[総理大臣杯2回戦筑波大(関東1部)0-0(PK6-5)神奈川大(関東2部)、6日、宮城・セイホクパーク石巻フットボール場]
筑波大が苦しみながらも、ペナルティキック(PK)戦の末に神奈川大を破って2回戦を突破した。ボールコントロールの上手さと縦への推進力を併せ持つ相手の猛攻を守備陣がシャットアウトし、シュートを枠内へ打たれてもGK佐藤瑠星(3年、熊本・大津高)が素早いセービングで封じ切った。
筑波大の守護神は心臓を捧げる
延長戦が終わり、PK戦に突入した筑波大イレブンの表情はどこか自信に満ち溢れていた。今季J1で旋風を巻き起こすFC町田ゼルビアと対戦した天皇杯2回戦ではPK戦の末に打ち破った。PK戦でプロを破って自信を手にした選手たちは、勝利する自信しかなかった。
筑波大DF福井啓太主将(4年、大宮アルディージャU18、来季大宮加入内定)は「PK戦は自信がありました。キッカーも蹴れますし、瑠星というPKにすごく強いキーパーもいるので、どこかみんな楽しんでるような感じがありました」と余裕があった。
神奈川大のラストキッカーの放ったシュートがバーを叩くと、佐藤は漫画『進撃の巨人』で描かれる『心臓を捧げるポーズ』を取って歓喜した。
心臓を捧げるポーズを見せたGK佐藤このポーズは筑波大の選手が得点を決めたときに見られるゴールセレブレーションの一つであり、GKの佐藤はPKを阻止した際にしか見せない。
心臓を捧げるポーズを問われると守護神は「そこしかやる場面がありません(笑)。僕は進撃の巨人が好きで、『心臓を捧げよ』はサッカーでも通ずるところがあるというか。そういう意味ではちょうどいいかなと思ってやっています。(ポーズを決めた際は)めちゃくちゃ気持ち良かったです(笑)。ただ試合は終わっていなかったので、止めた後はすぐに冷静になってやりました」と笑って振り返った。
筑波大のラストキッカーであるDF池田春汰(1年、横浜F・マリノスユース)がゴールネットを揺らすと、歓喜に沸くイレブンが守護神の下へ雪崩れ込むように迎えに行った。
ゴール前に要塞が構えているようだった。この日は神奈川大にボールを長く保持されて猛攻を受ける時間があったが、シュートに対する素早い反応、190センチの高身長と高い跳躍力を駆使したハイボール処理など数々の窮地(きゅうち)からチーム救った守護神の存在が頼もしすぎた。
小井土正亮監督は「彼の安定感は今年の筑波を支えている最大の要因なくらい彼の成長に助けられているので、彼が後ろにいることで最後のPK戦は安心して見れました。本当に心強いです」と絶賛した。
後半1分に神奈川大MF藤田仁朗(3年、兵庫・滝川第二高)をペナルティエリア内で倒してしまい、PKを奪取された。それでも落ち着いた表情を浮かべる守護神は冷静に右方向に跳んで、シュートをセーブした。
「分析などはなかったんですけど、とにかく自分のことだけに集中して我慢しました。相手の心理的には決めなきゃいけない状況で、自分は心理的に有利な方に立っているので、自分を信じて跳ぶだけでした」とキッパリ。神奈川大は最後まで筑波の堅守を破れなかった。
進路はプロを志望する守護神の性格は真面目で実直であり、夢への青写真はいたってシンプルで堅実だ。
「特別なことは意識せずに、自分が練習してきたことをやるだけです。評価するのは周りなので、自分がやってきたことを練習通りに試合でいつも通りやっていくだけですね。
大宮内定のディフェンスリーダーは日本一を掲げる
神奈川大戦の勝利は守護神の力だけで成し遂げたわけではない。福井主将を筆頭に正確なポジショニングとボールを捉えたタックル、ゴールを覆い隠すシュートブロックでクリーンシートに抑えた。
「相手はボールを回すプレーが上手で、自分たちもボールを握りたかったんですけど、それ以上に相手がボールを持つ時間が長かった。試合前から選手たちに『焦れずにやり続けよう』と話していました」と福井主将。
セットプレーになれば的確な指示を出して最適な位置に選手を配置し、自身も力強い跳躍を見せてゴールを狙った。冷静なコーチング、相手のポジショニングに歪みをつくる正確無比なビルドアップとキャプテンの存在が大きかった。
先月2日に自身を育てたJ3大宮の来季加入内定が発表された。小学校から高校まで大宮一筋で育ったディフェンスリーダーは、来季再びオレンジ色のシャツを着てNACK5スタジアム大宮で戦う。
「育てて頂いたクラブなので、戻れたことはうれしいです。
筑波大は総理大臣杯3度の優勝を誇る大学サッカー屈指の名門だが、最後に優勝したシーズンは1992年までさかのぼる。チームが掲げる目標は当然王座奪還であり、福井主将は頂きに向けて戦意をたぎらせている。この大会で福井の活躍を期待する大宮サポーターも多く、キャプテンはファンに吉報を届けたい。
「(大宮サポーターに)認められるには結果で示すことが1番だと思います。チームとして日本一になることがサポーターから認められる1番の方法。日本一になったチームの中心になるためには、もっとやっていかないといけないことがあります。そこはチームとしても、もっとやっていきたいです」と言葉に力を込めた。
32季ぶりの日本一に向けて、9日午後2時宮城・セイホクパーク石巻フットボール場で開催される準々決勝早稲田戦で勝利をつかみ取り、大宮サポーターに自身の力を証明してみせる。
(取材・撮影 高橋アオ)