睡眠の質を下げる寝る前の習慣は何か。精神科医の藤野智哉さんは「『寝酒』という言葉があるように、お酒は入眠を助ける効果が一時的にあるようにみえて、睡眠の後半に中途覚醒を増やし、睡眠を浅くする原因になることが多い」という――。

※本稿は、藤野智哉『「ちゃんとしなきゃ」が止まらないあなたに贈る 頑張れない日の休み方レッスン』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■眠れない夜を招く「寝酒習慣」
夜中に目が覚めてしまう「中途覚醒」の原因はさまざまですが、加齢は大きな要因のひとつに挙げられます。
年齢を重ねると、ノンレム睡眠の中でも深い段階のものは減り、浅い段階のものが増加します。浅い眠りは外部刺激に対する感覚が鋭くなるため、わずかな物音や温度の変化、体の不快感などで目が覚めやすくなるのです。
睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠を約90分周期で繰り返しますが、この周期は日によって変わり、個人差も大きいものです。
寝室が暑い、寒い、あるいは寝具の不快感などで中途覚醒が増えますし、アルコール摂取するとトイレが近くなり目が覚めます。
アルコール自体の作用としても一時的に眠りを促すものの、夜半にかけて代謝が進むと睡眠を浅くし、目が覚める原因になります。
心理的要因も大きな役割を果たします。ストレスや不安、緊張が強いと交感神経が優位になり、睡眠が浅くなります。
中途覚醒は誰にでも起こり得るものですが、たとえ一晩に数回目覚めても、再入眠できればそこまで大きな問題ではありません。
ただ、頻繁に目覚めてそのまま眠れなくなったり、あるいは翌日に強い倦怠感が残ったりする場合は、不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの可能性も考慮する必要があります。
アルコールのとりすぎ、

ストレスは睡眠の大敵です!

■睡眠を壊す「寝る前スマホ」
寝る前にスマホをいじる習慣が、睡眠に悪影響を与えることはもはや言うまでもありません。

スマホの画面から発せられるブルーライトは内因性光感受性網膜神経節細胞という細胞に刺激を与え、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。その結果、寝つきが悪くなったり、睡眠の質が下がったりする可能性が指摘されています。
ただ、問題はブルーライトだけではありません。スマホを使う行為そのものが脳を刺激してしまうのです。特に、SNSは情報量が多く、入眠を妨げる大きな原因になります。SNSや動画を見ると脳が覚醒状態になり、副交感神経が働きにくくなります。
本来、寝る前はリラックスして副交感神経を優位にし、体を落ち着かせることが大切なのに、スマホはその逆の方向に脳を導いてしまうのです。
ではどうすればいいのでしょうか。
例えば、小さな子供を寝かしつけるとき、多くの親が本を読み聞かせますよね。これは、時に物語を通じて心を落ち着かせ、副交感神経を優位にする効果があります。
本の内容が頭に入ること自体は刺激になりますが、親の声による安心感や、絵と声だけのシンプルな情報であるため、過剰な刺激にはなりません。
物語にのめり込みすぎると逆に興奮してしまうこともありますが、「つまらない授業で眠くなった経験」があるように、適度な退屈さは睡眠を助けることもあります。

もし何かを読みたい場合は、紙の本がおすすめです。スマホやタブレットよりも睡眠への影響が少なく済みます。どうしても使いたい場合は、ナイトモードやブルーライトカット機能を活用しましょう。
「寝る前のスマホ禁止」で、

睡眠の質が劇的に変わる!

■コーヒーでごまかした眠気はいつか倍返しに
昼間に眠気を感じたとき、多くの人がコーヒーやエナジードリンクなどカフェインを含む飲料を口にします。しかし、「眠気のマスキング」は根本的な解決にはなりません。
マスキングという言葉からもわかるように、睡眠不足という事実を覆い隠しているだけ。
さらにカフェインの血中半減期は平均約4~5時間とされ、昼に摂取しても夕方以降まで体内に残ります。夕方以降の摂取は特に入眠を妨げ、夜の睡眠の質を低下させる可能性が高いとされています。
カフェインは摂取量が多いほど睡眠の乱れを引き起こします。覚醒感が強くても、実際には脳や体の疲労は回復していません。つまり、眠気をカフェインでごまかすことで、本来必要な休息をさらに先延ばしにしてしまい、結果的に疲労が蓄積するリスクが高まります。
カフェインはドーピングのように疲れをごまかし、一時的なパフォーマンスを向上させます。
しかし、長期的に見てもいいことはあまりありません。タバコのニコチン同様、覚醒効果があるものの健康リスクが大きく、特に夜間の摂取は眠りを阻害します。
さらにカフェインは依存性を持つことも知られています。もはや、睡眠の敵と言ってもいいでしょう。
そもそも、昼間に強い眠気を感じるのは「前日の睡眠が足りていないから。カフェインで喝を入れるのではなく、眠気の原因となる生活習慣を見直す方が根本的な解決につながります。
昼間の眠気を防ぐ工夫として、午前中に日光を浴びることや、昼休みに10~15分の仮眠を取り入れるといいでしょう。
カフェイン摂取は問題の先延ばしでしかありません!

■睡眠の質を下げる「いびき」は原因を見直す
いびきをかく背景には体型や飲酒、鼻づまりなどさまざまな要因があります。軽度のいびきは健康被害をもたらさないこともありますが、問題となるのは、睡眠の質を下げる場合です。
特に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を伴ういびきは注意が必要です。
最近では広く知られるようになりましたが、睡眠時の無呼吸は酸素不足を引き起こし、脳が断続的に覚醒することで深い眠りが得られず、日中の強い眠気や集中力の低下を招きます。高血圧や心疾患のリスクを高めることも知られています。

飲酒後のいびきも睡眠に影響を与えます。
「寝酒」という言葉があるように、お酒は寝つきを良くするように思われています。確かにアルコールには鎮静作用があり、入眠を助ける効果が一時的にあるかもしれませんが、睡眠の全体的な質という観点ではむしろ悪影響が大きいのです。
なぜならアルコールは筋肉を弛緩させるため、気道が狭くなりいびきを悪化させる要因となるからです。
特に、もともと無呼吸傾向がある人にとっては、症状を悪化させる危険性があります、さらに、アルコールは睡眠の後半に中途覚醒を増やし、睡眠を浅くします。
寝酒として少量の飲酒を習慣化する人もいますが、それが不眠の解決策にはなりません。逆に眠りの質を落とす原因になることが多いということを忘れないでください。
いびきをかいている人は、その原因を見直すことが睡眠の質向上につながるはずです。
いびきは睡眠の質に関係することもある。

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藤野 智哉(ふじの・ともや)

精神科医

産業医。公認心理師。1991年愛知県生まれ。
秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信しており、X(旧ツイッター)フォロワー9万人。「世界一受けたい授業」や「ノンストップサミットコーナー」などメディアへの出演も多数。著書に3.5万部突破の『「誰かのため」に生きすぎない』(ディスカヴァー)『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)などがある。

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(精神科医 藤野 智哉)
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