大河ドラマ『真田丸』『西郷どん』『鎌倉殿の13人』、TBS日曜劇場『天国と地獄~サイコな2人』『マイファミリー』、さらには日本テレビ『真犯人フラグ』と、その確かな演技力で見る者の視線を集める俳優の迫田孝也。2023年は『VIVANT』の山本役で視聴者の心をつかんだ彼が、舞台『オデッサ』で2024年の幕を開ける。

これまで何度もタッグを組んできた三谷幸喜書き下ろしの新作に挑む迫田に、本作、そして続けて出演する舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』への思いを聞いた。

【写真】照れたような優しい笑顔がかわいい! 迫田孝也、撮り下ろしショット

◆三谷幸喜にもどんどん提案 新作『オデッサ』は“ニュー三谷作品”

 三谷幸喜による久しぶりの新作書き下ろし舞台となる本作は、三谷の信頼が厚い柿澤勇人、宮澤エマ、迫田孝也の3人が挑む密室劇。

 舞台は1999年のアメリカ、テキサス州オデッサ。一人の日本人旅行客がある殺人事件の容疑で勾留される。彼は一切英語を話すことができない。捜査にあたった警察官は日系人だったが日本語が話せない。語学留学中の日本人青年が通訳として派遣され、取り調べが始まるが――。

――これまで三谷さんの舞台作品には、『酒と涙とジキルとハイド』『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』などにご出演されてきましたが、今回のオファーをお聞きになった時のお気持ちはいかがでしたか?

迫田:前回『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』という作品に2019年に出演しまして、それから三谷さんの舞台にまた出たいと虎視眈々と狙いながら息をひそめていたんです。オファーを頂いた時は、待ってました!と喜んだのを覚えています。その時はどういう作品になるかはまだ決まっていなかったのですが、また三谷さんと作品を作れるといううれしさでいっぱいでした。

――その後、台本を読まれた感想はいかがでしたでしょう?

迫田:「あれ? どうなるんだろう?」とこの台本が実際にどうやって舞台上で表現されていくのか、想像がつかなかったです。英語と日本語、鹿児島弁と登場人物の言葉がそれぞれ違う…、これをどう形作っていくんだろうと。
唯一想像できたのは、おそらくこのワンシチュエーションの舞台で、言葉がかみ合わないことによっていろんなてんやわんやな騒動が起こるのかなということだけは読んでいて感じました。

――ジャンルとしてはミステリーになるのでしょうか…?

迫田:なんでしょうね? 今までやったことがないことを稽古場でずっとしているので…。単純に言ったらワンシチュエーションの会話劇ではあるんですが、かと言ってミステリー、サスペンス的な要素も確かにありながら、これまでの三谷ワールドにあるようなクスッと笑えるようなところもいっぱい散りばめられていますし…。それぞれの人間関係の中での成長や葛藤も描かれているので、やったことがないことばかりのてんこ盛りみたいな中で四苦八苦しています。…ニュー三谷作品といった感じでしょうか…。

――どういったところに、これまでと違う新しさがありますか?

迫田:僕は、今までご一緒させて頂いたときは三谷さんの頭の中にある世界をなんとか具現化したいと、三谷さんがおっしゃられることをなんとか形にして表現していこうと思いながら作り上げていっていました。でも今回は、地元の言葉でもあるので、鹿児島弁のセリフだったり、会話の中での言葉のチョイスだったりを責任を持ってどんどん自分から提案させていただきながら作っています。宮澤さんの英語もそうですし、みんなで知恵を出しながら作っているというところが今までとは確実に違うと思っています。

◆三谷幸喜は「得体の知れない人です」

――柿澤さん、宮澤さん、迫田さんと、芸達者な皆さんがそろう稽古場の雰囲気はいかがですか?

迫田:みんなめちゃめちゃ英語が上手なんですよ! 宮澤さんはわかるんですけど、柿澤君が稽古初日から英語のセリフをペッラペラしゃべっていて。「あれ? カッキー、インターナショナルスクールとか行ってたの?」って思うくらい普通に使いこなしているので、そんな武器を隠し持っていたんだと驚きました。年齢で言ったら僕は2人よりも上になるんですが、尊敬しています。稽古場で対峙し、英語でやり合ってるおふたりを見て、すごいなって思いながら同じ舞台上にいます(笑)。


――今回迫田さんが演じられるのは、殺人容疑がかかる日本人旅行者ということで、巷では、「また迫田さんに容疑が…」との声もありました。

迫田:ドラマでそういった役が多かったからですかね(笑)。ただ迫田がやっているだけで、“あいつが普通にいなくなるわけない”っていう印象を抱かれますので、今回はそんな印象を払拭したい、裏切りたいなと思っています(笑)。

――今回演じられる役のここを見てほしい!というポイントはありますか?

迫田:鹿児島弁を話す役で、英語はまったくわからないという役なんですが、英語をちゃんと聞いていないと、自分のセリフをいいタイミングで入れられないんです。陰で迫田孝也は英語もめっちゃ聞いているからな!というところも見ていただきたいです。わからないふりをしていますが、脳みそはフル回転しています(笑)。

――(笑)。迫田さんと三谷さんは、映画『マジックアワー』からのお付き合いですね。

迫田:初めて三谷さんとお会いしたのは、『マジックアワー』のオーディション会場でした。『うわ―! 本当にいるんだ』って思って。映画『12人の優しい日本人』を観て、「僕はこの人と一緒に仕事をするんだ!」と思って俳優を目指して上京してきたので、やっと来たこのチャンスは絶対ものにしてやる!という思いでオーディションを受けました。

――三谷さんは迫田さんについて「俳優迫田孝也さんの得体の知れなさは底なしだ」とおっしゃっていましたが、迫田さんにとって三谷さんはどんな方ですか?

迫田:得体の知れない人です(笑)。
本心は全然わからないです。作品としてはいろいろ関わらせていただいているんですが、僕と話している時も、これは本当のことを言っているのか、嘘のことを言っているのか…、まったくわかりません(笑)。

◆『ハリポタ』ロン役は「演じるというよりも楽しんでいるという感覚の方が強い」

――2023年は、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にもご出演されました。2024年も『オデッサ』の後に再び登板されます。

迫田:実はまだ2ヵ月くらいしか出演していなくて。俳優をやっていても、1つの役をこんなに長く演じる経験はなかなかないので、毎日新鮮な気持ちで臨めるかというのが課題でもあります。でも作品が面白いから、やっていて楽しいんです! みんなが毎日エンターテインメントショーとして驚いてくださるので、それだけでやりがいがあります。

――演じられるロン・ウィーズリーはどんなキャラクターですか?

迫田:お調子者というところ、あんまり物事を深く考えずに行動してしまうところは、僕と似ていると思います(笑)。演じているというよりも楽しんでいるという感覚の方が強いかもしれません。

『ハリー・ポッター』シリーズは原作ファンの方もたくさんいらっしゃいますし、それぞれが思い描くキャラクター像があると思いますが、今回僕が演じる舞台でのロン・ウィーズリーは、いろんな顔を見せてくれるロンなんです。みなさんが思い描くキャラクター像に固執することなく、ロン・ウィーズリーのいろんな面や雰囲気を楽しんでいただければと思って演じています。

――ハリー・ポッター、ハーマイオニー・グレンジャーなどダブルキャスト、トリプルキャストの皆さんとのお芝居は、大変なのではないかと想像してしまうのですが…。


迫田:セリフの間1つとっても全然違いますし、相手への言葉の届け方も違います。心を柔らかく柔軟にしておかないと、決まったお芝居になってしまうので、なるべくフラットに舞台に立とうと気を付けています。

――映像と舞台、迫田さんご自身の中ではどんな違いがありますか?

迫田:舞台は毎日同じステージの上で、同じ役を演じていますが、毎回自分の課題と勝負できるというか、何回も同じ役として勝負できるというところが魅力の1つでもあり、成長できる機会でもあります。映像は逆に一発勝負、その日の撮影の中でできることの最適解をお芝居で出せるように準備して臨みます。まったく別というか、お芝居の楽しみ方が違うと思っています。それぞれ魅力的で好きです。

◆大反響の『VIVANT』山本役 放送前には恐怖感も

――2023年の迫田さんを語る上で『VIVANT』で演じた山本役は避けて通れません。前半のみのご出演ですが、大変インパクトのある役どころでした。

迫田:皆さんからの反響はありがたく頂戴いたしましたが、放送されるまではちょっと怖いところもありました。あの堺雅人さんに唾ひっかけるなんて…! 放送されたら袋叩きにあうんじゃないかと怯えていたんですが、幸いにも、お許しをいただけたはずです…。SNSですぐに謝ったのがよかったんだと思います(笑)。でも本当に、クズな役であっても、あの作品の登場人物の1人として大きな反響を頂けて、とてもうれしかったです。


――最近はドラマへの出演が発表されると、今回の迫田さんは信じていいのか? また今回も悪いのか?という声でSNSがにぎわいます。そうした声は…。

迫田:もちろん届いています。そういう役を任せていただくことも多かったので、今回は何もないのにな…という役でも、今回はどっちなんだ…?という世論に左右されて、撮影中に心が勝手に揺らいでいました(笑)。

――今後こういう役に挑戦したいという思いはありますか?

迫田:どんな役をやりたいというよりも、この役をやってほしいと言っていただけた、その思いに応えたいという気持ちの方が強くあります。それがどんなにクズであっても、どんなに優しくても、作品の中でその役の人生を全うしたいと思っています。

(取材・文:編集部 写真:高野広美)

 舞台『オデッサ』は、東京・東京芸術劇場プレイハウスにて2024年1月8日~28日、大阪・森ノ宮ピロティホールにて2月1日~12日、福岡・キャナルシティ劇場にて2月16日~18日、宮城・東京エレクトロンホール宮城にて2月24日~25日、愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホールにて3月2日~3日上演。

 舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は、東京・TBS赤坂ACTシアターにて上演中(迫田孝也は2024年3月公演以降に出演する予定)。

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