皇統を安定的に存続させるには、女性天皇・女系天皇への道を閉ざすべきではない。男系男子以外に皇位継承資格を認めないという前提条件のまま、国会の議論が進んでいるが、女性天皇・女系天皇を概ね容認する世論との乖離は広がるばかりではないか。
衆参両院は5月15日、安定的な皇位継承に関する与野党の全体会議を開き、各党・会派の意見が出そろったとして、森英介衆院議長が「今国会中に皇室典範改正案の成立にこぎつけたい」との考えを明らかにした。
衆参正副議長や13の党・会派代表で構成する全体会議は、政府の有識者会議が2021年にまとめた報告書を基に、皇族数の確保策を取り上げ、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する案、旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える案の2案を議論してきたが、「立法府の総意」として主要政党間の合意形成に近づいたと判断したのだろう。
衆参正副議長は5月27日にも協議し、この2案を「基本的に妥当」として、6月前半をめどに原案を取りまとめ、政府に具体的な制度設計を促す。政府は今後、皇室典範改正案の作成に入り、今国会(7月17日まで)に提出するという。拙速に過ぎなくないか。
しかも、2案に基づく皇室典範改正案が審議されても、皇位継承のあり方に影響することはない。このため、仮に改正案が成立しても、現在の危機的状況は、悠仁さまが結婚され、男子が2人以上生まれないと解消されない。悠仁さまと未来の妃候補にかかるプレッシャーが緩和されることはないのである。
女性皇族が一般国民(民間人)と結婚した後も皇室に残る意思があるのか。養子縁組案の民間人の養子候補が人生の転換を賭け、プライバシーを犠牲にしてまで手を挙げるのか。こうした立法事実の前提は、内々でも確認できていないと聞く。
皇室制度がこうした「生身の人間」によって支えられ、成り立っていることに思いを馳せられないのだろうか。
■「皇族は生身の人間」(秋篠宮さま)
皇室典範改正原案では、女性皇族の身分保持について、現行の皇室典範12条に「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」と規定されているため、これを改正する。経過措置として、女性皇族が身分保持を続けるか否かを選択する権利を認めるなどの配慮が必要だ、と言及される見通しだ。
未婚の女性皇族は、天皇家の長女愛子さま(24)、秋篠宮家の次女佳子さま(31)、三笠宮家当主の彬子さま(44)、妹の瑶子さま(42)、高円宮家の長女承子さま(40)の計5人だ。
女性皇族の自己決定権を認める意義は小さくないが、皇室に残りたくない場合は、精神的圧力を感じられるのではないか。
秋篠宮さまは2024年11月の59歳の誕生日の記者会見で、当時の国会で議論されていた女性皇族が結婚後も皇室に残る案に触れ、「皇族は生身の人間。(制度変更で)どういう状況になるのか、宮内庁のしかるべき人たちは、(女性皇族の)その人たちがどういう考えを持っているか知っておく必要がある」と述べられた。この言葉は重い。
女性皇族の夫や子に皇族の身分を付与するかどうかは、原案では明記を見送り、皇室典範改正案の付帯決議に「適時適切な措置を取る」と書き込むことを提案する方向だ。
夫と子に皇族の身分を付与しないと、女性皇族と一般国民が一つの家庭を営むことになる。皇族は皇室経済法によって非課税の皇族費を受けられるが、基本的人権はかなり制限される。その夫や子には政治・経済活動の自由があるが、納税義務もある、という不自然な家庭になるのではないか。
■「いざとなったら彬子さまを考える」
旧宮家との養子縁組案については、皇室典範9条に「天皇及び皇族は、養子をすることができない」とあるため、これを改正する。
養子縁組は、皇族と旧宮家の男系男子の双方の自由な意思(合意)によって成立する。原案では、1947年に皇室を離脱した旧11宮家の男系男子に限って養子の対象とする。
未婚の男系男子を抱える旧宮家は、賀陽(かや)、久邇(くに)、東久邇、竹田の4家で、対象者は11人いるとされる。その全員が天皇家との共通の祖先は室町時代の崇光天皇まで600年も遡る。親の数代前から民間人で、皇統に属したことはない。
原案には、国民の理解を得るため、慎重な制度設計の必要性を明記する。具体的には、養子対象者の年齢(15歳以上)や養子を迎える皇族の範囲、養子自身は皇位継承者とならないことなどを列挙し、必要があれば「一定年数ごとに見直す」と言及するという。
養子を迎える皇族(養親)はどなたになるのか。候補として、常陸宮さま(90)、寬仁親王妃家信子さま(麻生氏の実妹)(71)、三笠宮彬子さま(44)、瑶子さま(42)、高円宮久子さま(72)、承子さま(40)の6人が挙がる。
皇室典範改正に携わってきた閣僚経験者の一人は「養親の候補は、常陸宮さまだ。いざとなったら彬子さまを考える」と明かす。生まれながらの皇族ということも考慮される。
だが、常陸宮さまに20代の旧宮家男子が養子入りする場合、帝王学を直伝する親子関係は成り立たず、宮家を維持して皇族数を増やすためだけの不自然な縁組にならないか。
彬子さまのような未婚の女性皇族に対し、民間人の男性が「男系維持」のため、将来の当主候補として家庭に入り込んでくることを受け入れさせることができるのか。
養子案は、明らかに現実味に欠ける。生身の人間である皇族方の自己決定権や心理的負担をあまりにも軽視してはいないか。養子候補に手を挙げた民間人は、メディアやSNSから経歴や交友関係が徹底的に洗われ、非難・批判の対象になるリスクも大きい。
養子縁組は、時限立法の特例措置なのか、恒久的制度にするのか。これも改正案作成時の論点になる。旧宮家のみに皇族の資格を与えるのは、どちらにせよ、憲法14条が「社会的身分又は門地により、差別されない」とする規定違反の疑義がある。仮に恒久化するなら、違憲の疑いが一層強まるだろう。
■「皇室典範改正は今国会で行けるのでは」
今回、皇室典範改正に向け、政治が再び動き出したのは、2月27日の衆院予算委員会での高市早苗首相の答弁がきっかけだった。
「過去に8人10代の男系の女性天皇がおられたことは歴史的な事実で、過去の女性天皇を否定することは不敬に当たると考えている。皇位が女系で継承されたことは一度もない。
首相は、男系継承を維持し、旧宮家の養子案を支持すると踏み込みたかったのだろう。だが、政府の21年の有識者会議の報告書にそんなことは書かれていない。木原稔官房長官はその後の記者会見で、首相の誤認(理解不足)について、「『男系男子に限る』との首相答弁が念頭に置いているのは、皇位継承ではなく、旧宮家が養子として皇族に復帰する場合の資格だ」とフォローせざるを得なかった。
21年報告書は、皇位継承の流れは秋篠宮さま、悠仁さままで揺るがせにしないという前提で作成された。それを受けた今回の全体会議でも、男系維持か、女性・女系容認かという本丸の議論は棚上げされている。
この首相答弁に反応したのが、自民党の皇室典範改正論議の責任者で、旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える案を重視してきた麻生太郎副総裁だった。周辺にこう語る。
「高市首相がぶれなければ、皇室典範改正は今国会で行けるのではないか」「衆院選で中道改革連合がほぼ壊滅した。野田佳彦元首相が『内親王や女王が結婚して皇族のままというのはいいが、配偶者も皇族に』と譲らなかったが、これで風向きが変わる」
■「女性天皇の是非も含め、議論深めたい」
1年前の石破茂政権当時は、額賀福志郎衆院議長ら衆参正副議長の下で、首相経験者の麻生、野田両氏が非公式協議を続け、25年5月27日に女性皇族案を先行して当時の国会で成立させることで大筋合意したが、6月3日の最終確認協議が突如中止となり、事実上決裂した。
麻生氏が旧宮家養子案との同時成立を要求して翻意したためで、野田氏が5日の記者会見で「完全にちゃぶ台返しのような話で、交渉当事者としての信頼に関わる。極めて遺憾だ」と批判し、皇室典範改正への動きが止まったという経緯がある。
麻生氏は今回、女性皇族案と旧宮家養子案の同時成立を目指して積極的に仕掛ける。
4月20日には自民、日本維新の会、中道改革連合、参政党の与野党国会議員100人らが参加し、皇室典範改正に向けた声明を採択した集会で、麻生氏は「必ず今国会で成し遂げなければならない」「旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎えることができれば、新たな皇族数確保の道が開かれる」と力説した。
意見表明が遅れていた中道改革連合は5月15日の衆参両院の全体会議で、女性皇族案について「優先的な方策」との立場を示し、旧宮家養子案について「制度化も考えられる」として一定程度容認する見解を示した。
養子案への反対派を抱えつつ、党の見解をまとめた中道改革の笠浩史国会対策委員長は、会議の中で「国民の理解を得るべく、要件・手続きなどについて慎重な制度設計を行わなければならない」とくぎを刺した。
笠氏は同時に、悠仁さまの次代以降の皇位継承について「悠仁さまのご年齢やご結婚を巡る状況を踏まえ、女性天皇の是非なども含め、議論を深めていかなければならない」と問題提起した。その通りだろう。
■「女系天皇も認める方がよい」は64%
皇室典範改正についての世論の動向は、与野党協議の内容とはかけ離れ、噛み合っていないともいえる。
読売新聞の25年12月の皇室に関する世論調査(9~10月、郵送方式)によると、皇室典範を改正し、女性天皇を認めることに「賛成」と答えた人は69%に上り、「どちらともいえない」が24%、「反対」は7%にとどまった。「女系も認める方がよい」は64%で、「男系を維持する方がよい」の13%を大幅に上回る。「どちらともいえない」は22%だった。将来、皇位継承が難しくなる不安を「感じる」は68%で、「感じない」の31%を上回った。
愛子さまや佳子さまへの国民の信頼感と親愛の情が大きいということだろう。
5月の読売新聞世論調査(22~24日)では、女性皇族が結婚後も皇室に残ることに「賛成」が75%、「反対」は14%だった。女性皇族が結婚後も皇室に残る場合、夫や子どもも皇族とすることに「賛成」は52%、「反対」は35%だった。旧宮家の男系男子を養子として皇室に迎え入れることに「賛成」は49%で、「反対」の37%を上回っている。
「立法府の総意」は、必ずしも「国民の総意」(憲法1条)とならないのではないか。
衆参正副議長は6月2日、取りまとめの原案を協議した。皇族数確保策の2案を「基本的に妥当」とした原案を修正し、「了とする」との表現を用いて容認する方向で最終調整に入った、と報じられた。
大島理森元衆院議長は、6月1日の読売新聞のインタビューで、こう語っている。
「国会には、総意を探る責務がある。概ね合意できた点と意見が違う点を整理し、意見が違う点は理由とともに説明し、明らかにすることが必要だろう」「政府がもう一度、有識者の意見を聞いたり、幅広く国民の意見を聞いたりすることがあってもいいと思う」
6月3日の読売新聞では、小田部雄次静岡福祉大名誉教授が「姻戚関係が大きく変わる養子案を、皇室全体の意向を無視して進めるのは不適切だ」「家長の天皇陛下のお考えを適切に確認する必要がある」と主張する。
高市政権にこうした声が届くことがあるのだろうか。
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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て、フリーに。2018~2023年国家公安委員会委員。
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(政治ジャーナリスト 小田 尚)

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