『コンとアンジ』(筑摩書房)著者:井鯉 こまAmazon |honto |その他の書店

◆誘い込まれる独特の語り
こちらあみ子』や『さようなら、オレンジ』といった話題作を、太宰治賞は送り出してきた。新しい、第30回太宰治賞の本作も、そうした系譜に属するように思う。

いわゆる「現代日本文学」とはあまり関係なさそうな文体と内容だ。

18歳の娘コンが主人公。異国で洗濯女に騙(だま)され、無一文になる。何とか窮地を脱すべく辿(たど)りついたのが、外国人居留区の「マソン商会」という貿易会社だった。

通じない意志。カタコトの言語によるコミュニケーション。会社のオーナーのマソンがコンのことを「小僧」と勘違いしたことから、主人公は性と年齢を偽って生活する。そのうち先輩の「アンジ」と仲良くなって……妊娠、と話は続いていく。

何より文体がいい。

冒頭はこうだ。

“おっぱいは、意のまま。出ろ出ろ、と胸中心底念ずれば出る出ると聞いて。


句読点を多用した独特の語りに誘い込まれるように読む。

コンとアンジはどこへたどり着いたのか。彼らの未来は? 何も明かされないが、その不確かさの中にこの小説の美質があるように思った。気になる才能がまた一つ。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2014年11月26日

【書誌情報】
コンとアンジ著者:井鯉 こま
出版社:筑摩書房
装丁:単行本(169ページ)
発売日:2014-11-10
ISBN-10:4480804536
ISBN-13:978-4480804532
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