※本稿は、田宮寛之『日本人が知らない‼ 世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■インフラ整備は喫緊の課題
4月27日、日経平均株価は終値ベースで史上初めて6万円を突破した。その一方で、ロシアのウクライナ侵攻、米国のベネズエラ、イランへの攻撃など国際情勢は混迷を深めるばかり。国内では人手不足とインフレ進行が深刻な問題になりつつある。
こんな状況では「今のところ株価は絶好調だが、いつ暴落するかわからない」と不安を抱く投資家は少なくいないだろう。
しかし、悲観的になることはない。世の中には大きな流れがあり、その流れが逆流することがなければ、株価に一喜一憂する必要はない。そうした大きな流れの一つが「インフラ整備の拡大」である。
電気・ガス・上下水道・交通網・通信設備といったインフラは、私たちの生活に欠かせない存在だ。世界中でインフラ整備の必要性が高まっており、中長期的にその傾向が変化することはないため、インフラ整備に関連した企業には大きなビジネスチャンスがある。
■世界のインフラが老朽化
インフラ整備の需要が高まっている理由は3つある。
国内のインフラ設備の多くは1955年から1973年の高度経済成長期に整備されたため老朽化が進んでいる。コンクリート製の構造物は50年過ぎると脆くなる。最近は道路の陥没や水道管破裂などのニュースを聞くことが多い。このまま何もしなければ、道路、鉄道、橋、空港、港、通信施設などで事故が多発するだろう。
海外に目を向けると事態はより深刻だ。
米国では1930年代にニューディール政策によって整備されたインフラが老朽化している。特に橋の老朽化は深刻であり、2007 年 8 月に米国ミネソタ州で死者13人、負傷者145人という橋の崩落事故が起きた。現在、米国全体で60万以上の橋があるが、そのうち4万以上の橋が危険な状態にあるという。
橋に限らずアメリカでは道路、水道、建物などで老朽化による事故が相次いでいる。
そして、欧州の状況はもっと深刻だ。
英国の場合、米国よりもさらに古く19世紀後半のヴィクトリア朝時代に整備された上下水道、道路、鉄道などの一部が現在も使用されている。
老朽化したインフラの補修や建て替えの需要は世界中で膨大であり、関連企業はビジネスチャンスに恵まれている。
■巨大地震の脅威
2つめの理由は巨大地震が起きる可能性が高いこと。政府の発表によると、「首都直下地震」が起きる可能性は今後30年間で70%。もし起きれば1万8000人が亡くなり、経済損失は83兆円にのぼる。
「南海トラフ巨大地震」の発生確率は今後30年間で60%~90%以上。死亡者は29万8000人で経済損失は292兆円となる見込みだ。
甚大な被害が予想されているため、政府も手をこまねいているわけではない。国土強靭化計画に基づいてインフラ整備を推進している。
■新興国には新たなインフラが必要
3つめの理由は、これから新興国のインフラ整備が進むこと。インフラ整備を必要としているのは先進国ばかりではない。新興国がさらに発展していくためにもインフラ整備が必要なのだ。
新興国の中で今後の成長が最も期待されているのはインドだろう。インドの人口は2023年に中国を抜いて世界1位となった。GDPは世界第5位で、第4位の日本に迫る勢いだ。
インドは2030年までにGDP10兆ドルの経済大国になることを目指している。今後、莫大な投資が行われるわけで、インフラ整備に関連する企業にとって多くのビジネスチャンスがある。
インド以外のアジアの国々でも社会資本建設は進むし、経済成長と人口増加が著しいアフリカでもインフラ投資が拡大する。
インフラの老朽化、巨大地震の脅威、新興国の経済成長などを背景に、インフラ整備に関連した企業は今後大きく成長するだろう。それゆえに「インフラ整備」は株式投資としても大きなテーマであり、大手ゼネコンや大手建設機械メーカーはもちろん、無名な世界シェアトップ企業の活躍も期待される。
本稿ではこうした企業の中から世界シェアトップを誇る有望な日本企業3社を紹介する。
■音の出ない杭打機で世界シェア9割の技研製作所
1社目は、高知県に本社を置く技研製作所(6289)だ。建設機械メーカーである同社が製造する「油圧式杭圧入引抜機(サイレントパイラー)」は世界シェア9割を超す。
従来の杭打ち機には騒音・振動が付きもので、トラブルのもとになることが多かったが、サイレントパイラーは油圧で杭を地中に押し込むので騒音・振動がほとんどない。
杭には用途や使用環境によってさまざまな形状や材質タイプがあり、構造物の基礎工事に使用される。杭を隙間なく並べて打てば、土砂を止める擁壁や水をせき止める「止水壁」といった土木構造物をつくることも可能だ。
■あらゆる場所で施工が可能
通常の杭打ち工事では、杭打ち機械本体を自重によって安定させる必要があるため、機械は大型でなくてはならない。打撃方式の杭打ち機械で100トンの力で杭を打つなら、100トン以上の機械重量がないと機体は浮き上がってしまう。機械が巨大化すれば、作業用の広いスペースを確保したり足場を築く必要があり、工事を開始するまでに多くの時間と費用を要する。
それに対して、サイレントパイラーは地盤の引抜抵抗力を利用するので、100トンに満たない小型機械でも実質的に100トンの力を発揮できる。
サイズがコンパクトなため、従来は施工が困難だった道路脇、運行中の列車の横、傾斜地、橋の下などでも安全に工事を行える。
■ファブレスメーカーであり、施工子会社を持つ
油圧式の杭圧入引抜機を製造するのは他社でもできる。そのため、当初は大手メーカーや商社など20社以上が参入した。しかし、ほぼすべてが撤退した。
サイレントパイラーは販売すれば終わりではなく、販売後のメンテナンスや修理が重要であるし、操縦者への技術指導も必要なのだ。単に機械を稼働させれば杭を押し込めるのではなく、地盤の地質によって操作法を変えなくてはならない。他社は販売後に顧客をサポートできなかったのだ。
研究開発に注力し圧入技術の改良を進めながら、顧客へのサポートを充実させるのは容易なことではない。他社ができなかったことを技研製作所ができたのには2つ理由がある。
第1の理由は技研製作所が自社では製造をしないファブレスメーカーであること。製造は(株)垣内などの機械メーカーに任せて、自らは技術開発や顧客サポートに力を注ぐことができる。
第2の理由はグループ内に施工子会社を持っていること。開発した技術が役立つのかどうか、子会社の(株)技研施工が実際に新技術を使って工事することで確かめる。不具合があれば、実際に施工した者が技研製作所の技術者に伝える。実験室内の模型実験ではなく、実際の施工から得た情報が貴重であるのは言うまでもない。
■コンクリート補強繊維で世界シェアトップ
世界シェアトップを誇るインフラ関連企業の2社目は、岡山県倉敷市に本社を置く萩原工業(7856)だ。
コンクリートの補強材はスチール製ファイバーが一般的だが、バルチップは合成樹脂でできている。コンクリート補強材市場での同社の世界シェアは20%程度だが、合成樹脂製に限れば同社の独壇場だ。低価格・低品質のものは出回っているが、萩原工業のライバルにはならない。
用途によってバルチップのサイズはさまざまだが、建築用途の標準規格の場合、長さ30ミリメートル、直径0.7ミリメートルの細長い棒状になっている。これをコンクリート1立方メートルあたり3.64キログラム混ぜるとコンクリートの耐久性が飛躍的に向上する。
スチール製ファイバーとは違い合成樹脂なので錆びることがなく、コンクリートを劣化させることもない。
従来、コンクリート製構造物を建造するときは鉄筋を組み、そこにコンクリートを流し込んでいたが、コストがかさむし作業員の負担が大きかった。バルチップ工法では鉄筋が不要なので従来よりも工事期間とコストを低減できる。トンネルや倉庫の土間、鉄道軌道の枕木の下、道路舗装などに使用されている。
萩原工業はバルチップを工事会社へ単に提供するのではなく、導入から施工、メンテナンスまで、さまざまな場面でサポートを行って顧客からの信頼を勝ち得ている。
以前は海外で使用されるバルチップをインドネシア工場で生産していたが、2022年にパラグアイに子会社を設立し、2023年から製造を開始した。当面は隣の経済大国ブラジルへ供給するが、将来的には周辺国への供給も目指している。
■海水淡水化ポンプを100カ国以上に納入するポンプメーカー
3社目は、日本を代表する総合ポンプメーカー・酉島製作所(6363)である。同社はさまざまな種類のポンプを製造しているが、その中でも海水を真水にするプラントで使用されるポンプでは世界シェア1位。
海水を真水にする方式には、海水を熱して水蒸気を集めて真水にする「蒸発法」と海水を特殊なフィルターに通して塩分を取り除く「逆浸透膜法」の2つがある。同社はいずれの方式でも40年以上の豊富な実績を持ち、「海水淡水(真水)化プラント」に用いられるすべてのポンプを製造することが可能だ。
近年主流となっている「逆浸透膜法」では直径がナノメーター級の微細な穴を有するフィルターに海水を通さねばならず、海水を押し出すポンプは大きなパワーを必要とする。同社のポンプは海水淡水化プラントの心臓なのだ。
■真水は貴重な資源
地球は「水の惑星」と呼ばれるが、水の大半は海水で、真水はわずか0.01%に過ぎない。日本に住んでいると気づきにくいが、真水は貴重な資源なのだ。一方で、世界の人口は急増している。2025年に82億人だったが、国連の予想では2050年には97億人に達する。
国連の調査では現在も約20億人が安全に管理された水を飲むことができないが、2050年には慢性的な水不足に悩む人の数が40億人に達する。このまま何もしなければ、多くの人々が貴重な真水を奪い合うことになってしまう。海水淡水化プラントの建設は、人類にとって喫緊の課題なのだ。
■淡水化ポンプが新興国の発展に寄与
酉島製作所は1919年、藤田鉱業(現・DOWAホールディングス)のポンプ・水車の製作工場として設立された。現在の大阪市此花区酉島町にあったことからこの社名となった。現在、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のあるあたりだ。
当初は鉱業・農業用のポンプを生産していたが、戦後はポンプの大型化を進め、発電所向けなどで実績を積み上げた。1970年代に入りオイルショックの影響で国内市場が低迷すると、中近東やアジアへの輸出に注力し、サウジアラビアの海水淡水化プラントやタイの上水道設備など大型施設への納入を進めていった。
その後も海外展開を進め、海水淡水化プラント用ポンプは中東諸国に加えてアジア、アフリカ、中南米、オセアニア等に設置されている。直近の同社の海外売り上げ比率は62%に達する(2025年3月期)。
2022年にサッカーワールド杯が開催されたカタールは、経済発展が著しく人口が急増している。首都のドーハに人口に80%が住んでいるが、酉島製作所はそのドーハ市内のすべてのかんがい施設でポンプ設置工事を請け負った実績を持つ。
同社はカタールにポンプの保守点検サービス拠点を持つことから、設備建設後も安定的なビジネス展開が見込める。
これから成長が予想されるエリアは北アフリカだ。太陽光・風力発電で電力を確保しやすくなった北アフリカの国々は海水淡水化プラントで真水を増産して、農業生産を拡大させようとしている。
酉島製作所はさまざまなポンプを開発し、地球全体の水不足解消や新興国の経済発展に貢献している。同社のポンプへの需要は高まるばかりだ。
国際情勢の混乱は続き、今後も株価は乱高下するだろう。もし、暴落したとしても、狼狽して投資戦略を変更することは禁物だ。世の中の大きな流れが変わらないならば、必要とされる企業も変わらない。
今後、インフラの老朽化はどんどん進行するし、巨大地震の可能性が低くなることもない。新興国は豊かになるための投資を止めることはない。狼狽売りをすれば後で悔やむだろう。
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田宮 寛之(たみや・ひろゆき)
東洋経済新報社 編集委員
東洋経済新報社編集局編集委員、明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日本経済新聞グループのラジオたんぱ(現・ラジオ日経)、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクとなる。2007年、株式雑誌の『オール投資』編集長に就任。2009年、就職・採用・人事などの情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げて編集長となる。これまで取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。『週刊東洋経済』デスク時代は特集面を担当し、マクロ経済からミクロ経済まで様々な題材を取り上げた。2014年に「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職。著書『新しいニッポンの業界地図 みんなが知らない超優良企業』(講談社+α新書)シリーズは17万部を超えるベストセラーに。近著は『日本人が知らない‼ 世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)。
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(東洋経済新報社 編集委員 田宮 寛之)

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