「住まいを借りたいのに借りられない」。そんな課題の解決に向け、国や自治体が支援体制の整備を本格化させています。
住まい探しの「見えない壁」と岸和田市の現状
岸和田市社協の理念は「誰もが社会から孤立することなく、共に暮らせるまち岸和田をつくる」こと。生活上の課題を持つ人に寄り添いながら、地域の人がその人らしくいきいきと暮らすことができるよう支援を行っています。その歴史は古く、設立は1950年。以前から高齢や障がいといったことを理由に自分で金銭管理を行うことが難しい人をサポートする「日常生活自立支援事業」などを通じて多くの相談を受けてきました。ところが、2018年ごろから、住まいに関する切実な相談が急増しているそうです。
岸和田市社協の大川浩平(おおかわ・こうへい)さんと吉村渉(よしむら・わたる)さんは「家賃を払う能力はある。福祉のサポートもついている。それでも『緊急連絡先がない』という理由だけで、アパートの契約を断られてしまう現実がある」と語ります。
特に深刻なのは、単身の高齢者や障がい者、そして身寄りのない生活保護受給者の人たち。家主や不動産管理会社にとってみれば、単身の高齢者や要配慮者を受け入れることには、「孤独死のリスク」「家賃滞納の恐れ」「近隣トラブルへの懸念」といった大きな心理的ハードルが存在するため、入居を断られることが多いのです。
賃貸住宅へ入居を希望しても、さまざまな理由でオーナーや不動産会社から入居を断られることが多い。
「特に連帯保証人がいない場合、家賃債務保証会社を利用するのが一般的ですが、その保証会社の審査を通すためにも『緊急連絡先』が必須となります。しかし頼れる親族がいないと、ここで立ち往生してしまうのです」(大川さん)
実際、岸和田市社協には年間100件以上の住まいに関する相談が寄せられていますが、その中には、生活保護の住宅扶助引き下げに伴う転居や、アパートの取り壊しによる退去勧告など、待ったなしの状況も少なくありません。
緊急連絡先がないことで、賃貸住宅に入居できない人たちがいる(画像/PIXTA)
身寄りのない単身入居のボトルネック「緊急連絡先」を社協が引き受ける
岸和田市社協は、居住支援ニーズの高まりや、2017年に改正された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(以下、住宅セーフティネット法)の制度に基づき、同年12月に大阪府より居住支援法人(※)の指定を受けました。2019年には「岸和田市居住支援協議会」を設立(事務局は社協)。行政、福祉、不動産関係団体の「顔の見える関係」で連携し、支援する体制を構築してきました。
※居住支援法人:住宅の確保に特に配慮が必要な人(住宅確保要配慮者)が、民間賃貸住宅へスムーズに入居し、安定した生活を送れるよう支援を行う法人で、住宅セーフティネット法に基づいて、都道府県が指定する
岸和田市居住支援協議会では、居住支援法人である岸和田市社協が岸和田市の生活福祉課や住宅政策課、不動産協力店、そのほかの専門事業者などと連携し、配慮が必要な人への支援を行っている(画像提供/岸和田市居住支援協議会)
その核となるのが、岸和田市社協が組織として「緊急連絡先」を引き受ける体制です。
「どうしても身寄りがない方については、社協が緊急連絡先を引き受けます。これにより、家賃債務保証会社の審査が通り、物件が借りられるようになります」(大川さん)
単に名前を貸すだけではありません。岸和田市社協は入居後も「見守り」や「金銭管理」などの福祉サービスとセットで支援を継続します。家賃滞納や火災保険の更新漏れ、連絡が取れないといったトラブルが発生した際には、保証会社や管理会社から社協の専用携帯に連絡が入り、職員が安否確認などの対応に走ります。
「賃貸物件のオーナーさんにとっても、『何かあった時に社協が動いてくれる』という安心感が、契約のハードルを大きく下げることにつながっているのでしょう」(大川さん)
岸和田市社協が入居者の緊急連絡先となることで、家賃債務保証会社の審査や、府営住宅への入居がスムーズになる。オーナーや不動産会社にとっては、安心材料になる(画像提供/岸和田市居住支援協議会)
それでも断られるなら「自分たちで物件を持つ」。社協がオーナーに
緊急連絡先の提供で多くの人が賃貸住宅に入居できるようになった一方で、過去に滞納歴があったり、重度の障がいがある、刑務所出所者であることなどを理由に、民間賃貸住宅ではどうしても受け入れが難しいケースも存在します。
「民間が難しいなら、自分たちで受け皿を作るしかない」。そう考えた岸和田市社協は、なんと、社協自らが中古アパートを購入し、オーナーとして住まいを提供し始めたのです。
「社会福祉法人には、事業継続に必要な額を超える財産(社会福祉充実財産)について、地域課題解決のために計画的に再投下する責務があります(社会福祉充実計画)。当会ではこの資金を単に消費するのではなく、最も不足している住宅確保要配慮者を支援するための『住まいのインフラ』へ社会的投資する決断をし、アパートを購入しました。現在は買い増しを行い、2棟19室を社協が所有しています」(大川さん)
社協が自前で居住支援用のアパートを所有・運営するのは、全国でも極めて稀なケースです。
さらに、大阪府営住宅の空き室を社協が借り上げ、住まいに困っている人に転貸する「サブリース(目的外使用)」の方式で別に3室運用しています。民間賃貸住宅を借り上げて転貸するケースもあるのだとか。これらの物件が一時的なシェルターとして、あるいは長期的な住まいとして、制度の狭間にいる人びとの命綱となっているのです。
岸和田市社協による住まいのセーフティネット
岸和田市社協では、住まいのセーフティネットとしてサブリース事業、居住支援のシェルター事業、独自のシェルターを提供するCUE House事業を行っている(画像提供/岸和田市社会福祉協議会)
現場を支える不動産会社の「想い」と「実利」
こうした岸和田市の先進的な取り組みを、現場で支えているのが地元の協力不動産会社です。その1社であるWAOWAO-create(ワオワオクリエイト)の中村聡(なかむら・さとし)さんは、制度ができる以前の2014年ごろから高齢者や出所者など、独自に住まいの確保に配慮が必要な人たちの受け入れを進めてきました。
岸和田市で不動産仲介や物件管理を行っているWAOWAO-create(ワオワオクリエイト)の中村さん。岸和田市居住支援協議会の一員として、岸和田市社協と一緒に居住支援を行っている(画像提供/岸和田市居住支援協議会)
「築年数が古い物件など、空室に悩むオーナーさんにとって入居者は喉から手が出るほど欲しい存在です。一方で、配慮が必要な人たちへの賃貸はトラブルなどへの不安もあり、多くのオーナーさんは躊躇していたのでしょう。
中村さんは、これを単なるボランティアではなく、全国的に問題になっている空き家の対策や、不動産業としての「実利」も見込めるビジネスとして捉えています。
「私たちにとっては、配慮が必要な方への対応は『日常』です。特別なことではありません。社協というしっかりした後ろ盾があることで、自信を持って空室を減らす方策をオーナーさんに提示できます。物件探しや契約は私たち不動産会社が行い、入居後、生活のフォローや福祉的な支援が必要な場合は、社協、行政と連携をとってお任せする、いわば『餅は餅屋』の役割分担。
今後は、電気の使用状況で安否を確認できる見守りサービスの導入なども検討し、より貸しやすい・借りやすい環境をつくっていきたいですね」(中村さん)
きれいごとでなく、物件オーナー・入居者・不動産会社の「三方よし」の仕組みが、持続可能な支援を可能にしています。
オーナー・入居者・不動産会社の「三方よし」が持続可能な支援を可能に(画像/PIXTA)
施設を転々としてきた70代男性「一人で過ごせた」
この仕組みによって、実際にどのような変化が起きているのでしょうか。社協の吉村さんは、ある70代男性(Aさん)のエピソードについて教えてくれました。
Aさんは、金銭トラブルなどが原因で入居していた施設を退去させられ、行き場を失っていました。親族も当初は「一人暮らしをするのは無理だ」と諦めていましたが、社協が提案したのは、物件オーナーさんから借り上げているサブリース物件への入居です。
「社協で金銭管理を行い、週に一度お小遣いを届ける。ヘルパーやデイサービスも導入する。そうやって環境を整えることで、Aさんは問題なく一人暮らしを続けることができました」(吉村さん)
誰にも縛られない自由な生活を手に入れたAさん。
他にも「地域定着支援」として、障がい者が親元を離れて一人暮らしを体験する「4泊5日の体験事業」も実施。障がいのあるBさんが体験を経て獲得した「自分でも家事ができた」という自信が、一人暮らしの準備へ向けて本人と親御さんの背中を押しています。
社協の支援によって一人暮らしが実現したケースも多い(画像/PIXTA)
「岸和田気質」が生んだセーフティネットと今後の展望
岸和田市社協が事務局となっている「岸和田市居住支援協議会」では、配慮が必要な人や物件のオーナーを対象に月1回の「住まい探し相談会」を開催。賃貸住宅への入居相談や、空き家・空き室の相談を受けています。また、「住まいと暮らしの弁護士相談」も月1回開催。賃貸契約トラブルや家賃滞納、立退きに関する法的支援を行うなど、一貫したサポート体制を構築しています。
WAOWAO-create(ワオワオクリエイト)など、岸和田市居住支援協議会の不動産会社が相談員として参加した「住まい探し相談&オーナー様空き室相談会」の様子(画像提供/岸和田市社会福祉協議会)
なぜ、岸和田市ではこれほどスピーディーで踏み込んだ支援ができるのでしょうか。大川さんは、その理由に「岸和田の風土」を挙げます。
「岸和田には『だんじり祭』で培われた、地域の濃いつながりがあります。また、そういった輪に入れずに疎外感を感じる人に配慮する。それらが両立する風土があり、自分たちの街の課題は自分たちで何とかする、という気質が強いのかもしれません。
大川さんは、岸和田には「だんじり祭」で培われた地域の濃いつながりがあると感じているそう(画像/PIXTA)
岸和田市社協は、これからの課題として「入居した後の地域での孤立感解消」や「財源の確保」を挙げながら、社協所有物件のさらなる活用を視野に入れています。また、WAOWAO-createは、配慮が必要な人が入居可能な賃貸住宅のストックを増やすため、空き家・空き室をリノベーションして賃貸することも考えています。
これらの体制が整えば、今後さらに入居者とオーナー、双方の課題が解決に向かうでしょう。
入居できる「家」がないことは、すべての生活の基盤を揺るがします。社協がオーナーになり、不動産会社がパートナーになる岸和田市のモデルは、居住支援の未来を照らす一つの光と言えるのではないでしょうか。
●取材協力
・社会福祉法人 岸和田市社会福祉協議会
・株式会社WAOWAO-create

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