なぜ税負担が軽くならないのか。エコノミストで日本成長戦略会議の有識者メンバーの会田卓司さんは「財務省には、消費税を中心とした『安定財源』重視の考えがある。
しかし、景気の良し悪しに関わらず税金を取り続けることは日本経済の成長を止めるリスクがある」という――。(第1回)
※本稿は、会田卓司『サナエノミクス 高市成長戦略』(ワック)の一部を再編集したものです。
■財務省が減税を拒む真の理由
――財務省が「プライマリーバランスの黒字化」を目指したがる方向はよくわかりましたが、消費減税に及び腰なのも、その一環でしょうか? 減税したら、将来的に景気が良くなった際、税収増も少なくなるという思惑があるのでしょうか?
特に減税を嫌うのは、消費税に対してですね。消費税は景気が良くても悪くても、消費量は大きく変わらないので、消費税収入は安定財源になります。一般企業を考えれば、変動の大きい収入よりも安定した収入のほうがいい。政府も同じで、安定収入のほうがいいと思ってしまうわけです。
ただ問題があります。景気の良し悪しに関わらず一定の税収を取ってしまうということは、景気の振幅をより大きくしてしまいます。景気が良い時に税収をたくさん取るのはいいでしょう。所得税には累進課税制度があり、それが景気を安定させます。
その一方で、景気が悪化し、企業が赤字になれば法人税が減り、累進課税ですから所得税も減りますから、自動的に減税になり、やがて景気を押し上げます。失業手当などのセーフティーネットの支出も増えます。
これを財政の「景気の自動安定化装置(ビルトイン・スタビライザー)」と呼びます。
■「社会保険料」を盾に消費税を引き上げる
いわば税や社会保障制度にあらかじめ組み込まれた景気変動を自動的に緩和する機能ともいえ、好況時には所得が増えるため、累進課税によって税収が自動的に増えます。一方、不況時には所得が減るために所得税が下がり、失業保険などの社会保障費が増えることで、消費の冷え込みを緩和する効果を生みます。
ただ「安定財源を目指す」というと聞こえはいいのですが、景気の良し悪しに関わらず、一定の税収を取ってしまうと、景気の自動安定化装置が働かず、景気の振幅を大きくするという代償を払うことになる。それなのに、財務省は消費税にシフトしたいのです。
法人税、所得税という不安定な財源から消費税に比重を移せば「安定財源」が確保されます。したがって「社会保険料の財源が必要だ」と声高(こわだか)に叫ぶのです。しかし安定財源というと良いことのように思えますが、結果として景気の振幅を大きくしています。安定財源と景気の安定は二律背反の関係にあるということがあまり知られていません。
消費税はそもそも社会保障目的で設立されましたが、一般財源です。ただ、社会保険料全体と比較すると消費税額は当然、小さいし、お金には色がついてないので、ある意味で「すべて社会保険料に使っている」としている。2014年からの消費税引き上げと社会保障費の増加額を比べると、社会保障費の増加額のほうが小さく、消費税収のほうが6兆円程度も大きくなっています。

■食料品減税はすぐに実行できるのに…
ということは、社会保障費の増加分以上、消費税は増加しています。景気が弱く家計が苦しい中、政府は取りすぎているとも言えます。今回の選挙に関連して、マスコミの論調で「そもそも消費税は社会保障費に対するものだから、消費税を下げると結局、社会保障の手当てが薄くなる。どうするんだ」という論議もありました。
しかし実際は、政府は税金を取りすぎなのです。当初予算では控えめに見積もられていても、26年度の当初予算は25年度当初予算と比較すると、税収見積もりで6兆円ほど増えています。したがって消費税の食料品減税分5兆円くらいなら、余裕をもって捻出できるはずです。
そして名目GDPが増加を続ければ、27年度の税収は26年度に増えたところから、さらに増えます。経済規模が持続的に拡大する中では、経済成長による税収増は恒久財源になります。
これまでのように経済規模が持続的に拡大しない中では、税収は減ることもあるため、経済成長による税収増は一時的な財源と見なされました。この認識の変化がまだできていないことも「緊縮思考の呪縛」です。高市政権は、経済規模の持続的な拡大にコミットしていますから、経済成長による税収増を財源にすることは理に適っています。

■取りすぎた5兆円の税収の正体
もう一つは、24年度、25年度の2年間を考えると、当初予算から補正予算を組むときに歳入が7兆円ほど上振れています。前述しましたが、財務省は歳入を毎年5兆~7兆円ほど過少に見積もるクセを持っています。そして補正予算を組む時に修正され、使われます。
つまり、5兆円も取りすぎていますし、現在のインフレで上振れているのはほぼ食料であり、その分を困っている国民にお返しするのは、まったくおかしな話ではありません。社会保障にも影響するはずがありません。「財源は?」と騒ぐ必要もなくなります。
――高市首相は強い言葉を使って信を問い、圧勝したわけですし、積極財政を支持する野党を含めた勢力が躍進したわけです。すると財務省も、その声を聞かざるを得なくなりますよね。
財務省が積極財政を否定しているのかどうかは議論の余地がありそうですが、あまり歓迎してはいないようです。やはり財政収支赤字の方向に進んでしまうことへの危惧(きぐ)もあり、もう一つは、やはり政治家は“有権者のために”使いたがるので、財務省がブレーキ役にならなければという役回りを自負しているのでしょう。
■なぜ日本だけが経済成長できないのか
確かに、官僚がしっかりブレーキを踏んでおかなければ、民主主義はポピュリズムによるバラマキに陥りがちなのかもしれません。メディアにもそのような考え方が多く、「G7各国の財政赤字がなかなか減らないのは、政治がポピュリズム化してバラマキがされているから」という論調が蔓延(はびこ)っています。
しかし、それは正しくありません。
確かに、新自由主義的思想による経済政策運営は、政府の関与をできるだけ小さくし、効率的な民間経済の自由度を高めようというものですから、財政健全化路線と親和性が高かった。
ところが、現在のグローバルな経済政策の潮流は、多様化する中長期の経済・社会の課題を解決するための官民連携の投資と需要の拡大を目指す成長投資の競争です。成長産業や新技術への政府の投資が拡大していることが、世界各国とも財政赤字が減らない理由でもあるのです。
このように、世界的には政府の成長投資の拡大余地を残すために財政収支を一定の赤字に収めようとする柔軟性が大事になっているのに、先進国でプライマリーバランスの黒字化目標という硬直化した財政運営をしているのは日本だけです。
今までの政府や政治家もなかなかできませんでした。
■経済復活の鍵は「負債の質」を変えること
それはやはり政府の介入を最小限にし、規制緩和、民営化、自由競争を推進する「新自由主義」の発想にとらわれていたからですが、「自己責任」を重視し政府の役割を民間に任せるとなると、やはりプライマリーバランスの堅持となってしまうわけです。
しかし赤字の額を問題にするのなら、経常的歳出は税収・税外収入の範囲内に収めるとしても、成長投資は国債の発行で行えばいいのです。経常的歳出とは、将来の所得や成長をもたらしたり、将来のためにインフラを整備したりする投資的歳出以外のものです。経常的歳出を税収・税外収入の範囲内に収めることで、財政規律が保てます。
成長投資の是非は、国債の利払い負担を上回る便益を将来に残せるかで判断されます。上回れば、成長投資は国債発行ですることができます。
そして、将来の便益の現在価値を計算する社会的割引率は4%と極めて高いため、現実的な水準に引き下げることで、成長投資のハードルを下げることができます。
成長投資のグローバルな激しい競争の中、日本だけが無用な足かせをはめて戦えば、競争に敗れ、国力のさらなる低下をもたらしてしまいます。とはいえ、油断すると今まで通りのバラマキになってしまう可能性があります。財務省は手綱(たづな)を締めなければならない。ただ締めすぎると成長投資まで抑制されるという矛盾に陥ってしまいます。
■積極財政で国力を強化する
今まさにその対立軸をめぐる争いになっているといえます。高市政権も積極財政でグローバルな経済政策の潮流の変化に乗るため、より柔軟な財政目標に変えて成長投資の競争を勝ち抜き、国力の強化に取り組むことにしています。
とはいえ、プライマリーバランスの黒字化は積極財政では無理なので、たとえば、人件費などの経常的な収支は税収・税外収入の範囲内にし、投資的な経費、成長投資は国債でやるのがいい。そういう施策を講じれば、財務省も政権の財政目標を受け入れ、柔軟な財政規律を目標に変えることができるでしょう。
また、日本政府はずっと単式簿記(金の収入や支出など一つの取引要素のみを家計簿のように記録する手法)で予算を運用していますが、転換できる可能性は大きいはずです。私は「資金循環統計」というものを使っていますが、これは複式簿記(すべての取引を「借方」と「貸方」という2つの側面〈原因と結果〉から記録する会計手法)であり「誰かの資産は誰かの負債」という考え方です。
■借金を返すほど日本は苦しくなる
そういう考え方をすれば、国債残高とは、いわゆる国民、民間の資産であることがしっかり理解できるはずです。
要するに会計の世界では、国債残高を100兆円減らすのは、いわゆる民間の資産を100兆円減らすことと同じです。
ですから複式簿記の考え方をすると、減債という概念そのものがおかしいことが理解できます。だからこそ諸外国では減債などしません。
減債とは、国や地方自治体、企業などが負債(借金)を計画的に返済し、減らしていくことですが、特に満期に一括して返済する地方債などの元本支払いに備え、毎年度一定額を積み立てる「減債基金」や、長期負債の返済に備える「減債積立金」などがあります。
ただ、景気があまりにも強く、景気を抑制しようとするときは、減債は大きな引き締め効果があるので実行することもあります。税収で借金を返すという減債方法による景気過熱時の引き締め策は、ITバブル期のクリントン政権が行ったことがあります。

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会田 卓司(あいだ・たくじ)

エコノミスト、「日本成長戦略会議」有識者メンバー

1975年生まれ。埼玉県立浦和高等学校卒業後、米国スワースモア大学経済学部・数学部卒業(Honors)。ジョンズ・ホプキンス大学経済学博士課程単位取得退学。メリルリンチ日本証券、バークレイズ・キャピタル証券、ブレバンハワード・ジャパン、UBS証券、ソシエテ・ジェネラル証券、岡三証券などでエコノミストを歴任。現在、クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト。文化放送『おはよう寺ちゃん』レギュラーコメンテーター。照夫(父)はヤクルト、有志(弟)は巨人の元プロ野球選手で、有志は現在、巨人軍三軍監督。従弟は元関脇隆乃若。2025年11月より、高市政権が設置した日本成長戦略会議の構成員に就任。主著に『日本経済の新しい見方』(金融財政事情研究会)、『日本経済の勝算』(経営科学出版)、『日本経済 成長の道筋が見えた』(ビジネス社)がある。

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(エコノミスト、「日本成長戦略会議」有識者メンバー 会田 卓司)
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