「誰?あんた」1ヵ月で教師の心を折った小学2年生の暴言―ある公立小で起きた授業が成り立たないほどの学級崩壊
「誰?あんた」1ヵ月で教師の心を折った小学2年生の暴言―ある公立小で起きた授業が成り立たないほどの学級崩壊

関西のある公立小学校で、2年生のクラスが深刻な学級崩壊に陥っていた。授業中に動画を見る子、教室を飛び出す子、暴言や暴力にさらされる教師。

保護者が廊下で見守らざるを得ない異様な現場では、いったい何が起きていたのか。子どもたちの“荒れ”の背景、学校現場が抱える根本問題を追う。
 

新刊『足型をはめられた子どもたち』より一部抜粋・再構成してお届けする。

小学校2年生の教室がなぜ、崩壊?

関西圏のある公立小学校でのことです。ここでは「2年生が荒れている」という実態を目にしました。やはり授業をしてみると、学級崩壊しているクラスに共通するコミュニケーション不足の実態がありました。

大都市にあるそのエリアは、けっして土地柄としては荒れている場所ではありません。しかし、学校自体は「2年生の様子が市内で噂になる」「暴言、暴力がはびこって授業が成立しない」「学級崩壊がかなり厳しい状況」なのだと聞きました。

事前に事情を聞く機会があるなかで「各学年が単学級(一学年一クラス)であることも、荒れている原因」という話でした。「幼稚園のころからの持ち上がりの子どもたちも多く、そのころから暴れる子がいた」といいます。想像したのは、クラス替えがないがためにいい意味での緊張感やフレッシュさがなくなっているのだろうということです。

実際に学校の中に足を踏み入れた第一印象は「普通」でした。中学校、高校だと一瞥しただけでその学校が荒れているかどうかがわかりますが、小学校はわかりにくいものです。

その学校は校庭も綺麗で、花壇もコツコツ手入れされている感じがしました。

そんなことを感じつつ学校の中に入っていき、ふだんの様子を見てみようと、私が行う飛び込み授業の前の時間の2年生のクラスを廊下側の窓から眺めていました。

算数の授業でした。4月に赴任してきて学級担任になった30代の元気そうな女性の先生に加え、女性の校長先生、他の数名の先生が教室にいました。

こんな様子が目に飛び込んできました。

野球帽を被ったふたりの男の子が黒板前の先生の机に座っています。

授業の内容はまったく聞かず、卓上の先生のノートパソコンをずっと見ています。何をしているのか?私は黙って教室の後方からその様子を眺めました。

ふたりは、ネットで野球の動画を見ていたのです。

阪神タイガースの動画のようでした。なぜ私が教室の後方からそれがわかったかと言うと、音量が大きかったからです。

女性の校長先生は彼らに話しかけていました。


「教室にいるんだったら、パソコン見ていいよ」

「でもボリュームは0から20のあいだにしなさい」

「他の人に迷惑だから」

要は教室内にいて、騒ぎさえしなければいいということです。その子たちは、もともと暴言を吐きまくり、ときどきクラスメイトに対して手も出ていたと聞きました。

その教室は、27人クラスでしたが、10人分の席が空いていました。欠席の子もいたのでしょうが、学校に来ている子に関しては、廊下でサッカーをしたり、運動場で遊んだりしているのです。

授業が成り立たない--小2教室を襲った学級崩壊の現実

教室外にいる子が、授業補助に来ている校長先生らに連れ戻されます。ひとりが戻ってくると、他の仲間の子が「どこ行ってたん?」と会話が始まり暴れ出します。群れているのです。その子たち同士での仲間意識があって、教室が悪い方向に向かう。手がつけられない状況でした。

騒がしいなか、机に座っている子どもたちはワークシートという穴埋め問題のプリントを黙々と解いていました。

一定の時間が過ぎると無機質なタイマー音が教室に響きます。

教室では、校長先生と授業を受けなかったり、妨害したりする男の子たちとのやりとりが続いています。

「いま、そういうことをするときじゃないでしょ!」

などと校長先生が叫ぶ声。

また、先生の机で野球の動画を見ている子どもたちに対して、幾度も注意していました。

「それ音量100くらいでしょ?下げなさい」

日本では、2018年に文部科学省が教育のICT(情報通信技術)化に向けた環境整備5か年計画を策定し、子どもたちにノートパソコンやタブレットを持たせていますが、ここで目にしたのはそれがおもちゃ化した実態でした。

パソコンの音量を下げる、下げないのやりとりがエスカレートしたとき、その子が校長先生の髪を引っ張ろうとしました。

私は「参観者」の立場を超え、思わず子どもに声をかけました。

「君、それは……」

するとその子はさーっと逃げていきました。

このとき、彼が私のことを睨みつけてきたのですが、その表情はとても小学校2年生とは思えないものでした。パッと見て肌の色から、ご両親のいずれかが外国の方のようにも見えました。いまの学校では当たり前のことです。多様な子どもたちが学び合う場こそが、公立小学校ですから。

その授業は終了のチャイムが鳴ったあと、5分間延びました。子どもたちはもう、チャイムが鳴る前にボールを持って運動場に出ようとします。そして先生に「5分延びたのだから、休み時間も5分延ばして」と要求していました。


一方、この野球帽の男の子たちに対して学校側がやっている対応は、放課後に「たとえ6時間外に出ていても、その日の簡単なプリントの問題を解けばいい」というものでした。彼らは10分で問題を解き終えることもあったようです。算数の引き算の時間に外に出たのなら、その分だけ「ひとり課外」が実行されているといいます。これは、根本的なものごとの解決にはつながらない、対症療法のように見えました。

廊下で見守っていたおばあちゃん

廊下には杖をついたおばあちゃんの姿がありました。何をしているのか。孫娘が教室で怪我をするかもしれないから、見守りに来ていると言うのです。なかには弁当まで持って一日中教室を見張っているという保護者もいるそうです。

横の教室は1年生が使っていました。廊下にはついたてがあり、こう記されています。「ここから先は2年生のゾーン」。つまり、危険だからトラブルを避けるために入れないようにしているのです。

一方、トイレの出入り口は「常に開けておくこと」になっています。

なぜならそこで子どもたちがたむろして、突発的な事故が起きる可能性が高いとの判断からでした。個室はもちろん開けっ放しとはいきませんが、少なくともトイレの様子は廊下からもわかるようにしておく、ということでした。

次の時間、私はその教室で飛び込み授業をやりました。まず、最初に発した言葉はこれでした。

「チョーク貸してください」

黒板の下のチョーク入れに置いてなかったのです。子どもたちが先生に向けて投げる凶器になるからです。黒板消しもありません。同じ理由です。先生が自分で持っておくようになっているというのです。

1ヵ月で教師の心を折った2年生の暴言

そんな教室の光景は、最初は「今風の学級崩壊」にも見えましたが、じっくり眺めていくと「昔風の崩壊」でした。一見、「対先生」という軸がなく、ただ好き勝手にやりたい子どもが暴れている「今風」と思われましたが、じつはベクトルは先生に向けられていました。先生が子どもたちから追い詰められているのを私が知ったのは訪問する直前でした。もともとは先生がターゲットになっていたのです。



この学校への訪問は、以前から知っていた男性の先生に招いていただいてのことでした。その年の3月末、依頼の主旨はこういった内容でした。

「学級崩壊で知られるこの学校に赴任することになった」

「新2年生の学年になる子たちがなかなか厳しい」

「教室での暴言、陰口が続いている」

4月が近づき、その先生が「教務主任になった」と聞きました。校長や教頭と同じくクラスを担任せず、全体のケアをしていく役割です。実力があるからこそ、管理職に近い役割を任されるようになったのです。

もともと、その先生の専門は「学級運営」でした。大都市では教科領域別に研究会があって、先生たちがそこに属します。その領域ではエースと見なされている先生でした。実際に授業を見たこともありますが、はきはきしていて非常にいい印象でした。

しかし、5月にはもうその先生は学校にいませんでした。1ヵ月ほどしか耐えられず、精神的に追い詰められて休職していたのです。教務主任として、時折このクラスにも道徳を教えに行ったそうですが、かなりの暴言を吐かれたと。

「誰?あんた」

「うるさいねん」

そのまま7月に辞職してしまいました。いまは他市で臨時講師として働いていて、元気になっているそうです。

飛び込み授業に行くと、その後はたいがい学校側と研修会やセミナーなどがセッティングされています。

私はその日だけは「呼ばれた立場で言うのはいかがなものかと思いますけど、だから、こっち向いて言いますと」くるっと壁のほうを向いて、こう話しました。

「これはね、学年を2クラスに分けたほうがいいですね。単学級をやめたほうがいい。2年1組と2組に分けるのです。学年の途中であっても。でないと、この担任の先生は潰れますよ。いますでにひとり潰れているじゃないですか。このままだと高学年ではもっと大変になります。学校自体が崩壊してしまいかねません。今だったらまだ間に合うと思います」

それから1週間後にこの学年は2クラスに分かれたそうです。年度の途中にクラス替えがあるというのは異例なことですが、学校側は私の「アイデア」を実行されたのです。

一方、この日、口にしなかったことがあります。そもそもいまの授業の進め方がよくない、ということです。ただ受け身の授業で、面白くないから、じっとしていられないのだろうと。私が飛び込み授業で子どもたち同士のコミュニケーションを仕向けても、とても考えを話し合うというような状況ではなかったのです。

文/菊池省三 写真/PhotoAC

『足型をはめられた子どもたち』(講談社)

菊池省三
「誰?あんた」1ヵ月で教師の心を折った小学2年生の暴言―ある公立小で起きた授業が成り立たないほどの学級崩壊
『足型をはめられた子どもたち』(講談社)
2026/4/91,210円(税込)240ページISBN: 978-4065404720

【大事に育ててきたわが子がなぜ? どうして子どもが小学校で壊れていくの? 子どもはどうすれば成長するの? その疑問への回答と解決策!】

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」、日本テレビ系列「世界一受けたい授業」などで、崩壊した教室を立て直す授業が紹介され大反響を呼んだ、菊池省三先生のコミュニケーション教育。子どもの生きる力を伸ばすメソッドへの支持は拡がり、講演や研修会は年間250回に及んでいます。
現役を引退し、教師の指導者として全国の小学校に招かれ、10年のあいだに行った飛び込み授業(示範授業)は3000時間超。各地の教室をもっともよく知る教育者です。
そこで出合ったのが「机の下の足型」に代表される子どもを「型にはめる教育」。
今子どもたちの現状は、不登校が44人に1人、暴力行為やいじめも過去最多。一方の教師も、精神疾患で休職する人数が過去最多を更新し、なり手不足が進んでいます。

子どもの98%が通う公立小学校で、学習意欲を上げさせたり、事態を改善させたりするために対症療法として行ってしまいがちな「型にはめる」教育が、悪いサイクルとなっています。

本書では、公立小学校の現状を知っていただき、その解決策として荒れた子どもたちを変えてきた菊池先生のコミュニケーション教育を紹介。たとえば学習意欲は、型にはめなくても、子どもの内面が成長すれば増すことがよくわかります。
保護者のみなさんにとっても、子育てについての認識が180度変わる「ほめ方」や「叱り方」「語彙の増やし方」「考える力のつけ方」など、子どもを社会に送り出すために、家庭でできる実践法をお伝えします。

第1章 足型をはめられた子どもたち――学校における教育虐待
第2章 なぜ、コミュニケーション教育で子どもは成長するのか
第3章 今風と昔風の学級崩壊――立て直し請負人による飛び込み授業
第4章 コミュニケーション科の学びとは? その効果とは?
第5章 堀之内くんと学級の2年間――集団の中で個を育てる
第6章 家庭でもできる菊池式実践法――子どもを「眺める」から始める

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