M&Aで経営不振のホテルを次々と買収し、わずか3カ月で黒字化させる「高速再生人」がいる。ブリーズベイホテル株式会社(神奈川県横浜市)の津田則忠社長だ。
「失敗」から生まれたビルドアップ戦略
―異色の経歴を経て、なぜホテル業界でM&Aを軸に事業を展開されているのでしょうか。
ホテルビジネスを始める前は、企業買収再生ファンドで、企業を買収し役員として事業を立て直す仕事をしていました。もともとは農林水産省の官僚でしたが、米国留学を機に外資系コンサルティングファームのマッキンゼーに転職し、そこでビジネスのOS(基本スキル)を徹底的に叩き込まれました。その後、投資ファンドで企業再生の面白さに目覚め、「これを一生の仕事にしたい」と強く思うようになったのです。
独立の動機は「必然」と「偶然」が重なった結果です。「必然」とは、どうせやるなら雇われの身ではなく、投資の意思決定から経営まで、すべてを自分でコントロールしたいという強い思いです。独立の機会を探していたところに「偶然」が訪れます。それが、親会社が倒産したことで売りに出されていた、この「ブリーズベイホテル」との出会いでした。財務情報を見て再生を確信すると同時に、プレイヤーが分散するホテル業界はM&Aを積み重ねていく「ビルドアップ」戦略に最適だと判断しました。この案件こそが自分のやりたいことを実現できる舞台だと感じ、ファンドを飛び出して1カ月後には買収を完了させました。
―最初のホテル再生は「大失敗」だったと伺いました。
なにせホテルのことは何も分かりませんでしたから、論理的に考えられるありとあらゆる施策を試していきました。しかし、経験がないため優先順位が分からず、手当たり次第に手を出した結果、かなりの部分が失敗に終わりました。すでに疲弊していた組織に、私が落下傘で降りてきて次々と指示を出すものですから、現場はついてこられず、社員はどんどん辞めていきました。2004年7月に買収したのですが、その年の大晦日に社員名簿を見て背筋が凍りました。なんと、従業員の3分の2が入れ替わっていたのです。収益も上がらず、まさに失敗からのスタートでした。
しかし、半年ほど経った頃に大きな気づきがありました。2004年当時、楽天やじゃらんといったネット予約はまだ主流ではありませんでした。転機は、フロントから「クリスマスイブと大晦日の予約が3カ月も前に満室になりました」と喜びの報告を受けた時です。「はっ?」と思わず声が出るほど驚きました。早期に満室になるのは料金が安すぎる証拠だと考え、価格設定を全て私が担当することにしました。
数字という結果が出ると、従業員の私に対する態度も一変しました。「この人についていけば勝てる」と。そこから初めて、私の言うことを皆が真剣に聞いてくれるようになり、様々な施策がうまく回り始めました。
「収益改善幅」がすべて。BBH流、案件選定の哲学
―150軒ものM&Aを成功させてきましたが、どのような基準で案件を選定しているのですか?
検討の尺度は非常に広く、特定の規模やエリア、業態で絞ることは基本的にありません。判断基準はただ一つ、「私たちが改善に取り組むことで、どれだけ収益の改善幅を見込めるか」です。この一点に尽きます。そこがしっかりと見込めるのであれば、エリアがどこであれ、規模が大きくなくても取り組んできました。カルチャーフィットのような定性的なものは、基準にしていません。
―業態によって再生のアプローチは変わるのでしょうか。
収益アップの要素は「売上アップ」と「コスト適正化」ですが、業態によってその比重は異なります。
再生期間3カ月の衝撃。「高速PMI」とシナジー創出の仕組み
―買収後、具体的に何から手をつけるのですか? 3カ月で再生を完了させる秘訣を教えてください。
私たちが取り組むことは決まっています。「価値の作り込み」と「インターネットでのコミュニケーション」を、買収初日から一気に実行します。 「価値の作り込み」とは、例えば無料のマッサージチェアの設置や、ウェルカムドリンクでのアルコール提供など、私たちが持つ50から100の施策パッケージを投入することです。そして、その価値を最大化するために「インターネットでのコミュニケーション」を専門チームが作り替えます。 ビジネスホテルであれば、1カ月目から変化が見えなければおかしいですし、3カ月で再生が完了していなければ、そのやり方はうまくいっていないと判断します。やるべきことが決まっているからこそ、このスピード感が実現できるのです。
―グループ化によって生まれるシナジーについて、もう少し詳しくお聞かせください。
人材面でのシナジーは大きいですね。今、ホテル業界は深刻な人手不足ですが、グループ化しているとその影響を最小限に抑えられます。例えば、4人でフロントを回しているホテルで1人辞めると25%の戦力が失われますが、私たちのグループでは近隣ホテルと連携することで、そのダメージを10%に抑え、残りの9人で乗り切れます。
また、売上を上げるための専門人材の活用も大きなシナジーです。本部には、365日インターネット販売だけを専門にやる3人ほどのチームがいます。彼らのスキルは常に研ぎ澄まされており、新しいホテルが加わると、その専門チームが一気に販売戦略を作り替えます。個々のホテルがそれぞれ専門人材を抱えるのは非効率ですが、グループでシェアすることで、全ホテルの収益を底上げできるのです。
赤字の高級旅館を「人気旅館」に蘇らせた再生術
―特に印象的だったM&Aとして、赤字の高級旅館「永芳閣」を再生された事例をお聞かせください。
永芳閣は、私たちが手掛けた中でも最も高級な旅館でした。売上は年間6億円ほどありましたが、それ以上にコストがかさみ、数年連続で数千万円の赤字でした。創業家の社長がご病気に見舞われ、「このままでは旅館を残せない」と後継者を探していらっしゃいました。
分析の結果、収益改善の鍵はコスト、特に人件費にあると判断しました。そこで私たちは「手間を減らし、その分、お客様がもっと喜ぶ価値を提供する」という方針を立てました。
このように、手間は省きますが、別の形でお客様の価値を大きく向上させる。私たちはコストが下がり、お客様は満足度が上がるという「ウィンウィン」の関係を様々な場面で作り上げていきました。その結果、赤字だった旅館は息を吹き返し、今ではグループ内で屈指の収益性を誇る施設になっています。
―劇的なV字回復ですが、成功の「本当の鍵」は何だったのでしょう?
この改革の成否は、「高級旅館のお客様がどこまでの手間削減を許容し、何をすれば喜んでくれるか」という線引きを正確に見極められるかにかかっていました。そこで、創業家で社長の妹さんだった方に「女将」として、その娘さんには「若女将」として残っていただき、改革の一つひとつを、このお二人と喧々諤々の議論を重ねて決めました。お客様の心を深く理解しているお二人が納得したものだけを導入したことが、成功の最大の要因だと考えています。
「規模は力」―M&Aこそがホテル業界の生きる道
―最後に、後継者問題や経営に悩む全国のホテル経営者へ、メッセージをお願いします。
現在のホテル業界は活況に見えますが、これがいつまでも続くとは限りません。新築の巨大チェーンが今後も店舗を拡大していく中、個々のホテルが単独で生き残るのは非常に厳しくなるでしょう。
その中で生き残るための最も有力な道は、M&Aを通じて「規模」を作ることだと確信しています。規模は力です。購買力、人材の融通、システム投資、そしてブランド力。あらゆる面でスケールメリットが働きます。
私たちのグループは、こういった考え方に共感していただけるオーナー様のお力をお借りしながら、規模を力に変え、業界での存在感を高めていきたいと考えています。もし後継者不在や経営改善にお悩みでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談いただければ幸いです。価値ある事業を未来に繋ぐため、共に歩む道を探していきましょう。
より詳しい内容は津田氏とのインタビュー動画をご覧ください。
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