私が長年住む街は、ウナギの料理店が多いことで知られている。街の観光スポット周辺には創業100年ぐらいのお店も数店あり、週末は客が店先で列をなしているのが常態だ。
かつては日本人にとってウナギは、季節の風物詩であり、特別な日のごちそうでもあった。夏になると「そろそろウナギの季節だ」と感じる人は多いだろうし、家族で食卓を囲んでうな重を味わった記憶を持つ人も多いだろう。
こうした身近な感覚は、単なる嗜好(しこう)の問題を超えて、長い歴史の中で育まれてきた文化的背景に支えられてきた。
日本人とウナギの関係は古代にまでさかのぼる。縄文時代の遺跡からウナギの骨が出土していることは、当時の人がすでにウナギを重要なタンパク源として利用していたことを示す。奈良時代の『万葉集』にも「武奈伎(むなぎ)」の記述があり、夏の暑気払いとして食されていたようだ。平安期には貴族の日記にウナギを食した記録が残り、滋養強壮の食材として認識されていた。
こうした古代からの食経験が蓄積され、江戸時代に入るとウナギ文化は大きく発展する。江戸の町には蒲焼き屋が多数出店し、甘辛いタレをまとわせた蒲焼きは庶民のぜいたくとして人気を博した。「土用の丑(うし)の日」にウナギを食べる習慣が広まったのもこの頃であり、平賀源内が商人の依頼で考案したという逸話はよく知られている。明治以降は養殖技術の発展により供給が安定し、ウナギは全国的に普及した。
日本人がウナギを好む理由として、日本独自の調理技法と味覚文化が挙げられるという。
一方、アジア諸国や欧米では、日本ほどウナギが文化として定着していない。中国ではウナギを食べる地域もあるが、国内消費は限定的で、むしろ日本向け輸出が中心だ。台湾は世界有数の養殖大国であるにもかかわらず、国内での消費量は多くなく、これまた日本市場が最大の輸出先だ。韓国では、コチュジャンを使った焼きウナギが存在するものの、国民的料理とは言い難いという。
欧州ではどうか。イギリスの伝統料理の「ジェリード・イール(ウナギの煮こごり)」が知られるが、現代ではほとんど食べられていない。スペインやイタリアではクリスマスに稚魚(シラスウナギ)を食べる文化があるが、量は少なく、資源枯渇の影響で高級食材となっている。アメリカではウナギは一般的な食材ではなく、寿司店でうなぎロールが提供される程度。こうした国際比較から、日本のウナギ文化は世界的にも特異だ。
ウナギの4~6割が日本人の胃袋に、広がる食文化
最新の調査では、世界のウナギ消費量のうち東アジアが64~85%を占め、中でも世界最大のウナギ消費国である日本が、40~60%程度と圧倒的に多い。
しかし、この食文化を支える資源は危機的状況にある。ニホンウナギは2014年に絶滅危惧種に指定され、シラスウナギの漁獲量は1960年代の年間200トン前後から、近年では激減し5~10トン台へと落ち込んだ。乱獲、河川環境の悪化、海流変動などが影響している。
アジア各国では乱獲や密輸が問題となっており、国際的な資源管理が不可欠と指摘されている。日本国内では、河川環境の改善、産卵回帰のための生息環境整備、密漁防止のためのトレーサビリティ(追跡可能性)の強化などが進められている。また、完全養殖の技術はすでに成功しているものの、コストや生産量の課題から実用化には時間を要し、ウナギ文化を未来につなぐためには、科学技術と環境政策の両面からの取り組みが求められる。
一方、ウナギの食文化の展開はどうだろうか。従来の蒲焼きに加え、低温オイルで煮るコンフィ、燻製、カルパッチョ、パスタへの応用など、洋食との融合が進む。和食でも白焼きにわさびと塩を合わせる食べ方や、ウナギのしゃぶしゃぶ、だし茶漬けなど新しい食文化が広がっている。スーパーでも押し寿司や惣菜としての肝焼きや骨せんべいが並び、ウナギは多様な形で日常生活に浸透している。
日本人とウナギの関係は、古代から続く歴史、独自の味覚文化、季節行事などが重層的に絡み合った文化現象であり、世界的にも特異だ。











