昨今被害が拡大している「偽メール」があまりにも精巧すぎることから、今回は注意喚起を促す意味で「特殊詐欺」関連について述べてみます。偽メールに関しては、恥ずかしながら筆者も騙されかねない状況だったことを付け加えておきましょう。

 コロナ禍では、給付金詐欺や押し込み強盗など特殊詐欺(一括りにするのはやや強引ですが、お許しを)まがいのことが頻繁に発生しているようです。特殊詐欺はこれまでも発生していたのですが、新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言の発令・解除が行われて以降、急増していると感じるのは筆者だけではないはずです。

 ひとついえるのは、家計が保有する現金・預金が急増していることもその背景と考えられます。日本銀行が四半期ごとに公表している「資金循環統計」によれば、2020年6月末現在で家計が保有する現金・預金は、速報値ベースで1036兆円もあります。過去最高額を更新しているうえ、対前年比ベースでは現行の統計になった2005年以来もっとも増加率が高くなっています。

 一律10万円の特別定額給付金が支給されたことが急増の要因のようですが、お金を手元に置くいわゆる「タンス預金」の伸び率は、預金額のそれより高いはずです。

金利が低いとはいえ、多発する押し込み強盗などのリスクを考えれば、現金を手元に置くよりは銀行に預け入れておいたほうがよいのはいうまでもないことです。新型コロナで外出を控えたい気持ちを考慮すれば、現金を多めに手元に置きたい気持ちも理解できるものの、命の次に大切なお金なのだから安全なところに置いておく(預けておく)べきでしょう。

騙し取られたお金は戻らない

 一方、筆者も騙されそうになった「偽メール」ですが、メールの差出人が実在する銀行の正式名称を語るだけではなく、コールセンターへの問い合わせ先は実在する正式な電話番号でした。さらに「Eメールアドレスの変更方法」「個人情報保護について」などもご丁寧に記載されています。偽メールに記載されていた文章は以下の通りです。

「お客様の【三菱UFJ銀行の口座】が第三者に利用される恐れがあります。

本人使用じゃない場合、迅速にデバイスロックを実施して、セキュリティ強化、カード・通帳一時利用停止、再開のお手続きの設定してください」

 そして偽のアドレスが記載されていました。1度目は無視したのですが、2回も同じメールが来たうえ、インターネットバンキングを使用していることもあり、気になり銀行の正式なHPにログインすると、デバイスロック云々以下に書かれているメニューがどこにも存在しないのです。そこでコールセンターに問い合わせると、同様の問い合わせが相次いでいるようで、取引などを行わない限り決して銀行からメールを送ることはないと念を押されたわけです。

 実在する他の銀行、カード会社名などを騙る偽メールが皆様のところにも届いても、そこに記載されているアドレスを決してクリックせず、正式なHP経由であるかを確認する、あるいはコールセンターで確認するなど慎重な行動が求められます。

 決して他人事とは思わず、また「自分は大丈夫」と慢心しないことが大切です。金融機関側に落ち度がなければ、騙し取られたお金が戻ることはないと肝に銘じておくべきです。

(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)