脳科学者の茂木健一郎先生が子どもの「創造力・芸術センス」を育む方法について教えます。
■遊び方を発明したり工夫したりすると脳は成長する
小学生になると、テストの点数、通知表、順位……と“評価される世界”がはじまります。
しかし、AI時代に必要なのは、ペーパーテストで正解を答える力でなく、問いを立てる力や感性、創造力や芸術センスでしょう。
創造力や芸術センスの核となるものに「アレンジ力」があります。すでに存在するものをちょっと変えたり、何かと何かを組み合わせたりすることで、楽しみながら脳に創造的な回路ができます。
僕が子どもの頃は、近所の原っぱでいろんな年代の子が遊んでいました。自分たちで遊び方を発明・工夫する、脳の成長にいい環境だったと思います。たとえば「鬼ごっこの鬼は1人じゃなくてもいいんだ!」「草の汁で色が塗れるんだ」と毎日のように意外な発見がある。まさに遊びがドーパミン体験の宝庫でした。
僕はわりとたくさんおもちゃを買ってもらえたのに、なぜか記憶に鮮明なのは野原での昆虫採集などです。自然の中で自分の興味に没頭し、五感をフル回転させて遊んだ体験が原点だと思います。
また、クリエーティブな活動に欠かせないのが「GRIT(やり抜く力)」です。一つのことを最後までやり遂げた経験は、脳の前頭葉を鍛えることがわかっています。途中で投げ出さず、試行錯誤を繰り返すプロセスそのものが、脳に「やり抜く回路」をつくるのです。

■五感が包まれる感覚「キャンプ・自然体験」
キャンプの価値は、自然に「包まれる」感覚です。森の匂い、たき火の音、虫の声、星空……五感が同時に刺激されると、脳は「本気モード」になります。
この体験は、年に1度でも効果があります。いつもと違う環境に身を置くと、脳は差分(ギャップ)を強く感じとります。満天の星を眺めてテントで眠り、朝起きたら空気が冷たい――はじめての感覚は「なぜ星が近くにあるんだろう」「なぜ森は涼しいんだろう」と数々の問いにつながります。山でも海でも大丈夫。
気をつけたいのは、旅程を詰め込まないこと。「ここで記念写真を撮って、次はあそこへ移動して……」とスケジュールに追われると、子どもが何かを発見する余裕がありません。ぼんやりたき火を見つめる、ただ川の音を聞くなどの「何もしない時間」が、脳にとっては栄養になるのです。
■ホンモノ鑑賞が創造力の糧に「博物館・美術館」
マンモスの骨格を見上げると、子どもは「こんなに大きいんだ!」と驚きます。図鑑や動画と違って、実物の迫力を体感する瞬間です。「思っていたより大きい」「思っていたより重そう」という差分(ギャップ)が脳を刺激します。

美術館も同じ。教科書や画面で見たゴッホの絵が目の前にある。絵の具の盛り上がり、筆のタッチ、色の深みなど大量の情報が脳に届きます。「どうしてこんな描き方をしたんだろう」と疑問に思うだけでも最高の学びです。
ここで親がついやってしまうのが「この作品はね……」と解説すること。何かを感じとる前に情報を与えては台無しです。「どう?」と問いかけ、子どもの感想を待つぐらいにしておきましょう。
また、急いで展示物を見てまわるのでなく、興味をもったらじっくり時間をかけて鑑賞するほうが創造力の糧になります。
■やり抜く力を育てる「ジグソーパズル」
ジグソーパズルは楽しいだけでなく、脳科学的には「パターン認識」の訓練になります。さらに「GRIT(やり抜く力)」を育てます。数百ピースのパズルを完成させるには、集中力と粘り強さが必要。「もう無理」と投げ出しそうになっても挑戦しつづけた経験は確実にメンタルを鍛えます。

親は「ここのピースじゃない?」とヒントを出したくなっても我慢。子どもが自力で気づく瞬間を奪ってはいけません。完全に行き詰まったら「一緒に探そうか」と伴走してやります。ピースがはまった瞬間は「自分で見つけたね」とタイミングよく具体的に褒める。事実を称賛するのです。
完成したら結果だけでなく、「最後まで諦めずに頑張ったね」とプロセスを褒めてください。「やり抜いた」という達成感は次の挑戦への原動力になります。親の役割は「褒め方のエキスパート」になることです。
■1→2のアレンジ力を育むオリジナルキャラ創作
創造力といっても「0→1」の発想は難しいもの。一方、既存のものをアレンジする「1→2」は楽しくて身につきやすい。たとえば、大好きなキャラクターを参考にして考える「自分だけのキャラ」。「ピカチュウに羽をつけたらどうなる?」「マリオが宇宙で活躍するには?」と、何かを足したり引いたりする“ちょっと変える遊び”は創造力を育みます。
「マリオカート」が好きならレース場のコースを描くのもいい。「ここにジャンプ台を置いて……」と展開を想像し、競技ルールなども考える。ゲームを消費する側から創作する側へ視点が変わる経験です。
初めは独創性が弱くても「どこが違うところ?」と質問して親が興味を示せば、子どもは自分のアイデアに自信をもちます。最初はほぼ模倣だとしても、創造力を鍛える第一歩になります。
※本稿は、『プレジデントFamily2026春号』の一部を再編集したものです。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)

脳科学者

1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。
久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎 構成=伊田欣司 撮影=鈴木啓介)
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