井上尚弥戦直前。"拳友"のWBOフライ級チャンプが語る、頂上...の画像はこちら >>

WBOフライ級タイトル、5度の防衛に成功したチャンピオン、アンソニー・オラスクアガは言った。

「5月2日のナオヤ・イノウエ戦は控え室に一緒に入って、ジュントをサポートする。

僕もそうしてもらっているから」

オラスクアガが日本のリングに初めて上がったのは、2023年4月8日のことだ。WBA/WBCライトフライ級王者だった寺地拳四朗に挑戦し、第9ラウンドTKOで敗れた。もっとも、オラスクアガは試合の2週間前に、<代役>として同ファイトのオファーを受けている。

「世界タイトルマッチだからチャンスだと思ってサインしたけれど、実際のところ減量するだけで精一杯だった。今でも自分の階級であるフライでなら、ケンシロウに勝つ自信はある。

負けた時はショックで......本当に落ち込んだよ。そんな僕をジュントが、『いい仕事ぶりだったよ。次に世界戦が決まったら必ず勝てる。だから、また前を向いてやっていこう』って励ましてくれたんだ。あの一言は忘れられない。いいチームメイトを持ったなって、心底感じた」

井上尚弥戦直前。"拳友"のWBOフライ級チャンプが語る、頂上決戦に挑む中谷潤人

1999年1月1日生まれのWBOフライ級チャンプと中谷潤人との出会いは、2013年の冬である。

「物心ついた時から、父が母に暴力を振るう姿を見て育った。

その後、父はメキシコに強制送還された。母はハウスキーパーとして身を粉にして働き、僕を含めた6人の子供を育てた。姉3人、兄1人、弟1人っていう家族構成さ」

荒れていたオラスクアガを父親代わりとして引き受けたのが、中谷のコーチであるルディ・エルナンデスだった。

「ルディの家に寝泊まりするようになった頃、日本からボクシング修行に来ている人だって、ジュントを紹介された。確か、休日だった。皆でビッグベア・レイクに雪を見に行ったんだ。ジュントはまだ英語があまり話せず、おとなしかった。でも、礼儀正しい印象を持った。

遠い日本から志を持ってきているんだなぁって、強く感じた。会う機会が増すに連れて、お互いに打ち解けていった。彼とスパーリングをした時、すごく親しくなった気がしたな」

27歳のチャンプは笑顔で振り返る。

「当時、僕は15歳。

ジュントは16歳。学校では、サッカーやバスケットボールをやっていたんだ。ルディの仕事がボクシングのトレーナーだから、僕もちょっとやってみようと思った。で、ある時、ジュントとスパーリングすることになって、彼の左ボディアッパーを喰らってダウンしたんだよ。まだプロでやると決めていない時期だったんだけど、それでスイッチが入ったね」

井上尚弥戦直前。"拳友"のWBOフライ級チャンプが語る、頂上決戦に挑む中谷潤人

多くのボクサーと同じように、オラスクアガの夢も「世界チャンプになって財をなし、母に家をプレゼントすること」である。
 
「ルディの指導はもちろん、僕にはジュントというお手本があるからこそ、世界チャンピオンになれた。自分の律し方、ボクシングに対する姿勢、毎日、とても勉強になっている。

確かに世界タイトルは手にしたけれど、まだ母に家を購入できるほどの貯金はない。だから、ジュントを追いかけるんだ。まずは、フライ級で僕が最強だと証明したい。統一戦が決まるといいんだけどね」

オラスクアガは、東京ドームでの4冠統一スーパーバンタム級タイトルマッチについて熱っぽく語った。

「今回のキャンプで、ルディはジュントのディフェンス面を強化してきたよね。

側から見ても、難しいメニューだ。でも、ルディが与える課題について、ジュントがハードさを感じているなら、それは良いこと。なぜなら、技術をモノにする時って、独自の方法を見つけなければならない。苦しみの先に習得があるからね。

学ぶ方法はただ一つ、スパーリングや練習を重ねてテクニックを磨くこと。ジュントはルディが厳しい状況に追い込んでいるからこそ、今、最高の状態にある。ルディは時々、両ガードを下げて防御の練習をしろって言う。僕にもだ。やりたくないけど、そうすることで上達できるのは分かっている。敢えて困難を与えて、苦手なことを克服させるコーチなんだ」

中谷が挑むWBA/WBC/IBF/WBOスーパーバンタム級チャンピオン、井上尚弥を、オラスクアガは手放しで褒めた。

「"モンスター"イノウエは最高の選手。パウンド・フォー・パウンド・ベストをいつも争っている。

去年は4冠タイトルの防衛戦を4試合もやって、全てに勝利したよね。彼は絶好調だ。33歳の彼をロートルだなんて言う人はいない。ここ数試合で、確かに2度ダウンを喫した。でも、その後どうしたかは知っているだろう? 立ち上がって、チャレンジャーを打ち負かした。ダウンしたから衰えているなんて、絶対に口にできない。トップ選手と拳を交えれば、そういうことだってある。イノウエは世界戦の全勝記録を更新中だ。

ジュントもそう。まさに、ベストvs.ベストの対決だ。それだけの名チャンピオンが相手だとしても、僕はジュントの勝利を確信している」

試合展開について、WBOフライ級王者は、こう述べた。

「立ち上がりは、お互いに出方を窺うだろう。

どんな攻撃を仕掛けてくるか、見極めようとするはず。どちらが自分の得意なパンチをヒットするか。両者のゲームプランが明暗を分けるよ。イノウエは、フットワークを重視すると僕は見る。スピードは、モンスターが上じゃないかな。対するジュントは、タイミングの取り方にアドバンテージがある。

徐々にパンチを交換するようになって、8ラウンドぐらいにジュントがイノウエを捉えるさ。チャレンジャーの技術と動き、リーチにパワー、そしてチャンプを倒すぞというメンタルが武器になる。決定的な差は、ジュントの方がハングリーである点だ」

井上尚弥戦直前。"拳友"のWBOフライ級チャンプが語る、頂上決戦に挑む中谷潤人

オラスクアガは言葉を足した。

「イノウエが素晴らしいことは誰もが十分に理解している。彼は速く、強く、ボクシングIQも高い。でも既に、これ以上何を成し遂げるの? というほど、富も名声も築いた。

仮に明日、引退を決めたって、やり残したことは無い王者だよね。僕も世界チャンピオンになって5回防衛したけれど、母に家をプレゼントするには全然カネが足りない。満足なんてできっこない。だからこそ、勝たなきゃいけない。稼がなきゃいけないんだ。そのためには練習するしかない。

ジュントはずっと、ベストファイターになる目標を追いかけてきた。彼は頂点に立ちたい。色んなメディアがパウンド・フォー・パウンド・ランキングを発表するけれど、今、6位くらいだよね。ずっと、1位になることを望んでいる。それは間違いない。だから、KINGを倒したいという強い思いで、この試合に臨む。

ジュントがイノウエを倒せば、彼こそがKINGになる。ボクサーなら誰だって、モンスターの立場になりたいと思うさ。イノウエは長い間そのポジションにいるが、いつか誰かがその座を奪う。ジュントこそが、強い意志を見せてくれると信じる。

追いかける者と、追われる者のメンタルの差は大きいと僕は考える。自分自身がそうだからさ」

オラスクアガはこう結んだ。

「両選手にとって、とても苦しいファイトになるだろう。でも、ジュントが勝つよ。ハートの違いを見せてね」

10年以上、苦楽を共にしてきた中谷の"拳友"は、間もなく東京に到着する。世界中のボクシングファンが注目する頂上決戦のゴングまで、あと僅かだ。

取材・文・撮影/林壮一

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