古希を過ぎた今もなお「モテたい」と言い、自らを「スケベ野郎」と呼ぶ古舘伊知郎。そんな古舘が、相談者のさまざまな悩みに向き合い続けた一冊『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』を上梓した。
達観した大御所のように振る舞うのではなく、欲や恥やコンプレックスを抱えたまま、それでも人前に立ち続ける。その姿はものすごく人間くさい。炎上するとわかっていても言いたい。上から目線で悟ったふりはしたくない。そんな古舘の“欲まみれ”な人生観について聞いた。〈前後編の前編〉
欲をむき出しにする人たちへの共感
──ご著書では、自身のさまざまな「欲」をあけすけに語られています。テレビの第一線で活躍し続け、YouTubeなどにもフィールドを広げた現在でもなお、欲がなくならない理由はなんでしょう。
古舘伊知郎(以下同) あさましい理由もあります。他人から「スケベじじいだ」と指摘されるより先に自白しまえば、多少は免罪されるのではないかと思っているんです。
それから、欲をむき出しにして生きる方が、自分のなかにある欲を隠して上から目線で評論する人たちよりもずっと正直でいいのではないかと、僕が思っていることもあります。
──最近では、YouTubeのキャバ嬢オーディション番組『LAST CALL』についての言及が印象的でした。整形してキャバ嬢として売れようとする女性に対して、古舘さんは好意的でしたね。
はい。
『LAST CALL』に出演するキャバ嬢の志願者たちは、自覚している容姿の弱点を整形で克服して、客からの指名をどんどん獲って売上を作る……いいじゃないですか。「世のため、人のため」みたいな嘘をのたまう一部の大資本家より、よほど気持ちがいいですよ。
「キャバ嬢として売れたい」という欲をむき出しにする人たちのほうが、ネット上で見て、それを叩くだけの人たちより正直だと感じます。
自分を偽装することで、最終的に本物になっていく
──書籍では、永六輔さんや立川談志さんをはじめ、テレビ朝日のアナウンサー時代にさまざまな世界にいる超一流の人たちと対峙してきた様子が描かれています。ひるまずに切り込むためのテクニックを教えてください。
僕なんか及ばない天才がそれぞれの世界にたくさんいるわけです。僕の人生を紀元前と紀元後に分けるとすると、紀元前は大学卒業までで、紀元後はテレビ朝日入社後だと思っています。
紀元前は、自分の欲を満たすものなんて何もないわけです。勉強もしっかりやってこなかったし、スポーツも奮わない、異性からモテない。けれども幸運にもアナウンサーになることができて、どうやらしゃべりだけは、わずかに才能の芽があるらしい。
そうした証明書のおかげで、隔絶した才能を持った人たちに、一対一で話を聞くことができるようになった感覚がある。
それでも本音では、負い目と引け目とコンプレックスが常にありました。何度も卑屈になります。でも、しゃべりにおいては、僕の土俵なんだと自分を奮い立たせて仕事をするんです。
その時々の内閣総理大臣に切り込まないといけないこともある。通常なら恐縮してしまいますよね。けれどもそんなとき、自分のなかの「なにくそ」という業を見つめながら自分を偽装することで、最終的に本物になっていくんだと思います。
──そうした緊張感のある現場で活躍するために、オンオフの緩急をどのように意識していましたか。特に、古舘さんと言えば立て板に水のようにしゃべり続けるイメージを持つ人も多いと思います。
しゃべりのなかにも緩急はありますよね。言葉を連ねることに真剣になりすぎると、今度は間を取れない。
私生活においては、たとえばお寺の中庭をぼーっと眺めていることによって精神を緩ませます。副交感神経が優位になる時間を作ることが、生き延びる本能なのかなと思ったりもしますね。今はストレス社会、情報化社会で、交感神経優位の時代になったなとは思います。
昔はおじいさんおばあさんがベンチに半日とか平気で座ってましたけど、今都会でそんなことをしたら、下手したら通報されてしまいますよ(笑)。カフェも回転率重視で、立ち止まることを許してくれない。都会は副交感神経優位をなかなか許してくれないなと感じます。
炎上するとわかっていても言いたい
──『報道ステーション』時代には、キャスターとして日々伝えなければならないニュースは、ほとんどが人の欲の成れの果てで、ネガティブな要素が強いですよね。精神的に食らってしまうことはありませんでしたか。
確かに、ニュースというのはほとんどが誰かの不幸を伝えるものです。みんな一緒に生きてきたはずなのに不幸な事件や事故によってその群れを離れなければならなかった人、あるいは命を落とさなくても、冤罪によって人生の大半が潰されてしまった人など、さまざまな人の姿を見てきました。
心がざわついたことは何度もあります。
ただ、番組のなかで僕が発した意見によって怒る人はいっぱいいました。そういう意味での食らうことはありました。
──たとえばどんなことで食らいましたか。
2012年に韓国の窃盗団によって、対馬(長崎県)の寺社から仏像と経典が盗み出される事件がありました。返還を求めても、当初は先方が応じない局面が続いた。そのニュースを伝えた時のことです。
僕が好きな仏教に関することなので、つい言ってしまったんですよ。「仏教ってのはそもそも生きる上で物質世界にとらわれている、その執着をダメだよっていう教えでもあるんですけどね」と。
さらにメディアが悪いのは、仏教の教えが書かれた経典よりも、商品価値のある仏像が盗まれたことを大きく取り上げていたんです。仏教の禅語には「本来無一物(ほんらいむいちもつ)」といって、あらゆる価値への執着を捨てるという大切な考え方があるのに、ですよ!
するとお寺からも怒られたし、視聴者からもかなり怒られました。
──当然、反発が予想される中で、言いたい欲が抑えられなかった。
突き詰めると、食らいたいから言ったのだと思います。言いたい欲、自分の考えをさらけ出したい欲に向き合ったのがキャスター時代だったのかもしれません。すべては因果応報で、行動の結果は返ってくるんです。たとえば、欲に負けて公園で性器を出して歩けば必ず捕まる(笑)。人間の世界とは、そういうものでしょう。
#2に続く
取材・文/黒島暁生 撮影/濱田紘輔
寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます
古舘伊知郎

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