■JR東が「初」の廃線、その理由は
JR東日本は2026年3月、千葉県内を走る久留里線の久留里―上総亀山間9.6kmの廃止届を国土交通大臣に提出した。これにより同区間は2027年3月31日の営業をもって廃止となる見込みだ。地震などで被災した路線を除くと、JR東日本の管内では初めての廃線となる。
久留里線の同区間は、2022年度の実績で年間2億4000万円程度の赤字が出ているという。JR東日本は、鉄道廃止後の代替交通について、君津市が運行する今後18年分の自動車交通の経費、20億円を拠出するとしている。しかし、この20億円という金額については、地域にとって適正な金額と言えるのだろうか。
同社の2026年3月期決算では、売上高3兆846億円に対して、経常利益は3516億円と増収増益を達成。久留里線の廃線処理費用については、こうした会社の規模感と比較するときわめて少額であり、この金額を現在の価値に換算するとさらに廃線処理の費用は少額となる。
2027年3月31日には、青森県の津軽線蟹田―三厩間28.8kmの廃止が決まっているほか、山形県と新潟県を結ぶ米坂線や群馬県の吾妻線でも協議が進んでいることから、今後、きわめて少ない費用で、地方路線の廃止が加速することが懸念される。
※JR東日本「2026年3月期決算および2027年3月期経営戦略説明資料」
■地元自治体に支払う20億円の価値
ファイナンス用語に割引現在価値という言葉がある。これは将来的に受け取れる金額を現時点でどの程度の価値があるのかに換算したもので、1年後に受け取れる10万円は現在の価値に換算すると10万円よりも少ない金額となる。
これはどういうことかというと、例えば、1年後に10万円を受け取るために、ある金額を1%の国債で運用する場合に必要となる金額は9万9010円ということになり、この金額が割引現在価値となるのである。
JR東日本は、久留里線の廃線に当たって今後18年分の自動車交通の経費20億円を拠出するというが、この価値を割引現在価値に換算するといったいどの程度の金額になるのであろうか。
■3分の1の出費で年2.4億円の赤字を解消
企業活動に関連した割引現在価値を計算する場合には、その利率に加重平均資本コスト(WACC)と呼ばれる数値を使用することが一般的だ。同社では、株主・投資家情報(IR)サイトで、WACCの値はを3.5%程度と公表していることから、この数値を計算に用いることにした。
なお、割引現在価値については、以下の数式により求めることができる。
PV = FV / (1 + r)^n
・ 「PV(現在価値)」
・ 「FV(将来価値)」
・ 「r(利率)」
・ 「n(年数)」
久留里線の廃線処理費用として、同社から君津市に対して拠出される20億円については、毎年1.11億円ずつ18年間にわたって拠出されるものと仮定して計算をしたところ、この現在価値は、約14億6500万円と算出された。1年あたりに換算すると7325万円となる。
JR東日本側から見ると、年間2億4000万円の赤字が解消されるにもかかわらず、君津市に対しては年間7000万円程度の手切れ金で鉄道の廃線をのませたことになる。
一方で、君津市側は、今後のバス運行コストの上振れや、ドライバー不足への対応、その他に発生する社会的費用についてのリスクを負うことになる。
■赤字路線を抱えつつ稼がなくてはいけない
1987年4月の国鉄分割民営化によって旅客6社と貨物1社に分割されて誕生したJRグループは、もともとは国鉄から引き継いだ全路線を維持できるように制度設計された会社であった。
本州3社のJR東日本、JR東海、JR西日本は、大都市圏や新幹線を抱えることから、それらの利益を内部補助として地方路線を維持できるようにした。
一方で、発足時から慢性的な赤字体質になるとされたJR北海道、JR四国、JR九州の三島会社については、それぞれ適正な年間赤字額が定められ、その赤字額の穴埋めができるように当時の長期金利であった7.3%から逆算した6822億円が北海道、2082億円が四国、3877億円が九州に経営安定基金として交付された。
経営環境が恵まれていた本州3社の株式上場は早く、JR東日本がそのトップを切って1993年に、JR西日本は1996年、JR東海は1997年に株式を上場し、その後完全民営化を果たしている(JR九州も2016年に上場)。
これにより、上場4社は赤字路線の維持と、株主利益の追求という、相反する役割を背負わされることになり、制度的な矛盾を抱える会社となってしまった。
■コロナ禍でも376億円配当を維持
JR東日本のローカル線を巡る状況を一変させたのは、2019年12月に発生した新型コロナウイルスの猛威だった。それまで順調な黒字経営を続けていた同社は、2021年3月期の決算で、経常利益が前年の3395億円の黒字から5798億円の赤字に転落した。
こうした状況を受けて、2022年7月に赤字35線区を公開した。合計の赤字額は2020年3月期で693億円、2021年3月期で670億円であったが、公開された線区の中には、貨物列車が走る幹線ルートである羽越本線や奥羽本線、上越線なども含まれており、これらの路線のうち県境などで特に利用者が少ない区間だけを切り出して公表していた。
しかし、赤字決算となった2020年度の決算で、株主に対して376億円を配当、再び赤字となった翌年も376億円を配当している。同社の外国人株主比率は、2021年3月期で27.4%となっており、2025年3月期は31.4%とこの4年間で4ポイント増加。配当金の3分の1近くが外国人株主に流出していることになる。
■外国人株主が3割以上を占めるJR東
企業情報サイトFISCOで、上場鉄道会社に加えて、航空2社の外国人株主比率を調べたところ、JR東日本の31.4%が一番高いことが判明した。これは、短期利益志向の強い外国人株主にとっては同社の株式の購入が魅力的に見えていることの証左と言える。
東急 20.5%
京成 21.7%
近鉄 13.8%
名鉄 12.3%
阪急阪神 24.3%
JR東 31.4%
JR西 29.8%
JR東海 27.8%
JR九州 26.7%
ANA 11.7%
JAL 18.0%
外国人株主は短期利益志向が強いと言える。
■修繕費の「節約」でトラブル続出
JR東日本ではコロナ禍以降、鉄道事業に対する修繕費を800億円切り詰めたことで、首都圏での架線切断や出火トラブルが相次ぎ、2026年2月には喜瀬陽一社長が謝罪コメントを発表する事態となった。走行中の新幹線が分離するトラブルが発生したことも記憶に新しい。
こうした一連のトラブルについては、修繕費を増額するなどの対応を取るというが、久留里線に代表される、会社の規模と比較して極めて少ない廃線費用でのローカル線廃止の流れが今後、加速することが懸念される。
こうした状況に対して、福井県のえちぜん鉄道の元専務取締役の伊東尋志氏は、次のように警鐘を鳴らす。伊東氏は米国ニュージャージー州立ラトガース大学経営学大学院でファイナンスを専攻している。
■経営が株価に左右され、歪みが生まれる
「JRは、鉄道の運行が最も基本的な企業目的として認知されているにも関わらず、株価という流通・不動産事業のKPIに基づいて経営されていることが歪みの本質です。阪急阪神ホールディングス、東急などの私鉄会社が、持ち株会社を上場し、鉄道については非上場の子会社とすることで、市場の評価にはなじまない事業をある程度分離していることとは対照的です。
JRのような広域の鉄道ネットワークを持つ企業が配当性向を業界平均以上に高めることは、将来的な災害などへの備えや、必要な修繕を行うための資金を流出させることにつながりかねず、結果的に、そのリスクを地方自治体などに押し付けることになりかねません。
協議会などでJRと対峙することになる自治体や、鉄道政策を立案する国土交通省も、JRの財務内容と株主の立場を考慮したうえで、JRに対して必要な情報、例えば路線の収入、経費の計算方法の詳細の開示要求をすることや、自分たちの主張を行うことが本来の議論ということを理解しなければ、例えば、リスクに見合わない廃線処理費用で、地域の鉄道を失うことにつながります。これは、市場が本来目的とする透明性や社会的余剰の最大化にも反します」
■「株主に優しい企業」を掲げるが…
2026年3月期の決算説明資料で、JR東日本は、6年後の2032年3月期には4.3兆円程度の売上高と7500億円程度の営業利益を目指すと発表された。さらに2026年3月に実施した運賃値上げでは820億円程度の増収を見込むとしている。
さらに、株主に向けたメッセージとして、2028年3月期に向けて、配当性向を段階的に40%に引き上げることを示している。
配当性向とは、法人税等を差し引いた当期純利益のうち何パーセントを配当金の支払いに充てたのかを示す指標で、2026年3月期決算では33.7%であった。こうしたことから、今後はグループ全体としては、より効率よく利益が出せる事業へ注力していくことになる。
■乗客と沿線住民が損したままでいいのか
近年、JR東日本を巡る状況としては、首都圏や新幹線での相次ぐ運行トラブルだけではなく、京葉線の通勤快速の廃止問題やみどりの窓口の大量閉鎖問題という利用者に対するサービスレベルの低下といった点でも大きな話題になりがちである。
一方で、会社としての業績は好調で、株主に対しての配当も増額する方針であり、その分の利益を生み出すために乗客と地域住民の我慢が強いられている構図が垣間見える。
鉄道とは本来、地域の発展を左右する公共インフラであるはずなのに、株主資本主義の影響で利便性が低下する方向に動いている点は、この国の鉄道政策の無策と言えるのではないか。
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櫛田 泉(くしだ・せん)
経済ジャーナリスト
1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。BSフジサンデードキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!地方創生への再出発」番組監修。
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(経済ジャーナリスト 櫛田 泉)

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