馬トク報知で過去の名勝負を当時の記事から振り返る【競走伝】。今回はキングカメハメハが勝った2004年のNHKマイルCを取り上げる。

1分32秒5のレースレコードV。レース史上、最もすごい勝ちっぷりとの呼び声も高い一戦だ。

 勝負は走る前から決まっていたのかもしれない。スタート前の返し馬。安藤はキングカメハメハの背中から、抜群の感触をつかんでいた。「フットワークがすごくスムーズ。この馬のリズムで走らせれば、おのずと結果が出る」。

 名手の期待通り、いやそれ以上だ。初めてのマイル戦でもすんなりと中団につけられた。直線はムチも使わず、馬場の真ん中を堂々と抜け出す危なげない内容。「少々外を回っても勝てる手応えがあった。リズムを大事にしようと、ずっと安全策を取った」。

残り200メートルを過ぎて先頭に立つと、あとはもう突き放すだけ。不安視された距離の大舞台で、前年の2歳王者コスモサンビームに5馬身差の完勝劇だ。

 ライバル17頭が、かすんでしまう文句なしの強さ。それでも松田国調教師は気を緩めない。「強い馬を作って牧場に返すのが調教師の仕事。短期間で1600、2400メートルのG1を勝つことに意味がある」。NHKマイルC→ダービー連勝は、自らの信念において何が何でも達成しなければならない命題。クロフネもタニノギムレットも成し得なかった偉業へ、まだ折り返したに過ぎないからだ。

 その手応えは十分過ぎるほどにつかんでいる。「右肩上がりで上昇している。どこまで成長するか、分からない。クロフネ、タニノギムレットとの比較は、ダービーが終わるまでは何とも言えないんじゃないですか」と松田国師。

驚異的な成長力に、安藤も「デビューのころとは全然違う。精神的にずいぶん大人になった」と舌を巻くほどだ。

 「これで終わりじゃない。今日の延長線上にダービーがある」。改めて表明したトレーナーの決意に、安藤も力強く背中を押した。「変にテンションが上がらないし、人間の言うことを理解できる馬。2400メートルならもっと楽に乗れるんじゃないか。皐月賞組にも一歩リード? うん、そう思います」。

 その言葉は現実となった。日本ダービーでも中2週の厳しいローテーションをものともせず、早めに好位へ押し上げると、直線でも後続を圧倒。追撃するハイアーゲームを競り落とし、返す刀でハーツクライの強襲も退けて、9015頭の頂点に立った。時計は2分23秒3のダービーレコード。

スピードと持久力を兼ね備えた超一流の馬だった。

 これから、どんなすごい歴史を刻んでいくのか。誰もが輝かしい未来を楽しみにしていたが、幕切れは突然だった。秋に神戸新聞杯を勝った後、10月に右前浅屈けん炎を発症。秋の天皇賞を断念し、現役引退が決まった。

 しかし、種牡馬としてもダービー父子制覇となったレイデオロを始め、ロードカナロア、アパパネ、ドゥラメンテ、ホッコータルマエ、ラブリーデイ、ローズキングダムなど、数多くのスターホースを送り出した。2019年に天国へ旅立ったが、その足跡が認められ、24年度には顕彰馬にも選出。そのDNAは令和の時代でも、着実に広がり続けている。

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