エールビールに脚光 主流のラガーと異なる味わい 飲みやすさで新たなユーザーつかむ
“ちょっと高め”の価格設定も奏功「キリングッドエール」
ラガータイプが主流を占めてきた日本のビール市場に、変化の風が吹いている。近年がぜん注目度が高まっているのが、エールタイプだ。
酵母や製法の違いから来る、ラガーとは異なる華やかな香りと軽やかな飲み心地。これまでビールの苦みや味の重さを敬遠してきた層にもアピールし、新たなユーザー獲得に期待がかかる。

25年は前年割れで着地したとみられるビール類市場。発泡酒などエコノミー系の縮小継続に加え、酒税減税による需要回帰で好調が続いた狭義ビールの伸びにも息切れが目立ってきた。

そんななか、ひとり気を吐くのがエールタイプだ。

商品名に「エール」を含むビール類のSKU数は、19年の41に対して今年は69と約1.7倍に増えている(㈱マーチャンダイジング・オン RDS市場データ スーパー全国/1-3月時点比較/販売容量上位1000SKU中)。

そもそも「エール」って?

紀元前数千年にメソポタミアやエジプトの古代文明から生まれた、ビールの元祖ともいえる存在こそエール。大麦麦芽を原料に上面発酵酵母を使用し、20℃前後の常温で短期間に発酵させるスタイルのビールだ。

これに対して後発のラガーは、低温貯蔵技術の発達を背景に生まれたスタイル。約5℃に冷やされた麦汁に下面発酵酵母を加えてタンクで発酵させたのちに、さらに0℃の低温で1~2か月の熟成を経て造られる。

日本にビールが伝わったのは明治時代。当時ヨーロッパで主流だったラガーが、高温多湿な日本の気候に合う味わいのビールとして定着した。
現代でも、日本で飲まれているビールの大半はラガーだ。

そんななかで数少ないエールタイプも、ラガーとは異なる個性で着実に支持をつかんできた。14年発売の「ザ・プレミアム・モルツ 香るエール」(サントリー)を筆頭に、「ヱビス プレミアムエール」(サッポロビール)、「よなよなエール」(ヤッホーブルーイング)などのブランドが上位に並ぶ。

また発酵タンクの容量が限られる小規模ブルワリーにとっては、1週間程度の短期間で醸造できるエールは好都合。そのこともあって、各地のクラフトブルワリーが個性を発揮した多彩なエールビールが展開されている。

「キリングッドエール」 ゲームチェンジャーに?

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“ちょっと高め”の価格設定も奏功「キリングッドエール」そこに昨年、突如として巨大ブランドが誕生した。キリンビールが「一番搾り」「晴れ風」に続く次世代定番ビールとして、10月に発売した「キリングッドエール」。雑味を抑えながらホップの持つフルーティさを引き出し、満足感のある味わいに仕上げている。

発売から3か月で国内エールビール販売容量シェア5割に達し、昨年のエール市場を前年比151%と押し上げた。スタンダードとプレミアムの中間を行く“ちょっと高め”の価格設定も奏功。「手が届く価格帯のご褒美感あるビール」として、特別な日ではなく日常的に飲むユーザーを想定以上に獲得できたことが躍進の要因と同社ではみている。

狭義ビールに占めるエールビールの販売容量構成比はこれまで約4%で推移していたが、25年は通年で5.9%、10~12月は7.7%と倍近くにまで伸長したという(キリン調べ)。


ラガータイプが主流の日本のビール市場で、あえて特別感ある味わいのエールタイプとした点で読みが当たった。

「エールにもさまざまな味の造り方があるが、重視したのは『飲み飽きない』ということ。飲みごたえやフルーティ感がありながら、飲み飽きない味わいが支持された理由の一つと考えている」(今年3月の発表会で同社執行役員マーケティング部長・今村恵三氏)。

同社の調べでは、エールビールを認知しているのはビール類ユーザーのうち4人に3人。ラガーと比べて「おしゃれな感じ」「最近流行している」「普段とはちょっと気分を変えてくれる」「特別感がある」などのイメージが強いことも分かった。

グローバルではビール全体の1割程度を占めるとみられるエール市場。北米を中心としたMZ世代の嗜好変化も背景に、33年には現在の3倍近い約491億米㌦規模に成長するとの予測もある(米Spherical Insights社調べ)。

日本市場でも、今年10月に控えるビール類酒税の統一を経て従来の「ビール」「発泡酒」といった区分を超え、その味わいやブランドの個性の違いがより意識されるようになると考えられる。これまで市場の主流を占めてきたラガーとは一味違う、エールならではの魅力が脚光を浴びる場面が増えそうだ。

市場拡大の火付け役 プレモル「香るエール」 日本の食卓に新たな選択肢

トレンド拡大の兆しが見えてきたエールビール。14年の発売以来、この領域で市場構築の中心的役割を果たしてきたのがサントリー「ザ・プレミアム・モルツ 香るエール」だ。同社で開発を担当するビール商品開発研究部・開発主幹の浅野翔氏と、マーケティング本部ビール・RTD部の金野貴浩氏に聞いた。


エールビールに脚光 主流のラガーと異なる味わい 飲みやすさで新たなユーザーつかむ
サントリーの金野貴浩氏㊧と浅野翔氏
サントリーの金野貴浩氏㊧と浅野翔氏◇  ◇

――「エールビール」について教えてください。

浅野 人類史上初めて造られたビールがエール。その後に低温貯蔵技術の発達でラガーが出てきた。酵母のタイプが違うことに加え、エールはラガーに比べて高めの温度で発酵させるので、酵母が生み出すフルーティな香りが出やすいのが特徴だ。

若干高めの温度で飲まれることが多い伝統的なエールは、イギリスを主体に親しまれてきた。これに対して近年ではアメリカから流行したIPAのように、苦みや香りなどの特徴が立った新しいエールが出てきた。

――「香るエール」誕生の経緯について。

金野 近年お客様の間では、複数の銘柄や味を楽しむ方が増えている。多様化するニーズに対応してビールの価値を広げるため「香るエール」を14年に発売した。エールは若年層や女性に飲まれる比率が高い。みずみずしい香りとフルーティさがあり、ドリンカビリティの高い味わいが特徴。「プレモル」とは飲用オケージョンも少し異なっている。


飲食店でも約1万1千店で取り扱っていただいており、食事に合う味わいに評価をいただいている。

浅野 プレモルからエールを出すことを決めたとき、日本のお客様に飲んでいただくため、食事とともに楽しめるビールを作ろうというところから開発をスタートした。日本人に向けた新しいエールとして開発したのが「香るエール」だった。

エールよりも技術的に高度なラガーから始まった日本のビール業界では、これまでエールビールのハンドリングや技術の蓄積が少なかった。大手がエールを通年で発売したのは「香るエール」がおそらく初めて。長年かけて上面発酵の技術を開発してきた成果だ。

大学生の方にインタビューしたところ、初めてビールをおいしいと思ったのが「香るエール」だったという方が多かった。「ビールは苦手だったけど、これなら飲めると思った」という声もあり、それは私たちにとっても大きな気づきとなった。

金野 「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドはこのほど3種をリニューアル。このうち「香るエール」は仕込条件の見直しにより、フルーティな味わいや香りのふくらみ、余韻を強化した。華やかな青とピンクのグラデーションのパッケージも、これまであまりなかったデザイン。発売後は狙い通り若年層のお客様に手に取っていただくことが増え、購入者数は約2倍で推移している。


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限定発売の「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉夏風香るエール」
限定発売の「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉夏風香るエール」5月19日からは「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉夏風香るエール」も数量限定発売。サファイアホップを使用し、上面発酵酵母を用いて醸造することで、グレープフルーツのような爽やかな香り立ちと、かろやかな余韻が楽しめる味わいを目指した。

リラックス感や夏ならではの気持ちよさを伝えるコミュニケーションを展開する。

――エール市場の今後をどう見ますか。

浅野 さまざまなタイプのビールをご提案できるのも、エールタイプの強み。酵母とホップの香りの組み合わせで幅が広がることから、ヨーロッパでも土地ごとに多様なタイプのエールが存在している。

「香るエール」はIPAに比べるとそうけばけばしくなく、フルーティで程よい香りのエール。飲みやすく、どんな料理にも合わせられるという声を多くのお客様からいただいている。新たな提案の余地は、今後も十分にあると思っている。

金野 ビールの嗜好や飲用オケージョンが多様化するなかで、各社からの商品投入もあってエールも日本人に合うビールとして徐々に受け入れられつつある。10月の酒税改正後もさまざまなご提案を継続し、ラガータイプとの相乗効果で市場を盛り上げていきたい。

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