■日本で最も救急搬送を受け入れている
頭が痛い、胸が苦しい、ひどい火傷(やけど)をした、事故に遭った、家族や友人や同僚が目の前で突然倒れた――。そのような緊急事態に遭遇したら、119番にコールし、救急車を呼びたいと考えるだろう。日本では119番を回せば、日本全国どこにいても、救急車による救急搬送サービスを受けることができる。ところが近年は、救急車が現場に駆けつけても、救急患者を受け入れる医療機関が見つからない、だから「患者が医療を受けられない」ということが地域によっては日常的に起こってきた。コロナ禍で「コロナ患者の受け入れ拒否」が社会問題になったが、それより前からいわゆる“たらいまわし”は救急現場で起きていたのだ。私は2019年に救急の危機的状況を記した『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)を出版している。
そのような中、日本で最も救急搬送を受け入れているのは、神奈川県の湘南鎌倉総合病院の救命救急センター(=ER/救急総合診療科)だ。24時間365日“断らない救急”を掲げ、2025年には約1万8000件の救急車による搬送を受け入れた。2025年度には約1万8000件の救急搬送を、ウォークイン(徒歩来院)患者を含めると、年間約5万人の救急患者を受け入れている。
救急患者を断らない――スローガンに掲げるのはたやすいが、現場で実践することがいかに難しいか。
にもかかわらず、湘南鎌倉総合病院はすべての患者を受け入れ、救急搬送受け入れ数は年々伸び、黒字の状況という。しかも医師は無理なく勤務できる8時間勤務が基本。強い体制の源にあるのは何なのか。同院小林修三院長へのインタビューから読者のビジネスと健康に役立つ「心得」を記したい。
■赤字になるわけがない
「断らないマインドはERだけでなく、各科の医師全員が持っています。“全員野球”ですよ」と小林院長。
「そうでなければコロナ禍も乗り越えられませんでした。救急というのはあくまで入り口。患者さんにとっての出口とは、症状の原因がわかるだけでなく、病気が治ることでしょう。それには各科医師の力、専門性が欠かせません。
救急医療で診断や初期治療を行い、専門医に引き継ぐ。その連携が同院はスムーズなのだ。これにはリーダーの下、皆が同じ方向を向く必要がある。救急患者を受け入れられない病院の中には、救急医と各科専門医が足を引っ張り合ったり、孤立する科があったりして、チームワークが機能していないことが少なくない。
同院では看護師の存在も大きい。
「救急患者を受け入れるベッドを空けられるのは、看護師さんの働きです。どの病棟で何時に空きが出るのか(患者が退院するのか)をすべて把握している。時にはオペが遅れたり早まったりして、空き状況が予定通りにいかない中でも『必ず受け入れベッドをつくる』というコントロール力が素晴らしい。午前中に患者さんが退院したら、そのベッドに午後は違う患者さんが入院してきますから、病床稼働率は常に100%以上。これで赤字になるわけがないでしょう」
看護師の補助業務を行う救急救命士もいる。他院では救急車の患者受け入れや、転院する必要が生じた場合の電話応対などを医師や看護師が担うことが多いが、同院では救急救命士が行うのだ。
■救急医の「完全3交代制」を実現
さらに同院ERでは13年から救急医の「完全3交代制」を実現している。どの時間帯も8~9時間勤務が基本で、終業時間がきたら自分が診察した患者はなるべくチームに託す。
私は全国の救急医療現場で、24時間、時には48時間連続勤務というような過酷な労働環境に身を置く救急医を目にしてきた。取材当時、もし私が患者なら、これほど疲労困憊で判断力が鈍った医師に診察してほしくないと思った。シフト制の導入は、医師はもちろん、患者の命も守ることになる。
とはいえ「医師の働き方改革」による影響はないのか? と問うと、「もちろん大変です」と小林院長が答える。
「けれども思い出されるのは、(徳洲会創設者の)徳田虎雄先生の言葉です。徳田先生は『アマは言い訳する。プロはやり方を考える。お前らプロだろ、考えろ』とよく言っていました。
すべての患者を受け入れるという熱い思いとプロ意識、加えてチームワーク、それぞれが自分の仕事に専念できるという人の配置――湘南鎌倉総合病院の医療体制は、他業種のモデルにもなると感じた。
■「軽症」に思えても、実は「重症」のケース
さて患者側の心得はあるか。
国は「救急車の適正利用」を盛んに呼びかけ、救急車を呼ぶか、病院へ行くかどうかを迷ったら救急相談ダイヤル「♯7119」の活用を勧める。相談ダイヤルでは医師や看護師、救急救命士らが患者の病気や症状を把握しようと努め、救急車を要請したほうがいいかどうかのアドバイスを行う仕組みだ。高齢化に伴って救急車の出動件数が増加しているため、それを抑えようと国は相談ダイヤルを推進するのである。
しかし一見「軽症」に思えても、「実は重症のケース」は山ほどある。二日酔いや風邪のような症状を訴えていた患者が心筋梗塞だった、腰痛があるからと整形外科を受診した患者がその後大動脈解離で死亡してしまった……これまでそういった実例をどれほど聞いただろう。
またよく言われる「安易に救急車を呼ばないでください」と言うのは正論だが、いざ自分や家族が当事者になると、その「安易」の定義が難しい。
「いつもと違う、何かがおかしいと思ったら、躊躇(ちゅうちょ)せずに救急車を呼んでください」と小林院長は言う。
「『軽症で救急車を呼ばないでください』と言うのは間違いです。軽症か重症かは一般の方には判断できませんし、医療経済的にも病が進行する前に病院にかかって血液検査やCT検査などを行ったほうが低コストなんです。診断が遅れれば病気が進み、治癒までに時間がかかって、医師の手も医療費も一層必要になります。もちろん患者さんだってつらい。私が新米医師の頃は、CTやエコーがありませんでしたから、一枚の心電図やレントゲン写真を前に医師が皆で『うーん』と腕組みをして考えていました。私はそれを“医者の権威”と呼んでいます。いかにも知ったような顔をして仕事をしてね(笑)。でも今はそんなことに時間をかける時代ではないのです。患者さんはおかしいと思ったら早めに医療機関を受診する。治療者側は患者さんの万が一のことや、幸せを考えたら、まずはスピーディに客観的検査を行うことが重要です」
つまり小林院長が言いたいのはこういうことだ。
素人が「軽症」と判断しても、実際には重症が隠れていることが珍しくない。
同院ERの医師もこう言った。
「自分がつらい、救急車が必要だ、と思ったときは救急車を呼んでいいんです。それが結果的に軽症であっても」
それらの言葉を聞き、私はほっとした気持ちになった。軽症の陰に重症が隠れていることも多い――読者はそれを頭にとどめてほしいと思う。
「断らない救急」で黒字! 湘南鎌倉総合病院の医療体制
・病床稼働率100%以上
・タスクシフト・タスクシェアを推進
・完全3交代制(8時間勤務が基本)
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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。
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(ノンフィクション作家、ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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