次代を担う逸材たち~アマチュア野球最前線
第13回 立命館大・有馬伽久
昨年11月の明治神宮大会。立命館大の最速151キロ左腕・有馬伽久(がく/当時3年)が東京農業大北海道オホーツクとの1回戦で披露した圧巻の投球は、まさに「降臨」と呼ぶにふさわしいものだった。
3対0とリードした6回から2番手でマウンドへ上がると、コンスタントに140キロ台後半を計測するストレートが、鋭いクロスファイアーの軌道でホームベースの角を射抜いた。変化球もスライダー、カットボール、ツーシーム系を織り交ぜ、打者を圧倒した。
先頭打者から10者連続三振を奪い、1972年に関西大の山口高志(元阪急)が記録した8者連続三振を更新する大会新記録を樹立。4イニングを打者12人で片づける圧巻のパーフェクトリリーフを披露した。
2回戦の明治大戦でも、4回途中から延長10回までを投げ抜くロングリリーフで、東京六大学王者を相手に2安打6奪三振1四球、無失点の好投。チームの勝利に大きく貢献。決勝で青山学院大に敗れたものの、全4試合にリリーフ登板した。
【リーグ戦初登板でまさかの初回4失点KO】
そして迎えた2026年──今秋ドラフトの超目玉として、4年春のリーグ戦に臨んだ。
最初の登板は4月12日。リーグ戦期間中、わずか1週だけ使用できる甲子園球場。その特別な舞台で、しぶとさに定評のある近畿大打線を相手にどんな投球を見せるのか。大きな期待を抱きながら見守っていた、その初回だ。
ボールにいつもの伸びがない。
結局、初回に3安打4四球で4失点。2回からソフトバンクの若田部健一コーチを父に持つ若田部達生(4年)にマウンドを譲ることになったから、ちょっと驚いた。
あとから聞いた話では、乱調の原因は指の爪だったか、あるいはマメだったか、とにかく指先に違和感を抱えていたという。
翌週19日の関西学院大戦では2失点完投勝利を挙げたものの、被安打8。さらに5月4日の関西大戦でも2失点完投勝利をマークしたが7四死球と、昨秋の明治神宮大会で打者を圧倒したような快投とはほど遠い内容の投球が続いた。
それでも有馬の評価は下がっていないと、あるスカウトの方が話してくれた。
「この春の初戦で、1イニング4失点という信じられないことが起きて、マウンドを降りたあと、『有馬はどんな様子なんだろう』と思ってベンチを見ていたんです。すると、自分から前に出てきて、チームメイトを一生懸命、励ましていたんですよ」
その姿を見て、スカウトはすごく驚いたという。
「たぶん、ベンチ裏で落ち込んでいるか、あるいは悔しさをぶつけているか。そのどちらかだろうと思っていたんです。
これまで「逆の光景」は何度も見てきたという。
「自分の現役時代なんて、打たれてマウンドを降ろされたら、ベンチでグラブを投げつけたり、裏で怒鳴ったりしていましたからね(笑)。最近だってありましたよね。頭に血が上って、ベンチの壁を殴って骨折したなんて話も。
絶対的な存在になると、大事にされているというのか、チヤホヤされるじゃないですけど、そのことでちょっと勘違いするピッチャーもいないわけじゃないんです。だから、有馬くんの振る舞いを見て、立派だなと思ったんです」
【求められるFOR THE TEAMの精神】
今のプロ野球に「オレ様」タイプの選手の居場所は、なくなりつつあると言われている。
「今は、6回以降を4人くらいの投手でつないでいくのがふつうになっています。前の投手がしっかり抑えてくれたから、その流れを自分が引き継ぐ。さらに、自分のあとには別の投手が控えている。
みんなが前後の投手のために頑張る、そういう意識のうえで成り立っているんです。そんな環境で、自分が認められない相手や、敬意を持てない相手のために力を尽くせるかと言われたら、難しいでしょう」
「FOR THE TEAM(フォア・ザ・チーム)」──それは今のプロ野球選手に欠かせない心構えであり、有馬がベンチで見せた姿にも通じるものだった。
「昔のプロ野球は大エースが何人もいて、先発完投が当たり前でしたが、時代は急激に変わっています。今は打たれてマウンドを降ろされたから『ダメだ』で終わるような時代じゃない。
初戦の初回4失点は、もちろん褒められた結果ではありません。ただ、その後の有馬くんの振る舞いを見て、私の評価はむしろ上がりました。まだ学生ですから、いい時もあれば、そうでない時もありますよ」
5月27日、最終週の同志社大戦。有馬は3対3の延長11回二死からサヨナラ本塁打を浴びて惜敗したが、その内容は圧巻だった。
5回一死一塁の場面から登板すると、そこから打者21人を連続無安打に抑えた。この日の最速は148キロ。アベレージでも145キロ前後をマークするなど、ストレートで強気に押し込み、相手打線をねじ伏せた。ネット裏のスカウトたちから「春のリーグ戦で最高のピッチング」と評された。
今春は6試合に登板して3勝2敗、防御率2.53。チームも3位に終わり、全日本大学選手権出場は果たせなかった。数字だけを見れば、決して満足のいくシーズンではない。だが、その過程で見せた投球内容や人間的な成長は、大きな収穫だったと言えるだろう。
「世代ナンバーワン左腕」は、今秋のラストシーズン、そして10月のドラフト会議へ向けた確かな足がかりをつかみ、春のリーグ戦を締めくくった。










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