お笑いコンビ「さらば青春の光」のYouTubeチャンネルや、人気バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』に出演し、その独特な風貌と言動で、一躍お茶の間の人気者となった、ひょうろくさん。彼は一体何者なのか? 昨今の爆発的ブレイクの裏側とは? 謎に包まれたひょうろくという人間を徹底解剖する。(前後編の前編)
水ダウで大人気の“ひょうろく”って誰?
ツルツルのスキンヘッドと、眉尻が大きく下がった困り顔が特徴的な「ひょうろく」。
いつも控えめで、どこか頼りない雰囲気を醸しているが、時に予測不可能な言動で周囲を驚かせ、爆発的な笑いを生む。
令和のバラエティシーンに彗星のごとく現れた彼は一体何者なのか。
「お笑い芸人に誘われた理由は、わっ……かんないですね……。周りにはもっとおもしろい友達がいたので『なんで僕?』っていうのはありました」(ひょうろく、以下同)
20代前半の頃は、建築関係の会社で設計と営業を担当していた、ひょうろくは現在、37歳。
ごく普通のサラリーマンだった彼にお笑いの世界へ入るきっかけをくれたのは、元相方の高校の同級生だった。
「もともとお笑いは好きだったんですけど、特別、なんかこう、お笑い芸人になりたいとかって感じではなかったです。それでもなんか、誘ってくれたから、やってみるかぁと思って」
半ば勢いでお笑い芸人デビューを決意し、同級生とともに「ジュウジマル」というコンビを結成したが、当時からフリートークは苦手だったようで。
「ネタは台本があるから喋れるんですけど、ライブのエンディングになると前に出られなくて、一言も喋らないっていう……。でも、当時は一生懸命というか、お笑い芸人なんだから、明るく、明るく、明るくって振る舞っていました」
ジュウジマルは、2019年のM-1グランプリで三回戦まで駒を進めた実績を持つ。徐々に頭角を現しつつあった二人だが、2020年にコンビは解散。
不運なことにその前後で原因不明の病気にもかかり、緊急入院を経験した。
「肝臓の値が、なんか、普通の人の10倍以上になってしまって……。あ、お酒はぜんぜん飲まないんですけど、どこかの傷口からばい菌が入ってしまったみたいで、身体が動かなくなり。今後のことを何も考えていなかったので、ちょっと人生やばいなと。30代でこれはもう、けっこう詰んでるなぁって……」
「大人のすることじゃない」と叱られるも…
そんな彼の転機となったのが、お笑いコンビ「さらば青春の光」との出会いだった。
「テレビをザッピングしていて、出ていたらつい見ちゃうのが、さらばのお二人でした。実は以前も一度、コンビのネタを見てもらおうと、森東(さらば青春の光が所属する芸能事務所)にアポを取らず行ったことがあるのですが、スタッフさんに『大人のすることじゃない』と帰されてしまい……」
しかし、ひょうろくは意外と打たれ強い。
門前払いをされてから数か月後、さらば青春の光が「30分以内に事務所に来た芸人にギャラ1万円をプレゼントする」というYouTube企画を実施。
これを目にした彼は、終了時間から20分もオーバーしていたにも関わらず、堂々と事務所のインターホンを鳴らしたのだ。
「あのときは、とにかく、さらばのお二人に会えると思って……で、あわよくばお金ももらえると……。指定された時間にはもう間に合わないだろうなと思ってはいたのですが、最悪(さらば青春の光に)会えればいっかなぁって……」
ナゾの度胸を携えた突撃動画はジワジワと再生数を伸ばし、2024年10月時点で125万回再生を突破。これをきっかけに、それまでほぼ無名だったひょうろくが、さらば青春の光のYouTubeチャンネルではお馴染みになった。
「いまの活動は、ほとんど森東のまわりのいろんな方々に作ってもらったようなものなので……。森東は、本当にエネルギッシュでポジティブな方たちばかりで、そこに巻き込んでいただいたおかげで、僕もプラスの力をいただいているというか。
僕を呼んでも、なにかメリットがあるわけでもないのに、僕があまりにも悲惨すぎたので、皆さんが助けてくれたんだと思います」
YouTubeで強烈な爪痕を残したのち、人気バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』にも出演。
特に話題を呼んだのが、ひょうろくの3週連続ドッキリ企画だ。あれだけドッキリを仕掛けられたら、さすがに疑り深くなってしまいそうなものだが。
「いやぁ……終わったあとは、もう騙されないぞと思うのですが、すぐに忘れてしまって、それで毎回『またか……』と。特に『水曜日のダウンタウン』はものすごく凝られていて、皆さんプロフェッショナルなので……。
内臓を運ぶドッキリがあったんですけど、あの、内臓(本当は焼肉用の豚ハツ)を運ぶとき、クーラーボックスに氷が満タンに入ってて、めちゃくちゃ重たくて。ドッキリなんだったらもっと氷少なくていいんじゃないかなって、あとから思ったんですけど……。それだけ手が込んでるというか、すごいなぁと思います」
ブレイクしたのに、リアルでは職質を受けまくる
一方で、ドッキリの“仕掛け人”としての演技力にも定評があり、最近はドラマ出演も果たし、ファンからは俳優としての活躍も期待されている。
しかし、本人はドラマの現場でかなり苦戦したようで。
「ドラマの台詞を、どんなふうに言えばいいのかがわからなくて。でも、自分は一言しかない役が多いので、その分際で監督さんに『ここどういう感じで演じればいいですかね』と聞くのはちょっと恥ずかしいなって……。
だから、結局なにもわからないまま一瞬で出番が終わって、毎回『大丈夫だったかなぁ』と思いながら帰ります」
あれよあれよという間にお茶の間の人気者となったが、自身のブレイクについては「まったく実感が湧かない」という。
当然、街中で声をかけられる機会も増えたが、その対応にはいまいち自信が持てない様子。
「単純に人見知りなので、声をかけていただくと、ちょっとこう、ドキッとします。声をかけてくださる方も気を使っていただいているので、嫌な思いはぜんぜんしないんですけど、なんかそっけなくなっちゃったりしていないか心配で……。自分も誰かに話しかけたとき、冷たくされたらちょっとショックですし」
そのため、外出時の対策として、トレードマークのスキンヘッドはなるべく隠すようにしているそうなのだが……。
「ジャンパーのフードを被って、マスクをしています。でも、これをやりはじめてから警察に声をかけられる回数が増えまして……。1か月の間で7~8回は職質を受けていると思います」
とにかく、ありのままの人間性がおもしろすぎるひょうろく。現在の肩書きは、お笑い芸人でも、タレントでもない。“ひょうろく”という唯一無二のジャンルを確立しつつある。
「僕も、自分自身が、なんなんだろうなと思っています……。でも、自分は何かに秀でているわけではないので、いろんな人に『こういうのどうですか?』と誘っていただいたお仕事を、本当に全部頑張りたいです」
後編では彼の知られざるプライベートに迫る。
取材・文/渡辺ありさ 撮影/恵原祐二