昔の高校野球の映像を見る機会がよくある。画質は粗く、音声も不明瞭なものが多い。

それでも映像を見ていて驚かされるのは、当時の球児たちからあふれ出るようなエネルギーだ。

 デッドボールを受けた選手が投手を威嚇することもあれば、野手と走者が交錯した場面で小競り合いになることもある。思いがけない殊勲の一打を放てば、これでもかというほどのガッツポーズを見せる。今の高校野球ではなかなか目にしない姿である。

 今の高校球児は、誰もがアスリート然としていて、プレー中はあくまで冷静で、感情をむやみに表に出さないよう努めていることが伝わってくる。

 もちろん、胸の内に秘めた熱さは昔と変わらないはずだが、振る舞いはあくまでクール。だからこそ、ピンチを切り抜けた瞬間に見せるガッツポーズや雄叫びに、それまで押し込めていた感情が一気にあふれ出る。

【夏の甲子園2026】「目立つことで叩かれることもある。でも...の画像はこちら >>

【名門・天理に無念の逆転負け】

 そんななか、高川学園(山口)のエース・木下瑛二は、今どき珍しいほど感情をむき出しにする投手だ。ここぞという場面では、帽子が飛ぶほどの全力投球。ピンチを切り抜けると大きく吠え、仲間のファインプレーにグラブを叩いて拍手を送り、三振を奪っては笑顔を見せる。

 初戦(2回戦)の高岡商(富山)戦では、8回までわずか2安打に抑え、8奪三振の快投。9回に1点を失ったものの、105球を投げ抜いて完投勝利を挙げた。

 この試合で話題になったのが、帽子のつばに書かれた「じょんならん」の文字だ。

香川県高松市出身の木下が、地元の方言(讃岐弁)を自ら書き込んだものだという。

「"じょんならん"という言葉があるんですけど。もう手に負えないというか、自分がマウンドに立ったら誰にも手に負えんというか、相手バッターを圧倒するという意味で書きました」

 そして高川学園が3回戦で対戦したのは、過去3度の日本一を誇る名門・天理(奈良)だった。エースの木下は、この日も「6番・投手」で先発出場した。

 初戦同様、テンポよく投げ込み、4回までわずか1安打に抑えて無失点。5回にピンチを招いたものの、投手ゴロを自ら処理して併殺を完成させ、この回も無失点で切り抜けた。すると木下はマウンド上で拳を握りしめ、雄叫びを上げた。

 しかし、3対0とリードして迎えた6回、木下は3連打を浴び、さらに四球を与えたところで降板。マウンドを宮崎隆成に譲り、自身はレフトに回った。その後、逆転を許し、3対6で9回を迎えた。木下は再びマウンドに上がると、天理打線を無失点に抑えた。

 試合後、涙をこらえながら木下はこう言った。

「集大成となる大会で負けてしまったことは悔しいです。でも、甲子園でプレーできたことは本当に幸せでしたし、自分にとって宝物になりました。一番印象に残っているのは、ピッチャーゴロでふたつのダブルプレーを取った場面です。球場もものすごい盛り上がりでした」

【甲子園に出場するたびに成長してきた】

 木下にとっては、昨夏、今春に続いて3度目の甲子園出場だった。

 1年前の夏は日大三(西東京)戦に先発したものの、初回に5安打を浴びて5失点。2アウトしか取れずに降板した。今春の選抜では英明(香川)戦に登板。5安打に抑えながらも7四死球を与え、5失点を喫して敗れた。

 調子がよければすばらしい投球を見せる一方、ひとたび気持ちが乗らないと、投球まで崩れてしまう。思いどおりに投げられない苛立ちが、そのまま仕草に表われることもあった。しかし、3度目の甲子園では違った。

 3度の甲子園を経験して、自身の投球はどう変わったのか。木下はこう語る。

「悔しいことも含めて、いろいろな経験をさせてもらいました。その経験があったからこそ、最後の夏はストライク先行で、三振を狙うよりも打たせて取るピッチングができました。今後の課題は、もっとボールの質を上げることです。自分の一番の持ち味は、ストレートと気迫のこもった投球です」

 木下の成長を見守ってきた高川学園の松本祐一郎監督はこう語る。

「急成長と言えるほどのスピードではありませんが、甲子園に出場するたびに、着実に成長してきました。今日の負けも悔しかったでしょうし、この経験を糧に、これからも伸びていくはずです。甲子園での経験は、それだけ選手を成長させてくれますから」

 木下の成長は、表情の変化からもうかがえると松本監督は言う。

「いろいろなことを受け入れて、我慢できるようになりましたし、表情も柔らかくなったような気がします。(派手なガッツポーズをして)目立つことで、叩かれることもあるかもしれません。でも、そういうところも彼のいいところだと思います」

 松本監督は、内面からあふれ出るエネルギーこそ木下の持ち味だと認めている。

「そこを抑えつけてしまうと、殻を破ることができません。木下の場合は、内面から自然と出てくるもので、彼の性格そのものですから、それでいいと思っています。

ただし、越えてはいけない一線は引きながらです。

 あれはパフォーマンスでも、ひとりよがりでもありません。だからこそ、まわりの選手たちも木下についていくことができたのだと思います。木下だけではありませんが、個人の性格やスタイルを尊重して、それぞれに合わせて指導していきたいと考えています」

【プロになって甲子園に戻ってくる】

 木下は冷静に自分を見つめながらも、必要な場面で自分の感情を素直に表に出せるようになった。そんな自身の変化について、木下はこう語った。

「自分が感情を出すことでチームが盛り上がればいいし、流れに乗れればいいと思ってやってきました。甲子園では悔しいことが多かったですけど、本当に幸せな場所でした」

 最速147キロのストレートを武器にする木下は、プロからも注目を集める投手のひとりだ。甲子園での戦いを終えた今、その視線はすでに次のステージへと向いている。

「進路はプロ1本です。長くプレーできるピッチャーになりたい。絶対にプロになって、また甲子園に戻ってきます」

 高校野球は終わっても、「じょんならん」投手を目指す戦いは終わらない。次に甲子園のマウンドに立つ時、木下はどんな雄叫びを響かせるのだろうか。

元永知宏●文 text by Tomohiro Motonaga

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