1990年代以降、長きにわたり日本のヒップホップ界を牽引してきたラッパー・GAKU-MC。彼は52歳を迎えたいまでも毎週のようにボールを追いかける日々を送り、全国で4つのフットボールパークを運営する団体「MIFA」の発起人でもある。

彼の現在のサッカーとの向き合い方、一度サッカーから距離を置いた過去、サッカーを愛し続ける理由についてGAKU-MC本人に話を聞いた。

(インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS副編集長]、写真提供=MIFA)

25年続けている週に2、3回ボールを蹴る生活

――GAKU-MCさんといえば、サッカー好きのミュージシャンとして最初に頭に思い浮かべる人も多いと思います。現在はどれくらいの頻度でサッカーをプレーされているのですか?

GAKU:仕事が調整できて、ケガをしていなかったら週に2、3回は必ずやっています。サッカーよりもソサイチ(7人制のサッカー)をメインでやることが多いですね。そこにフットサルと、大コートのサッカーが少し割り込んでくる感じです。

――基本は仲間たちと集まってその中で試合をしたり、リーグ戦をしたり、自分たちで大会を開いたりという楽しみ方ですか?

GAKU:そうですね。まさにおっしゃるとおりですね。

――地域のチームに登録して毎週末、定期的に公式戦に出場されたりもするのですか?

GAKU:コロナ禍でライブの仕事がなくなってしまった時に「じゃあちょっとやってみるか!」とシニアのリーグに登録しました。オーバー50のチームにも。ただ仕事もだんだん日常に戻ってきて、僕らミュージシャンの仕事は土日がメインになるので最近は全然行けてないですね。

――そのようなサッカーが日常に寄り添う生活を何年くらい送られているのですか?

GAKU: 28歳ごろに仲間を集めて定期的に蹴るようになってからずっとです。そこから今日までもう25年くらい続いています。

――その間、大きなケガや、お仕事の関係で長期間ボールを蹴られなかった時期もありましたか?

GAKU:あります、あります。

去年も腕を骨折して、半年ぐらいできなかったですし、靭帯痛めたり、捻挫したりで1カ月ぐらい休むケガもちょくちょくありました。

――そういう時はどのようにして気分転換をするのですか?

GAKU:できる範囲での別メニューじゃないですかね。動かせる部分だけでも体を動かして、筋トレ行って。仕事が忙しいのに関してはしょうがないですけど、普段からできる範囲でジョギングしたりとか、割とそういうのを日常的に取り入れるようにはしています。基本的にはすべてサッカーのためにやっていることですけど。

ラッパーならではの悩み。
「サッカーは仕事のためにいい仕事してる」

――定期的にボールを蹴ることが、本業である音楽のお仕事にもプラスになっている部分はありますか?

GAKU:すごくあるんです。僕ラッパーじゃないですか。ラッパーって放っておくとずっと韻を踏むことを考えてしまう生き物なんですね。車を運転していても、電車に乗っていても、目に入ってくる単語に対して、どう韻が合うんだろうなって。とにかくずっと頭の中でCPU回ってるみたいな。これ、疲れるんですよね。

 例えば、奥さんと会話しているとき、子どもと遊んでいるときも、「あ、いい歌詞思いついちゃった」みたいな時にメモったりするじゃないですか。そうなると、嫌がられるんですよね。そんな自分が僕自身もすごく嫌なんですけど。

――本来リラックスできるはずの時間でも常に頭を使っているわけですね。 

GAKU:そうなんです。ただ唯一サッカーしてる時だけは、そんなことを考えてたら次のプレーできないんで、本当に頭が真っ白になって、ラップのことを考えないでいられる時間なんです。

これが本当に心地よくて、のめり込んでいったっていうのがあります。

 あと、サッカーやったあとはよく寝れる。それまで20代のころはダラダラ朝までお酒を飲むような生活をしていたんですけど、朝からサッカーやるようになるとそういうこともなくなって、体も調子いいですし、プラスでしかない。そういう意味で、サッカーは仕事のためにいい仕事してると思います。

―― 一緒にボールを蹴っている仲間たちから仕事に好影響を与えるような刺激を受けたり、何かが仕事につながったりということもあるのですか?

GAKU:めちゃくちゃあります。僕が毎週蹴っているメンバーって、クリエイティブな仕事をしている仲間が多いんです。

カメラマンがいたり、映像プロデューサーがいたり、放送局の人がいたり。なので例えばカメラマンの写真展に行って刺激をもらったり、すごくフラットにそれぞれの業界での今のトレンドなどを聞いて、自分の仕事に取り入れたりもしています。あとはミュージシャンも多いので違うジャンルの音楽の知識も増えていきます。とにかくそれぞれの道で輝いて仕事している人間が集まっていて、その刺激が自分にもいい感じで跳ね返ってきていると感じます。

――お互い刺激し合えるわけですね。素敵な環境ですね。

GAKU:毎年やっている忘年会にも、本当に職種もバラバラで、唯一サッカーという共通点でつながっている仲間が年々増えていって。うれしいのは、そこに今度はメンバーの子どもが生まれて、子どもたちも増えていって、忘年会の時にもう一つの村みたいになっているんです。もうあの光景を見ているだけでずっとおいしいお酒が飲めますよね(笑)。

高校1年でサッカー部をやめた理由。寂しい思い出

――GAKUさんがサッカーを始めたのはいつからですか?

GAKU:たしか小学3年の頃です。ちょうどその頃に連載が始まった漫画『キャプテン翼』にも強く影響を受けながら、どんどんサッカーにハマっていきました。中学校でも続けて、高校も1年生の時まではサッカー部でした。

――高校1年でサッカー部をやめてしまった理由は?

GAKU:特別足が速かったわけでもないですし、体も小さかったので、1年生の中でもレギュラーが取れないという状況で。そうなってくると、どんどん面白くなくなってしまって。「サッカーなんてやってもカッコよくない。これからの時代はバスケだろう」という感じでやめてしまいました。

――今これだけサッカーをエンジョイされているGAKUさんを見ていると、その時に部活でのサッカーという選択肢がなくなっても、友達と一緒に遊びでボールを蹴るなど違うサッカーの楽しみを見つけられそうな気もしますが。

GAKU:そうですよね。でも高校生だった当時はもう「レギュラー取れない。もうダメだ。サッカーはおしまいだ」となってしまって……。フットサル場なんかも当時はなかったですからね。学校でしかサッカーできなかったですし、学校の友達しかサッカー仲間がいなかった。いま思えば中学校の時のサッカー部の友達に声をかけて近所の公園でサッカーやってもよかったなとも感じますが、そういう頭にならなかったのは、やっぱり自分がサッカーに負い目を感じていたからだと思いますね。

 高校の途中でサッカー部をやめると、それまでのサッカー部の友達とのコミュニケーションがなくなるんです。廊下でサッカー部の友達と会っても目を見ないようになるし、サッカー部が練習しているグラウンドを通らないようにわざわざ遠回りして帰宅していました。そういうことが当時すごく寂しかった思い出がありますね。そしてどんどんサッカーが嫌になる。それまで買っていたサッカー雑誌ももちろん全捨てですよね。部屋の壁に貼ってあったポスターも外して。とにかくサッカーを全部シャットアウトして。その空いた胸の穴を埋めるために、音楽にのめり込んでいきました。

――そこからはしばらくサッカーをやらない、見ないという期間が続いたのですか?

GAKU:高校を卒業して、大学に行って、音楽業界に入ってからも、ボールはまったく蹴らず、サッカーも一切見ない。当時は「サッカー嫌い」と公言していました。「マイケル・ジョーダン最高! ラッパーといえばバスケだろ」と言いながらシカゴ・ブルズのシャツを着ていましたね。

前園真聖に「ブーツ履いたまますげえリフティングを見せられて」

――そこまで嫌悪感を抱いていたサッカーと再び関わることになったきっかけは?

GAKU:これはもう明確に覚えていて、たまたまつけたテレビで日本とブラジルが戦っていたんです。勝つわけねえだろうって思いながら見ていたら、日本が1-0で勝っちゃって。1996年のアトランタ五輪の“マイアミの奇跡”ですね。そこでもう感情が爆発して泣いてしまって。この時にやっぱり自分に嘘をついていたんだな、と気づきましたね。

――やっぱりサッカーが好きなんだと。

GAKU:そうそう。で、アトランタ五輪の日本代表に感動したという話をいろいろなところでしていたら、仲の良かった編集者が誘ってくれて、大会の翌週に前園(真聖)くんとバーベキューをすることになったんです。そこで一緒にボールを蹴ってみたら、レッドウィングのブーツ履いたまますげえリフティングを見せられて。一方の僕は「こんなに動かないか」と自分で驚くくらい体が動かなくて(苦笑)。その後すぐにサッカーに興味のある友達に電話しまくって、サッカー部を立ち上げました。

――なるほど。そこからご自身の仲間たちを集めてボールを蹴る日々が始まるわけですね。

GAKU: 28歳の時にチームつくって、そこからずっと定期的に。そこで、いま一緒にウカスカジーをやっているMr.Childrenの桜井(和寿)とも出会って。ケガと、仕事が忙しくなければ毎週やっているという感じで今に至ります。

もうサッカー嫌いになる理由はない。伸びしろしかない

――日本では学生時代にはつらく厳しいサッカーのトレーニングを経験し、社会人になるタイミングで“引退する”という話もよく耳にします。ガクさんのように仮に一度サッカーから離れても、長く楽しく生涯スポーツとしてプレーする秘訣はなんでしょう?

GAKU:僕の場合は、1回嫌いになったっていうのがポイントじゃないですかね。1回嫌いになって、でもやっぱり好きだって思った時には、もう嫌いになる理由はないですから。自分がもっとできるはずだったっていう思いもずっとあって、なんか頑張れたし。あともう一つ、それまで大好きな趣味だった音楽がガッツリ仕事になって、当時、自分に趣味と呼べるものがなかったのも大きかったです。サッカーがすごくちょうどよかったっていうかね。

 あと、フットサル場主催の大会とかにも仲間と出たりして、何度か優勝もしてるんですよね。「音蹴杯」という音楽業界の人たちが集まるフットサル大会にも毎年出場して。そこでみんなで優勝を勝ち取る喜びとか、日々の練習の大切さ、真剣に楽しむということにも触れることができました。そうやってどんどんサッカーにのめり込んでいきましたね。

――いちプレーヤーとして、今後どのような形でサッカーと関わっていきたいと考えられていますか?

GAKU:プレーヤーとしてまだまだ自分に伸びしろがいっぱいある気がしていまして。いま僕がフォローしているSNSもほとんどがサッカースキル動画ですし、やりたい技をいっぱい覚えている途中なので。引き続き楽しくボールを蹴り続けたいですし、もっともっと成長できると思っています。

<了>

[PROFILE]
GAKU-MC(ガク・エムシー)
1970年10月6日生まれ、東京都出身。ラッパー、ミュージシャン。アコースティックギターを弾きながらラップする日本ヒップホップ界のリビングレジェンド。2013年、自身の音楽活動と平行し僚友である桜井和寿(Mr.Children)とウカスカジーを結成。2014年、2018年と日本サッカー協会公認 日本代表応援ソング制作。現在は年間約60本のライブに出演し、TV出演や作詞作曲など作品提供を行う傍ら、レギュラーラジオ番組(J-WAVE)にて毎週サッカーに関わるゲストの活動を紹介するコーナーを担当し、音楽とフットボールという世界二大共通言語を融合し人と人をつなげていくことを目的とした団体MIFA(Music Interact Football for All)での活動などを通してサッカー界でも貢献を続けている。

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