大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第19回「愛加那」5月20日(日)放送  演出:盆子原誠
二階堂ふみ劇場「西郷どん」19話。昭和の清純派女優のような場面も
「西郷どん」後編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版
ガイドムックも2冊目が発売された 

気丈な中にふと溢れる弱さ


安政6年。吉之助が奄美大島に来てから数ヶ月。
19話では、とぅま(二階堂ふみ)と結婚するまでが描かれる。

19話は二階堂ふみの表情に尽きた。
彼女の表情がまさに万華鏡のようにくるくると変わり、見る者の感情を動かしていく。

吉之助(菊池と偽名を使っている)はだいぶ元気になって、農作業をやったり薩摩から届いた米をこどもに食べさせたりしている。
子どもには習字を教え、字をひとつ覚えるごとに暮らしを変えていくという希望を語る。
木の車輪ではなく鉄の車輪にしたら作業も捗るなどと提案もするが、やがて彼がこの島を去ったあとのことを考えて、残る者たちに「夢を見せるのはやめてください」と頼む龍左民(柄本明)。

一方、とぅま(二階堂ふみ)は、海の向こうから「夫」と「災い」がくるとユタ(秋山菜津子)の暗示にハマってすっかり吉之助のことが気になっている。
とぅまは薩摩から手紙が来ると辛くなって暴れることを心配して手紙を奪おうとするところはなんとも素朴。女子ぽいといえば女子ぽい。

「民ってヤマトンチュの人たちだけ」と相変わらず言うとぅま。
菊池(吉之助)はいつか薩摩に帰る人だと思って寂しくなるとぅま。
このあたりの二階堂ふみの演技は、気丈な少女がふと弱さを見せる、そのほころぶ瞬間にぐっとくる。

二階堂ふみ、大暴れ


あるとき、隣村のひとが砂糖を隠した罪で代官・田中(近藤芳正)に捕まる。
年貢を厳しく取り立てるために、罪をなすりつけて見せしめにしているのだ。

とぅまの家も濡れ衣を着せられる。

佐民と富堅(高橋努)が捕まったことを報告に来る木場(谷田歩)。正助(瑛太)に頼まれて吉之助を見守っていることを明かす。西郷吉之助の使命のためにも島人に深入りするなと忠告されるが、とぅまが仲間を引き連れて代官所破りをしようとするのを見逃せない。

とぅまは止めるのも聞かずに暴れまわる。
田中はとぅまにアンゴにならないかと迫る。

二階堂ふみのぎらぎらした生命力に満ちた瞳と躍動するカラダに目が離せない。闘う少女戦士という感じで、主役のようだった。

アンゴにしてください


吉之助の奮闘により、無事、佐民は助け出される。
怒りに燃える田中にも木場から正助の書状が手渡され、菊池が西郷吉之助とわかり手出しできなくなる。

すっかり吉之助に心を奪われるとぅま。
髪をおろして海を見ながら、未来を想像する姿はすこし大人になっている、
彼の妻になるが、やがてひとりになることまで予見するとぅま。

思い余って「アンゴにしてください」と吉之助の元に夜やってくる。
着物を脱いで「私を見て」と迫る(ちょっと「潮騒」ぽい。要するに、吉永小百合、山口百恵を彷彿とさせる清純女優ふう)。
吉之助は着物を着せて正式に妻になってくれと誠実さを見せる。
こうして祝言を行ったふたり。楽しく踊る。

結婚すると名前が変わるのが、この島の風習。吉之助も本名を明かす。

吉之助に「愛加那」と名付けてもらい、ものすごーく喜ぶ二階堂ふみの満面の笑顔が真に迫っている。
あんなに強気だったのに、すっかり殊勝な感じになっているところも、女は尊敬する人に出会うと変わるんだあと思わせる。

二階堂ふみの何が凄いって、アーティスティックな作品にもたくさん出ていて、自分の考えもしっかり持っていそうにもかかわらず、あまり出しゃばらず、相手役を立てるときはとことん立てているところだ。いわゆる“俳優部”感覚。
撮影部、照明部・・・などと同じで、俳優だから主演だから特別だと思っていない。あくまでひとつの作品をつくるメンバーのひとりという意識で、求められる役割を徹底して極めているように感じる。


ところで。林真理子の原作によると彼女は島の女には珍しく、家の事情で23歳まで独身だったと記されている。原作にはまた、吉之助がなぜ彼女に惹かれたかその理由が書かれていて、二階堂ふみがキャスティングされた理由はそこか、と大河ドラマファンだったら勝手に深読みして楽しめる。
(木俣冬)

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