ビジネスの場において、「クールビズ」の正解はあるのか。スタイリストの森井良行さんは「この数年で夏の身だしなみの正解が変わりつつある。
特にノーネクタイ時のシャツには、多くの人が陥りがちな盲点がある」という――。
■大事な商談で「ノーネクタイ」は失礼にならないか
はじめて訪問する取引先に向かう道中、こんな迷いが頭をよぎる瞬間はありませんか。
「クールビズとはいえ初対面の商談、ノーネクタイで『誠意がない』と誤解されないだろうか」

「かといって、この猛暑のなか自分だけネクタイを締めていると、逆に空気が読めない堅物に思われないか」
ビジネスシーンにおける「身だしなみの正解」は、十数年前までシンプルなものでした。それは気温にかかわらず「スーツにネクタイを締める」という共通言語を守ること。ところが近年、その根本が変わりつつあります。
今回は、クールビズに対応した「夏の身だしなみ攻略法」をお伝えします。
■「型を守るだけ」の着こなしは絶対NG
最高気温が40℃を上回る「酷暑日」が現実のものとなり、オフィスカジュアルも広く浸透した現在、夏のビジネスウェアにおける正解は1つに絞れなくなりました。身だしなみにおける「敬意の示し方」も、変化しているからです。
これまでの「決められた型を守る」から、「相手のカジュアル感(温度感)に合わせる」に“正解”が変化しているのです。
このパラダイムシフトを象徴するエピソードを紹介します。オフィスカジュアルが今ほど進んでいなかった数年前に、筆者が大手外資系IT企業にお勤めのクライアントから伺った話です。
ある日、銀行に訪問するためスーツにネクタイ着用で出勤し、その格好のままゲーム会社の打ち合わせに同席しました。
すると、すでに関係性を築いていたこともあり、「何、そんな堅い格好しているの」と冗談交じりに声を掛けられたそうです。
このエピソードから学べるポイントは、まさに「相手のカジュアル感に、身なりを合わせる重要性」ではないでしょうか。そして「正解に幅がある状態」こそが、多くのビジネスパーソンを悩ませ、気づかぬうちに印象面でノイズ(誤解の元)を生んでいると私は捉えています。
それではファッション知識がなくても実践できる「相手に不快感を与えない」夏のビジネスウェアの方向性について、具体的に考えていきましょう。
■畳んでバッグに仕舞える「ひみつ道具」
「相手のカジュアル感に合わせるのが敬意」としても、初めての訪問では相手がどのような服装で現れるかわかりません。とくに商材を提供する側(提案に赴く側)である場合、猛暑だからといって、最初からノージャケットとノーネクタイの軽装で訪問するのは、相手によっては「軽く見られている」と誤解されるリスクを伴うものです。
自分のキャリアや提案の中身とは全く関係のないところで、外見によって「本当の実力が伝わらない」ことほど、もったいないことはありませんよね。このジレンマを解消する最適解は、「その場で変えられる着こなし」です。
具体的には、カッチリとしたワイシャツ姿に、芯地のない軽量な「サマージャケット」を着用していくこと。シワがつかない化学繊維のサマージャケットは、畳んでバッグに仕舞っても問題ありません。つまりは現場の空気感や、お相手がネクタイを締めた堅い服装であれば、サマージャケットを羽織ったままでOK。一方、お相手がポロシャツやTシャツなどカジュアルであれば、まるで折り畳み傘のような感覚で、その場でバッグに仕舞うことも可能です。

「状況次第で装いをコントロールできる状態」をつくっておくことは、相手のカジュアル感に合わせやすい作戦として有用ではないでしょうか。
■日本の「夏の定番シャツ」の盲点とは
サマージャケットに合わせる「ノーネクタイのシャツ」について、多くの方が陥りがちな盲点があります。それは「ネクタイを締めないならば、襟(えり)が崩れないボタンダウンシャツ(※襟の先端を小さなボタンで留めるデザインのシャツ)が無難」という思い込みです。
たしかにクールビズの普及以降、日本のオフィスでは「ノーネクタイ=ボタンダウンのワイシャツ」というスタイルが定番化しました。ところが服の歴史的な成り立ちから言えば、ボタンダウンはポロ競技(馬に乗って行うスポーツ)の際に、風で襟が顔に当たるのを防ぐためにボタンで留めたのが始まり。つまり「スポーツ由来のカジュアルアイテム」なのです。
そして、じつは「ボタンで留めているから崩れない」という認識こそワナです。
スポーツ由来のボタンダウンシャツは、一般のワイシャツのような「カラーステイ」と呼ばれる着脱可能なプラスチックパーツが入っていません。つまり襟の芯地は柔らかいため、ネクタイという首元の「土台(支え)」がない状態では、第一ボタンを開けたとき、首回りで「くちゃっ」と不自然に折れ曲がってしまいやすいのです。これは襟先がボタンで固定されているがゆえ、生地のたわみの逃げ場がなくなることが関係しています。
一般的なシャツのように襟先がピョコッとだらしなく広がるのも問題ですが、ボタンダウン特有のこの「立体感の崩壊(歪み)」も、第一印象で誤解を招く原因と言えるでしょう。
■ノーネクタイ時の「シャツ選び」2つの鉄則
では「ボタンダウンに頼らず、ノーネクタイでもだらしなく見えないシャツ」の最適解は何か。
チェックすべきポイントは、「生地のハリ」と「襟の形状」の2点に集約されます。
①「生地のハリ」でパリッとした印象
昨今はアイロンがけが不要な「ノンアイロンシャツ」や、伸縮性のある「ノンアイロンのニットシャツ」が主流です。これらは機能的ですが、モノによっては生地が柔らかすぎて「ふにゃっ」とした頼りない印象になりがち。
ノーネクタイのとき、生地にハリ感がないワイシャツの第一ボタンを開けている姿は、パリッとした印象とは遠いものです。この状況を避けるには、高級なコットン100%である必要はなく、ポリエステル混紡のものでも構いません。試着時や店頭で触れた際に、ペラペラしていない「適度な硬さ」がある生地感のものを選んでください。
②ボタンダウンに代わる「ワンピースカラー」の選択
襟の自重による「くちゃっ」とした崩れを防ぎ、ノーネクタイでも立体的でエレガントな首元を作るのが、「ワンピースカラー(イタリアンカラーとも呼ばれます)」という襟型のワイシャツです。
一般的なワイシャツは、襟とボディーをつなぐ「台襟」という別パーツがありますが、ワンピースカラーはこの台襟がなく、襟から胸元にかけて、一枚の生地でロールするような仕様です。そのため第一ボタンを開けて着たとき、「襟の自重で首元が崩れることなく」凛とした曲線を描きながら襟が立ち上がります。つまり、ネクタイがなくともVゾーンに圧倒的な華やかさと威厳をもたらしてくれるのです。
■ビジネスの身だしなみは「相対評価」の世界
ビジネスにおける身だしなみとは、自分自身が「これを着たい」という絶対評価ではなく、相手がどう感じるかという「相対評価」の世界です。
「とりあえずボタンダウンを着ておけばいい」や、「服装規定を満たしていれば問題ない」という思考停止から一歩抜け出し、アイテムの持つ背景や、生地の物理的な特徴に少しだけ意識を向けてみてください。

生地のハリ感で体型をカバーし、ワンピースカラーで首元のノイズを除去すること。そして相手のカジュアル感に合わせてサマージャケットを着脱するだけ。こうした「見られ方のリスク管理」を実践することで、薄手の季節も、あなたがこれまで培ってきた実績や内面の魅力が、正しく評価されるようになると確信しています。
薄着の季節だからこそ、相手への敬意と自身の威厳を両立させる「大人の実用ルール」を、ぜひ明日から取り入れてみてください。

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森井 良行(もりい・よしゆき)

スタイリスト、服のコンサルタント協会代表理事

1979年千葉県生まれ。日本大学卒業後、一般企業を経て2007年に独立。これまでのべ5500人を超えるビジネスパーソンの買い物に同行し、スタイリングを手がける。感性で語られがちなファッションを独自のロジックで言語化し、戦略的にビジネスパーソンの魅力を引き出す着こなしのメソッドに定評がある。MENSA会員。著書に『38歳からのビジネスコーデ図鑑』(日本実業出版社)、『男の服選びがわかる本』(池田書店)などがある。

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(スタイリスト、服のコンサルタント協会代表理事 森井 良行)
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