井上の出方を探りながら、最適解を見出そうとリング上で頭脳戦を展開した中谷(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 井上尚弥(大橋)が3-0の判定勝ちを収めた5月2日の東京ドームで実現した世紀の一戦。死力を尽くして12ラウンドを戦いながらキャリア初黒星を喫した中谷潤人(M.T)だが、百戦錬磨のルディ・ヘルナンデストレーナーとともに練り上げた策は徹底した。

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 勝者となった井上が「すごく楽しい試合」と振り返った攻防は、まさに至高。リング上で拳を交わしたスーパースターが思わずにやけてしまうほどの緊迫感があった。最終的に3-0という大差はついたが、中谷陣営が「各所、各所につけいる隙はあった」(村野健会長談)としたように、数字ほどの差はなかったようにも思えた。

 結果論ではあるが、勝敗を分けたのは、序盤に生じた“差”だろう。1ラウンドから4ラウンドまでジャッジは全員が井上にポイントを付与。立ち上がりから必殺のカウンターを打ち込む隙を不気味に伺った中谷は、パンチの無駄打ちはせず。リーチ差を活かした中間距離を保ちながら慎重に戦っていた。

 試合後に「(パンチを)学ばせたくなかった」と証言した挑戦者からすれば、ボクシングIQに長ける王者を警戒した上での決断。決して「消極的」な戦術ではなかった。しかし、井上に対してロープを背にするような展開が続き、さらに至近距離での攻防も目立ち始めた中盤にコンビネーションブローを軸に形勢逆転を思わせる場面もあったことから、SNS上ではボクシングマニアたちから疑問の声が上がった。

「なぜ中谷は攻めなかったんだ」
「序盤で失った4ポイントは取れた」

 だが、万人が想像するほど「打倒・井上」は簡単ではない。米専門メディア『Boxing Scene』のアナリストで、ジュリアン・ウィリアムズ(米国)などの世界王者に導いた手腕で知られるスティーブン・エドワーズ氏は、「ナカタニが序盤に手数を出せなかったのは、相手がイノウエだったからだ」と熱弁。

そして、世間の声に苦言を呈した。

「初めてイノウエを見た時には、誰だって適応するのは楽ではないんだ。『もっと早く攻めればいいじゃないか』という単純な話じゃない。イノウエのような反応速度、パワー、そして瞬発力を持つ相手に対しては、策を固めて実行するのに時間がいる。ナカタニも6ラウンドぐらいかかった。彼も早く捕まえたかったのは間違いないが、ただ、できなかったんだ」

 エドワーズ氏が論じるように、カウンター戦術を徹底させるほど中谷を追い込んだ井上。完全無欠の才能を証明した怪物は、やはり恐ろしい。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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