電車の“ねぐら” は意外と不便な立地だった!

 通勤電車から見える風景の中でなかなか見る機会のない、車窓からズラリと並ぶ電車たち。これは「車両基地」と呼ばれる場所で、電車が夜間に停車したり、点検や清掃を受けたりする施設です。

いわば電車の“ねぐら”といえるでしょう。

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 日本民営鉄道協会の鉄道用語事典によると、車両基地は「車両を収容するための場所で、操車場としての機能と車庫の機能を併せ持ったもの」と説明されています。国土交通省の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」では、車両の入換えや列車の組成を行う場所を「操車場」、車両の収容を行う場所を「車庫」と定義しています。

 こういった施設を備えた多くの車両基地は、都心の便利な場所ではなく、郊外や地下、あるいは運河沿いなどに存在します。日本民営鉄道協会の説明では「車両基地を作るためには広い土地が必要なため、都市の中心部から離れたところに設けられるのが普通で、地下に建設されることもあります」とはっきり記されています。

 鉄道利用者からは必ずしも近い位置とはいえない立地ですが、その選定にはしっかりとした理由が存在します。

立地を決めるのは“3つの事情”

 立地を決める要因となるのは、3つの理由が挙げられます。

「こんな場所に⁉」電車の“ねぐら”なぜ地下や郊外に? 広さだけじゃない、車両基地の場所を決める“3つの納得な理由”とは
広大な車両基地、でもどうやって場所が決まるの?(画像:写真AC)

 1つ目は「広い敷地を必要とすること」。都市部の通勤電車は、1編成あたり10両前後の車両数になることが多いです。ただでさえ長い編成車両を何本も並べ、さらに点検や清掃を行う設備まで置くとなると、求められる敷地は広大です。都心部でこれほどの土地を確保するのは、用地費や地権者との交渉などが必要となり、あまり現実的ではありません。

 2つ目は「騒音対策」。

車両基地では夜間・早朝にも車両の入替や洗浄が行われています。環境省の「在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針」では、新線や大規模改良線について騒音レベルの目安が示され、住居環境を保護すべき地域では一層の低減に努めることとされています。車両基地の運用には、周辺環境への配慮も重要になってくるのです。

 3つ目は「始発・終着列車との相性」。朝一番の始発列車は、車両基地から出庫して駅に向かいます。基地が終点駅の近くにあれば、営業運転しない回送列車の距離を短くでき、運用上のムダを抑えられます。つまり、郊外の終点駅付近に大きな車両基地があるのは、単に土地があるからだけでなく、朝のダイヤを効率よく始めるためでもあるのです。

 いっぽう、都心の一等地にも車両基地が置かれる場合があります。JR東日本の「東京総合車両センター」(東京都品川区)は、大井町駅近くで広大な敷地を構えています。地下と地上を組み合わせた立体構造となっており、山手線E235系など多くの車両を収容する珍しい造りです。狭い都市空間を立体的に使いこなす工夫が詰まった事例といえるでしょう。

 東京の地下鉄も興味深い運用をしています。

東京メトロ日比谷線では、南千住駅付近の千住検車区に加え、乗り入れ先である東武スカイツリーラインの竹ノ塚駅付近にも車両基地を持っています。もともとの基地が手狭で、拡張も難しかったことが理由です。

 同じように、東京メトロ半蔵門線が東急田園都市線の鷺沼駅付近に鷺沼車両基地が設置されたり、大阪メトロ堺筋線が阪急京都線の正雀駅付近に東吹田検車場が設置されているのも、ほぼ同様の事情が絡んでいます。

 つまり地下鉄の車両基地は、必ずしも自社線の中だけで完結しているわけではありません。相互直通運転という仕組みが、電車の“ねぐら”の場所まで左右することになっているのです。

 私たちが何気なく乗っている電車。その整備のためには、広大な土地、環境への配慮、始発ダイヤといったいくつもの要素が求められます。そのうえで乗り入れ先との関係まで見越した土地選びのプランニングが行われていました。車両基地のある場所をよく見ると、その鉄道がどのように都市と向き合ってきたのかが見えてくるのです。

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