今回の中朝首脳会談で北朝鮮の「非核化」は言及されなかったとの情報が広まる一方で、一部米中専門家の間で興味深い見方が取りざたされている。5月の米中首脳会談では米国の公式発表とは裏腹にトランプ大統領が非公式の場で北朝鮮を「核保有国」として容認するような発言した可能性があるというのだ。

伝統的友好関係を確認

習近平主席の北朝鮮訪問は7年ぶり、しかも今年初の外遊とあってメディアの注目を集めたのは当然だろう。加えて習主席が5月14-15日にトランプ米大統領、同19-20日にプーチン・ロシア大統領と会った直後だったことも注目度を一層増す格好となった。習主席と金総書記は首脳会談で両国の伝統的な友好関係を確認したほか、貿易や人的交流を活発化させることで一致したと伝えられる。

今年は「血の同盟」の象徴である中朝友好協力相互援助条約の締結から65年の節目に当たり、互いに連帯・協力を対外向けにアピールしたわけだ。中朝関係はウクライナへの侵攻を続けるロシアを北朝鮮が軍事支援したことから冷却化したとよくいわれるが、実はそれ以前からギクシャクした関係にあった。2017年に北朝鮮が中国の反対を押し切って核実験を実施したことが大きな原因だ。だが、昨年9月の金総書記の訪中をきっかけに修復と向かっており、今回の習主席の訪朝で関係改善が本格化したとみていいだろう。

双方にそれぞれの思惑

習主席の訪朝の理由は何か、そしてなぜこのタイミングだったのか。中国が今や世界の大国として新しい国際秩序構築に向け重要な役割を果たし、東アジアでも主導権を握っていることを世界に向け発信したいとの思惑が習主席の胸の内にあったことは想像に難くない。となれば、トランプ大統領やプーチン大統領との会談を行った直後という時機を捉え、早急に北朝鮮に自身の考えを伝えておくべきとの判断があったはずだ。また、多くのメディアが伝えているように、緊密化する北朝鮮とロシア関係がこれ以上進展するのに待ったをかけ、北朝鮮を中国側に引き戻す狙いがあったことも訪朝の理由の一つに違いない。

一方、北朝鮮はウクライナ戦争でロシアに派兵、武器・弾薬を供給したことで大きな経済的見返りを得ているもようだ。しかし、ウクライナ戦争が終結した場合、ロシアからの経済的見返りが期待できなくなることも想定し、中国との経済関係を強化しておきたいと考えたとしても不思議ではない。外交面で対中、対ロのバランスを取ろうとする意図も見え隠れする。

会談前、北朝鮮が中国をけん制か

最も注目された北朝鮮の「非核化」については中国側の発表でも北朝鮮の公式報道でも言及はない。今年5月の米中首脳会談では朝鮮半島問題に関し米国側発表では触れていたが、中国側発表には非核化の文言はなかった。このため習近平訪朝に先立ち、首脳会談で中国がこの問題でどんな姿勢を示すのか、「黙認」説などさまざまな憶測が飛び交った。

これに関し見逃せないのが、習主席訪朝の数日前に朝鮮中央通信が米中首脳会談で北朝鮮の非核化目標を確認したとの米国側の見解について総書記の妹、金与正・朝鮮労働党総務部長が「虚偽の情報」と主張、北朝鮮が核保有国であると強調したとの談話を伝えたことだ。北朝鮮は首脳会談で「非核化」の話には応じないと中国側をけん制していたことがうかがえる。「習主席は北朝鮮との関係改善を第一に考え、金総書記を刺激しないよう配慮したのでは」との中朝関係専門家の推測は妥当なところだろう。

北朝鮮の「核保有」容認か、トランプ大統領が本音?

さらに興味深い見方が一部米中専門家の間で取りざたされている。5月の米中首脳会談では米国の公式発表とは裏腹にトランプ大統領が非公式の場で北朝鮮を「核保有国」として容認するような発言をした可能性があるというのだ。この話は根拠なしと簡単には片付けられない。トランプ大統領は昨年1月、政権2期目の発足直後から北朝鮮が核保有国であることを認める発言を数回行っている。これらの発言は米メディア間でも物議を醸した。

ただ、米国務省筋は「トランプ氏が『核保有国』との用語が持つ外交的な意味を認識して発言したわけでなく、単純に北朝鮮が核兵器を所有していると言いたかっただけで、北朝鮮の核保有を認めるということではない」といった弁明をしたといわれる。トランプ大統領も昨年10月の高市首相との日米首脳会談で「北朝鮮の完全な非核化」に向けた確固たるコミットメントを確認した。

だが、米政府の公式見解とトランプ大統領の個人的考えにズレがあることはこれまでも指摘されている。

トランプ大統領が本音では北朝鮮の核保有を認め、何らかのディールを考えているのではないかとの憶測は消えない。もしも、習主席が今回、金総書記にトランプ大統領の本音を伝えていたとしたら、今後の東アジア情勢に重大な影響が出ることも予想せねばならないだろう。

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