◆JERA セ・リーグ 巨人4―3広島(10日・東京ドーム)

 巨人が広島に逆転勝ちし、今季3度目、5月以来の4連勝。8月24日以来の貯金1とした。

同点の8回1死満塁から代打で登場した坂本勇人内野手(36)が左犠飛を放って試合を決めた。初回に2点の先取点を許すも、キャベッジ、岸田のアーチ攻勢で盛り返した。先発・森田が5回3失点で降板する中、救援陣も奮闘。8回1イニングを無失点に抑えた大勢が8勝目(4敗1セーブ)を挙げた。3位・DeNAとの1・5ゲーム差を守った。

 その存在で、東京Dの雰囲気が一変した。バットを持った背番号6がベンチを飛び出すと、割れんばかりの大歓声が「代打・坂本」コールをかき消した。3―3の8回1死満塁。とっておきの切り札が残っていた。

 「なんとかこの期待に応えたいなと。野球選手として本当にありがたいことです」

 マウンドには広島の3番手・島内。2球で追い込まれ、きわどいコースにファウルで食らいつく。

150キロ超の直球が5球続く中で、頭の中は冷静だった。「どこかで来そうだなと。裏かかれながらだったんですけど、最後に頭にあった」と6球目の低め132キロチェンジアップに体勢を前に出されながら、最後は左手一本になってもすくい上げた。読みと技術の結晶は、左翼へ飛距離十分の犠飛となった。一塁付近で増田大の生還を見届けると、勝負師の顔が緩む。無邪気な笑顔で右手を突き上げ、喜びを爆発させるベンチのナインに駆け寄った。阿部監督は「そういう時のためにいてくれている。最高の結果じゃないですか」と勝負手に応えたベテランに感謝した。

 スタメンは8月12日の中日戦(東京D)が最後。代打の切り札が今、任される役割だ。先発出場とは違い「いきなり0が100になる」と、勝敗を左右する場面で一気にスイッチを入れる難しさを実感している。試合の流れを読んでベンチ裏のミラールームで準備し、集中力を研ぎ澄ませるのは「打席に入ってから」。

対戦投手が直前まで不透明な一打席勝負で、代打成績は16打数5安打で打率3割1分3厘と結果を残している。「後から出ている選手は本当に大変なんだなと初めて知りました」と、野球人として新境地を開いている。

 グラウンド外でも精神的支柱だ。宮崎キャンプ中の2月2日、近年はコロナ禍で開催が見送られていた巨人の「88年会」が6年ぶりに復活。新加入した田中将の歓迎会も兼ねた一夜の仕掛け人は坂本だった。88年生まれのチームスタッフに声をかけ、計13人で宮崎市内の海鮮料理店で開催。約2時間の会は大盛り上がりだった。

 5月7日の阪神戦(東京D)以来となるお立ち台。背番号6が小走りでグラウンドに姿を見せると再び、大歓声が巻き起こった。「普段から岸田さんにバッティングを教えてもらってるので、よかったです」と隣に立つ後輩をイジって爆笑を誘うと「選手全員で戦っているので。どういう役割になるかわからないですけど、求められたところで頑張れるようにやっていきます!」。巨人のために仕事を全うする。

置かれた場所が変わっても、坂本勇人の信条は不変だ。(内田 拓希)

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