッラへの爆撃機寄港を求め、イタリア政府は公然と拒否した。
シゴネッラ基地は地中海作戦の要衝であり、NATOの枠組みでも重要な位置を占めている。フランス政府が南仏の基地について「米軍機の攻撃任務には使わない」という条件付きで柔軟に対応したのと比べると、イタリア政府の態度は冷淡に見える。
実際、これは多くのメディアでも意外なことだと受け取られた。
■外交上の友情より国民経済を優先した
イタリア政府は「二国間の基地使用協定の規定に従った」と説明したが、トランプ政権側は当然受け入れると考えていただけに、「メローニの裏切り」に近いものに感じられたはずだ。
イタリアは、ホルムズ海峡問題でも慎重姿勢を崩していない。イランが事実上閉鎖した同海峡は世界の石油輸送量の約2割が通過する重要海域であり、その混乱はエネルギー輸入依存度の高いイタリア経済を直撃する。
トランプ大統領が同盟国に「自分でエネルギーを取りに行け」と迫るなか、欧州各国はたしかに軍事関与に慎重である。
ローマ大学ルイス校の政治学者フランコ・パヴォンチェッロ教授は「イタリア政府は欧州の同盟国に対して、アメリカの言いなりとは見られるわけにはいかなかった。それは国内政治にも欧州外交にも深刻な影響を与えるからだ」と分析している。
ここで重要なのは、メローニ首相が「反米」に転じたわけではないことだ。
だが、中東危機となると話が変わる。エネルギー価格の高騰は家計・企業・財政のすべてを直撃し、政権の生命線である国民生活に即座に影響を与えるからだ。外交上の友情よりも、国民経済の現実が優先されたのだ。
■教皇攻撃という「越えてはならない一線」
軍事協力拒否に続いて、決定的な亀裂をもたらしたのが教皇レオ14世をめぐる発言だった。
トランプ大統領は、イランへの軍事作戦に対して「神はいかなる戦争も祝福しない」と語った教皇を、「戦争について何もわかっていない」「核の脅威を理解していない弱い人物だ」とSNSで攻撃した。
メローニ首相はこれを「受け入れられない」と公然と反論し、「教会の指導者が平和を求め、すべての戦争を非難することは正当であり、自然なことだ」と述べた。
イタリアにおいて、ローマ教皇はたんなる宗教的権威ではない。カトリックとイタリア政治の深い結びつきは歴史的に深く、今もなおイタリア国民のカトリック人口は約7割を超えている。
教皇への攻撃に同調すれば、中道右派から左派まで、政党の左右を問わず激しい批判を浴びることになる。野党の民主党(PD)書記長エリー・シュライン氏は「イタリア国民として団結すべき問題だ」と与野党を超えた連帯を呼びかけており、メローニ首相がここでトランプ側に立てば、格好の攻撃材料を与えることになっていた。
メローニ首相の「受け入れられない」発言は、表面上は道徳的な信念の表明であるが、実際は高度に現実的な政治判断だった。
■看板政策は否決、次の選挙に暗雲
外交圧力に加えて、メローニ首相の国内基盤も同時期から揺らぎ始めていた。2026年3月22~23日に行われた司法制度改革をめぐる憲法改正国民投票で、賛成約47%、反対約53%という結果で否決されたのだ。
この改革は、裁判官と検察官のキャリア体系の完全分離を柱とするもので、メローニ首相が看板政策として推し進めてきたものだった。司法を「左派の牙城」と位置づけて批判する保守勢力の論理からすれば、訴求力の高い改革テーマのはずだった。
それにもかかわらず否決された背景には、単に改革内容への反発だけでなく、「政権全体への不満が反映されている」という指摘がある。中東情勢の緊張やエネルギー価格の高騰や深刻な人手不足による景気停滞に不安を抱えた有権者が、今回の投票を「メローニ政権への不信任」の表明手段として利用したと考えたわけである。
投票率は約60%と予想を大幅に上回る高さだった。2016年の国民投票敗北で首相の座を退いたマッテオ・レンツィ元首相は「指導者が魔力を失うと、人々は一斉に懸念を抱き始める」と語り、今回の結果はメローニ首相の「勝者のオーラ喪失」だとレッテルを貼った。
2027年に予定される総選挙に向けて、これまで分断されていた中道左派勢力(民主党と五つ星運動)の連携機運が高まっていることに、メローニ政権は警戒している。
2025年末には最大労組CGILが主導する大規模ストライキも起きており、政権への逆風は外交問題に留まらない。支持基盤が軟化している局面で、不人気な対外政策に踏み込むことは政権基盤をさらに弱体化させるリスクを孕む。
昨年は、約50万人にも達する大規模な移民受け入れを決めており、メローニ首相は妥協を重ねざるをえない苦境にある。
■「橋渡し戦略」の消費期限を迎えた
メローニ首相がトランプ大統領との近さを国際的資産として活用してきた戦略の核心は「トランプとEUの橋渡し役」という地位の確立である。
ローマのルイス大学政治学者ロベルト・ダリマンテ教授は「アルジャジーラ」の取材に対して、「メローニ首相はトランプと欧州同盟国の間の橋渡し役を果たそうとしていた。当初はうまくいく戦略に見えたが、今となってはそれが負債になり、修正を迫られている」と述べている。
この「橋渡し戦略」は一定の成果を上げた時期があった。対米関税交渉でメローニ首相は「トランプと話せる唯一の欧州指導者」としてEU内で一定の発言力を持ち、イタリア国内でもその国際的存在感が支持率に好影響を与えていた。
ところが、イラン戦争の勃発とともに、その構図は逆転する。トランプに近すぎることが、今度はコストになり始めたのだ。「なぜイスラエルの戦争に付き合わなければならないのか」というイタリア国民の憤りは、ガザでの民間人被害を繰り返し目にしてきた映像の蓄積とも相まって、強い反発を生んでいる。
■「裏切り者」は絶対に許さない性格
トランプ氏が同盟国に軍事協力を迫れば迫るほど、メローニ首相はその板挟みに苦しむことになる。
ここにトランプ外交の根本的な問題が浮かびあがる。
トランプ大統領は「アメリカ第一主義」を掲げる分、同盟国の国内事情への配慮を欠きやすい。
また、仮想敵である中国に対してさえ、アメリカの国益になると判断すれば意外なほどの譲歩を見せることがある。つまりトランプ外交において、「近さ」は必ずしも優遇に結びつかない。
そうなると、蜜月関係の維持にさほどメリットがなくなってしまう。
■メローニはトランプほど自由ではない
もう一つの構造的要因として見逃せないのが、民主政治の制度的文脈である。メローニ首相はトランプ大統領と政治的なスタンスが近くても、置かれている政治環境がまったく異なる。
アメリカ大統領は固定任期制のため、議会や世論の反発をある程度無視して外交判断を下すことができる。一方、イタリアの議院内閣制では、日本と同じように、首相は常に連立内の合意と国会の信任に依存している。
野党の攻撃、労働組合の圧力、カトリック世論の反発、連立与党内の反目などが、メローニ首相の「外交的自由度」をいつも制限する。
イタリアでは全国規模のゼネストが頻繁に発生し、保守系政権でさえ労組の動員力の前に政策を修正せざるをえない局面がある。日本やアメリカの保守政治家と比べて、メローニ首相がトランプ大統領への「友情」を貫くことは、制度的にはるかに難しい環境にあるのだ。
そもそも、「思想が近いから政策も一致する」という見方は、各国の政治制度や国内構造を無視したものだ。移民政策やLGBT問題のような国内文化戦争の争点では価値観の共鳴があったとしても、エネルギー安全保障や軍事作戦への参加という「生活と安全」に直結する問題になると、各国の国益が前面に出てくるのが当然だろう。
■「日米の保守連盟」はどうなる?
メローニ首相とトランプ大統領の決裂は、日本にとっても重要な示唆を持つ。高市首相もまた、トランプ大統領との「保守同士の連帯」を外交の資産として活用しようとしているからだ。
まず確認すべきは、今回の決裂が政策上の食い違いではなく、「構造的必然」として起きた点だ。メローニ首相はトランプ大統領に近づくことで「橋渡し役」という地位を得たが、国民経済への直撃という現実の前では、その近さをコストなく維持することができなくなった。
日本経済はエネルギーの輸入依存度が高く、ホルムズ海峡の混乱は即座に国民生活を直撃する。トランプ政権が日本に軍事的関与を求める局面が来れば、「同盟の義務」と「国民の安全と生活」の板挟みになることを避けられない。そのとき、「トランプと近い首相」という資産は一夜にして負債に転じる。
■もし高市首相が「NO」と言ったら…
第二に、トランプ外交の論理を冷徹に読み解く必要がある。「思想的に近い相手ほど、忠誠心を強く求める」のがトランプ氏の行動原理だ。「自分の側の人間」が従わないときの怒りは、距離を置いていた相手に対するそれより激しい。
日本が「同盟の特別な友人」を演じれば演じるほど、協力を拒否したときの代償が大きくなる。メローニ首相が経験したことを、高市首相は先例として学ばなければならない。
第三に、「価値観の共鳴」を外交の基軸にすることの限界を認識すべきだ。安全保障や経済という「生活と安全」に直結する問題においては、価値観よりも国益が優先されるのは当然だ。高市首相が拉致問題や北朝鮮政策でトランプ政権の協力を引き出そうとするなら、それは「友情」ではなく「取引」として設計しなければ機能しない。
では、日本はトランプ大統領とどう向き合うべきか。
答えは「適切な距離感の構築」である。メローニ首相が陥った罠は、近づきすぎたことで引き離すコストがあまりに大きくなった点だ。日本がとるべき対トランプ外交は、特定の政策課題ごとに協力の範囲を明確に設定し、「どこまでは協力し、どこからは協力できないか」を交渉の段階であらかじめ明確にしておくことである。
■「取引相手」としての振る舞いが重要
反対に、「日本は何でも言うことを聞く」と思われると、要求はエスカレートしかねない。漠然とした同盟への依存ではなく、取引の内容を具体化し、日本の国益を軸に「譲れない線」を設定することが重要だ。
最後に、メローニ首相が直面した国内政治との乖離という問題も、高市政権には他人事ではない。議院内閣制において首相の外交的自由度は常に国内政治に制約される。トランプ大統領がそのことを理解し、配慮してくれる可能性は低い。
トランプ外交の本質は「ディール(取引)」だ。「譲れない一線」を明確にし、その合理的な理由を簡潔に説明し、かつアメリカ国内向けの「果実」を与えてメンツを潰さないことが基本になる。
米伊関係からわかるように、価値観のみで結ばれた蜜月はいつか現実によって上書きされる。トランプ大統領とは「友情」を深めると同時に、ドライな取引のできるパートナーシップになるように、外交のあり方をつねにアップデートし直すことが必要だ。それが、メローニ首相の轍を踏まないために、日本が常に持っておくべき青写真である。
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白川 司(しらかわ・つかさ)
評論家・千代田区議会議員
国際政治からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。『月刊WiLL』にて「Non-Fake News」を連載、YouTubeチャンネル「デイリーWiLL」のレギュラーコメンテーター。メルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評。著書に『14歳からのアイドル論』(青林堂)、『日本学術会議の研究』『議論の掟』(ワック)ほか。
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(評論家・千代田区議会議員 白川 司)

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